第42話:新旧交代?
グアムへ向けて出撃する前夜、日下は一人艦橋甲板にて月明かりの海面を特に何も考えることもなく眺めていた。
時間は0100時で流石に眠くなってきたので艦の中に入ろうとした時に吉田技術長が甲板に出てくる。
「艦長、未だ起きていらっしゃったのですか?」
「ああ、夜風に当たりたくてね? ……久しぶりに少し話でもしませんか?」
「ええ、喜んで」
吉田は日下の隣のほうに行くと日下と一緒に海面を眺める。
波が甲板を洗い流す音を聞きながら暫くの間、沈黙が続くが日下は思い切って吉田に問いかける。
「吉田さん、ここ数週間の間、様子が変だと思っていましたが……図星ですか?」
「……はは、流石は艦長だ! ええ、ちと考えていました。今後のことを」
「ほう……となるとこの世界に残るおつもりですか?」
日下の問いに吉田は頭を掻きながら同意するが今はこの世界での役割をきちんと終えてから答えを出しますという。
「……何が吉田さんの肩を押し出したのですか? 朝霧翁がいたあの世界からずっと数百年間もの共に過ごしたこの艦(伊400)から出ることを?」
日下の問いに吉田は海面を眺めながら自分の思いを語ったのである。
「今まで数え切らない世界の日本を見てきましたがこの世界の日本は私にとって理想の世界なのです。うまく言えませんが私の中の魂がこの世界に残るのだと強く言っている感じがするのです」
うまく表現出来ないようだが吉田の硬い熱意は本気だと感じ取った日下は笑みを浮かべると首を縦に振る。
「……本気だということが分かりましたよ。取り合えず、この世界での役割が終わったときに未だ残りたいと思っていれば私は喜んで送り出しますよ」
日下と吉田はお互い顔を見合わせると笑い出す。
数分後、笑いを収めた二人は握手をしながら未だこの世界でやらなければいけないことが多々あるので気が変わればそれでよし! と日下は言う。
吉田が何か思いついたようで日下に答える。
「私の後任ですが『友永英夫』技術中佐を推薦します。副として『庄司元三』技術中佐のコンビとして私の後の任務を継いでもらおうと思っています」
「やはりそうなりますね? うんうん、友永中佐や庄司中佐なら安心してこの伊400を任せられます」
この両名は10年前にとある並行世界で出合って有名な友永中佐と知って日下は二人をスカウトしたのであった。
「何しろ、潜水艦トイレの大革命者ですからね? 後、重油取扱いに関しても装置の発明までする優秀な技術者です」
日下の思った通り、この十年間の間に吉田から色々と知識を学び今では核融合は勿論、反重力等についても熟練の域であった。
「武御雷神の矛についても連続エネルギー注入装置を発明してくれたお陰で連射可能になったからな」
日下と吉田が二人のことを褒め称えていると噂の二人が出てきて核融合定期点検最終チェックしますので立ち合いをお願いしますと友永が言うと吉田は頷くと日下にそれでは行きますのでといい、艦内に入っていく。
友永と庄司が日下に敬礼をすると艦内に入って機関室に向かう。
日下はふっと笑みを浮かべると夜空を見上げる。
綺麗な満月が真上で輝いているのを見て日下は呟く。
「あの月は全ての並行世界から見える同一の月……か。艦を降りて行った皆は今頃どうしているのだろうか? 彼らもあの月を見上げているのだろうか?」
暫くの間、月を眺めていた日下は今度こそハッチから司令塔に戻るためにハシゴを降りていく。
司令塔に入ると、ひと眠りするためにそのまま出て艦長室に入る。
ベッドに横たわると自然と瞼が重くなり眠りの世界に入っていったのである。
♦♦
一方、吉田と友永・庄司の三名は食堂で冷たいラムネを自動自販機から取り出して飲んでいた。
「吉田技術長、例の件ですが実現の目途が立つかもしれません」
「ほう……? それは上々だな、例の問題点は解消できたのかな?」
「はい、発想の転換でカクカクシカジカ」
吉田は友永にパーフェクトだと褒めると彼は嬉しそうに笑みを浮かべて引き続き説明を求める。
「物資の分解は出来ましたがそれに至るまで莫大な電力を消費したので再びそれを構成させるための電力を取得できませんでした。結果的に言うとドローンロケットミサイル程度の大きさなら実現可能です。後は実験を重ねて半年もあれば実用できるレベルになります」
吉田は大いに二人を褒めるとこれで伊400の戦術の幅も増えるなと言い満面の笑みを浮かべていた。
友永は意を決して吉田に本当に艦を降りるのですか? と聞くと吉田は首を縦に振りながらそうだと言い、友永・庄司ならこれからの伊400を十分に支えられると太鼓判を押すが両名は不安そうな表情であった。
「まあ、今はこの混沌とした世界で伊400が果たすべき使命を終えるまではこの艦にずっといるよ?」
「出来れば技術長にはこの“瞬間物質転送機”の完成までいてほしいです」
二人の言葉に吉田は嬉しく思ったが恐らくギリギリだろうなと思ったのである。
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