第41話:攻撃開始!

 日下がロボス提督に送った電文は無視されたようで伊400艦内ではいよいよ決戦だなと言う雰囲気に支配されていた。


 現在、伊400は洋上航行に切り替えて無駄に目立つようにしていたが要望している通り、直ぐに米国偵察衛星によってキャッチされていた。


「白鯨は現在、南鳥島西方20キロ海上地を洋上航行しています」


 第七艦隊旗艦“リンカーン”艦橋室でロボス提督は偵察機から連絡を受けて頷く。


「イエイローモンキーのジャップめ!」


 参謀達が艦載機を発艦させて長距離対艦ミサイルの雨嵐で撃沈しましょうと具申してくるがロボスは白鯨には何の影響もないだろうと確信していたが他の者達はそうは思っておらず所詮、黄色い猿の下等民族と言う潜在意識があるのでジャップ恐れるに足りんと大多数の乗員は思っていた。


「たった一隻の潜水艦に度を過ぎた慎重に慎重を重ねていては、世界最強と言われる我が第七艦隊の沽券に関わります! 艦載機を一気に出して対艦ミサイルの雨をお見舞いしてやりましょう!」


 参謀達の言葉にロボスは許可を出さなかったがハワイにある海軍基地から直ちに補足している平行世界を旅しているという妄想に狂った艦長が指揮する潜水艦を撃沈しろとの命令が下され、それは大統領直々だという事。


「……よし、命令なら仕方がない! 普通ならアスロックだがあの白鯨は堂々と洋上航行をしていて潜航しないように感じる故、全機発艦して一気に対艦ミサイルの雨を以て白鯨を沈める。もし、その攻撃を潜り抜ければ41センチレールガン全弾をプレゼントしてあげよう」


 ロボスの言葉に皆が士気を奮い立たせ元気よく各々の持ち場に散っていく。


 だが、ロボスの脳内には皆が思っている弱弱しい船ではなく全世界の軍隊と戦っても圧勝する伊400の姿しか思い浮かべれなかったのである。


 だが、やるからには全戦力を以て相手になると心に誓う。


「(……どうやら貴官とはあの喫茶店でコーヒーをお互い飲むことは永久にないだろうな……)」


 そんな事を思っていると参謀から全艦載機が出撃していきますとの報告を持ってきたので艦橋から出ると続々とカタパルトから最新鋭機が射出されていくのが見える。


「……やはりいいな、米軍マークを付けた我が国が誇る艦載機の姿は」

「ええ、世界の秩序を守るのはアメリカ合衆国です! これは歴史的不変です」


 “リンカーン”を守護している各巡洋艦や駆逐艦も威風堂々と波を立てて航行しているのを見たロボスは改めて心の奥底に潜む米国軍人としての誇りが表舞台に出てきたことを感じる。


 だが、その誇りは無残に砕かれるのである。


♦♦


 伊400司令塔では日下が無念の表情をしながらCICに迎撃命令を下す。


「……彼の事だ、総戦力で来るはずだから対空迎撃ドローンランチャーを展開して一気に敵機を葬る!」


 日下の言葉にCIC徳田大尉が了解ですと返答する。

 既にCICでは1200キロの距離に位置する米艦載機群をレーダーで捉えていて対空ドローンミサイルに各目標を自動計算してインプットしていく作業が実施されている。


「距離400キロに達した時に全弾発射だ! 160機が一瞬で爆散する」

「これぞ現代のマリアナ七面鳥撃ちですね? マッハ6の高速で標的に向って接触と同時に大爆発する物ですね」


 少し離れた所にいる乗員の一人が答えたが日下は一言だけそうだなと言いモニタースクリーンを見つめる。


 人工衛星“大鷲”から送られてくる大編隊の米軍艦載機を見ながら日下は彼らの冥福を祈る。


「後、何分だ?」

「後、五分後に発射です!」


 日下はそれを聞くと再びハッチから艦橋甲板に出る。

 そこで橋本先任将校が双眼鏡で周囲を確認していた。


「艦長、雲一つない快晴ですね? まあ、艦長の心は曇り空でしょうが」


「いや、そうでもないさ。だがね……同じ魂を持つ者も違う平行世界に行けば全く違う運命を辿ることになるという事にその仕組みが全く分からない」


「……成程、哲学的な考えですね? まあその答えは神のみぞ知るでしょうね?」

「そうかもな……」


 日下がそう言った時、司令塔から後22秒後に対空ドローンミサイル発射しますとの連絡が入る。


 日下と橋本はお互い表情を見ながら頷く。


 告知通り22秒後きっちり経過した時、500連発ドローンランチャーから白煙と轟音と共にドローン小型ミサイル160発が発射されたのである。


♦♦


 空母“リンカーン”から出撃した艦載機群は攻撃態勢用の編隊飛行にて飛行していたが何故か緊張感がほとんど見られない状況である。


「隊長、たかが潜水艦一隻にここまでする必要があるのですか?」

「そうですよ、たった一隻で何が出来るのでしょうね?」


 軽口をたたきながら飛行していて隊長も緊張感が欠けていた状況である。

 その時、全機の警報ランプが赤く点滅する。


 これはロックオンされた時に分かるランプで回避行動を一瞬の間に取らなければいけない状況だったが戦闘という気持ちが無かったため、反応が遅れる。


「え……?」


 隊長機以下全機が次の事を考える暇もなく一瞬で爆散して細かい破片が雨のように海面に叩きつけられたのである。


 空母“リンカーン”CICからロボス司令に艦載機全機が今しがた、突然、レーダーから消えたとの連絡が入ると共に通信も途絶したという事を報告してくる。


 一瞬、真っ青になったロボスであったが直ぐに偵察機を出して確認するように伝えると数分後にはカタパルトから偵察機が射出される。


 ロボスの心の中では全機撃墜されたのだろうと確信を持っていたがそれは誰にも言えなかったのである。


「(……それでも命令なら従うのが軍人の役目……)」


 この時点でロボスは自分の末路を確信したが他の部下達の命は助けてやりたいと思い交渉する事を決意するが一度は直に戦うことが必要だと。

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