第43話:決意

 第七艦隊“リンカーン”から出撃した艦載機は全機撃墜されたが当の第七艦隊ではいきなりの通信途絶に訳が分からず大騒ぎであった。


「突然、レーダーから消えたぞ!? 機器の故障ではないか?」


「それはないと断言します! いきなり160機全てがレーダーから消えたり通信途絶するわけがありません!」


 艦橋で参謀たちが悲鳴に近い声で話していたが突如、対水上レーダーが反応してCICから連絡が入る。


「指揮所から、例の目標らしき物を捕捉しました! 情報を共有します!」


「CICから、正確な目標発見! 目標の位置、速度を共有します!」


「艦船を捕捉! あれは……白鯨! 伊400です、情報をすべての艦艇関係部署と共有します!」


 ロボスは彼らの声を聴きながら海上のほうへ目を向けると右舷後方に二隻の戦艦が力強く進んでいる。


「……レールガン搭載戦艦か、最適射程距離170キロが最大の力で破壊出来るということだがあの伊400のレールガンの性能は恐らく遥かに凌駕しているだろうな」


 ロボスの言葉は正しく伊400が搭載している15センチレールガンの特徴は改良に改良を重ねた結果、空気抵抗が0に等しいのでマッハ7で発射された弾丸は命中するまで速度を落とさないでいける恐ろしき物である。


 ちなみに安全対策として目標に万が一命中しなければ即、自爆するプログラムが組み込まれている。


 第七艦隊は全速力で日本領海に向かって航行していて既に衛星から詳細な位置情報を送られてくる。


「……日下艦長、貴官はあまりにも我々を舐めている! 41センチレールガンの威力を思い知るがいい。潜水艦が浮上航行とは……な!」


 その日下は、特に米海軍を舐めているわけではないがプラズマシールドの絶大な信頼と信用を寄せているのである。


 伊400司令塔では光学迷彩シールドで覆われている“晴嵐”からリアルタイムで第七艦隊の様子が送られてきているのである。


「航空戦力がほぼ枯渇したが突き進んでいるな? 恐らくだがあの戦艦を切り札としているのかな?」


 日下はモニターに映し出されている戦艦二隻を眺める。

 吉田技術長の代わりに友永技術中佐が日下の横にいて戦艦の特性を司令塔の皆に説明していた。


「あの戦艦は皆様も御存じの通り“ニュージャージー”と“ミズーリー”です。しかも映像から分析した所、信じられませんが41センチ砲全てがレールガンだという事が分かりました」


 友永中佐の言葉に皆が驚愕して友永のほうを向くと日下と橋本も彼のほうを向く。


「“晴嵐”から送られてきた映像を見ますと通常の砲塔型式ではありません! 初期のレールガンタイプです」


「確かに砲塔が特殊だね? 正しくレールガンだな。しかし……電力はどうしているのだろうか? 蓄電池でも搭載しているのかな?」


「ええ、艦長のおっしゃる通りです! 恐らく艦内には至る所に蓄電池が設置されていると断言出来ます。それ故、乗員も最低限でしょうし一回限りの発射でしょう。連発は不可能ですので一撃必殺を狙っています」


「……ふむ、ちなみにあの41センチレールガン全弾直撃を受けても装甲ダメージは殆どないと思うが……友永中佐の意見は?」


「はい、装甲ダメージは0.00000001%かと? ただし、衝撃は凄まじいかと? 重力操作装置でもあれば別ですが」


「……よし! 奴らを油断させるために全弾、うけてやろうかな?」


 日下の言葉に司令塔にいた全員がにやりと笑みを浮かべるとそれは面白うそうですね等の言葉が出てくる。


 その時、CICの徳田大尉が司令塔に入ってきてレールガンの砲弾を撃ち落としたことがないのですが数発若しくは全弾、迎撃する許可を頂きたいのですが? と聞いてくる。


 日下は少し驚いた表情で出来るのか? と聞けば徳田はドンと胸を叩きながら任せてくださいという。


「迎撃は20ミリレーザービーム砲で対処します。半数ぐらい撃ち落としてみたいのですが?」


「了解した! CICの腕前を見せてもらおうか!」


 日下の許可を得た徳田は敬礼すると司令塔を出て直ぐにあるCIC室に入っていく。

 ちなみにこのCIC室は幹部で言えば日下と橋本しか入室出来ないのである。


「艦長! 敵戦艦がレールガンを発射する予定時間まで後、1時間後です!」


「よし、その前に生き残れる最後のチャンスを彼達に与えてあげよう」


 日下は第七艦隊が使用している無線周波数に合わせて“リンカーン”ロボス司令に無線を送る。


 直ぐにロボスと通信が繋がり日下は無線マイクを手にとってロボスに送信する。


「こちら伊400艦長、日下敏夫です! 感度はいかがですか?」


「こちらロボス、メリット5で鮮明に聞こえる、どうぞ?」


「……ロボス提督、最後通告です! どうか艦隊を転回して日本領海に入らないでいただけますか? 貴官があくまでも日本領海に入るならば我が艦は貴艦隊に対して全面攻撃を行うつもりです。どうか、再考してもらえないでしょうか?」


「……日下艦長、今の私の心境は……ファックだ! 我が米国海軍は過去を含めて現在、そして未来永劫、世界最強の存在なのだ! 過去、いかなる敵も我が海軍の栄光を貶めることはできなかった! そう、100年前の大東亜亜戦争での日本連合艦隊にもだ!」


「……ロボス提督、そんな陳腐なセリフ……似合わないですよ? しかし……その言葉が貴方の本心でもあるのですね? 残念です!」


「……そうだな、勿論我が海軍の敗北は無い! 日下艦長、白鯨こと伊400の最後を見届ければ花の一凛でも備えてあげよう。それではグッドラック」


 無線通話が強制的に終了して日下はじっと無言でマイクを握っていたが暫くすると何か決意をして顔を上げると正に歴戦の強者の表情をしている


「魚雷発射用意! 先ずは第七艦隊の真下にいる潜水艦6隻を地獄に落とす!」

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