第38話:千島列島奪回戦②

 ロシア艦隊を瞬時に葬ったのは言わずとも伊400であった。


「ロシア艦隊、全滅を確認しました」


 CICから連絡が入ると日下は僅かに頷くと橋本の方へ顔を向けると米国の動きについて確認する。


「ロシアの問題はもう終わって後は日本に任せるだけだが米国は日本国内に駐留している在日米軍全て引き上げるとの事。これは……本格的に狙うと思う方がいいのかな?」


「う~ん……私の意見としては案外、様子見かと思いますが? もし、敵対条項に添って動くのなら在日米軍を動かして一気に霞が関周辺を制圧するほうが楽ですしね?」


「やはり君もそう思うか。うん、私もその考えだ! 米国大統領が暗殺された事によって大幅な政策変更が決定されたんだろうね?」


「しかし、大統領暗殺とは……。しかも白昼堂々と……それもSPによってです」


「……あれは真崎大将の仕業に違いない。全財産を掛けてもいい。 あの男、有能だが目的達成の為なら何でもする表情をしている」


「確かに冷酷で冷静な人物だと第一印象で感じました」


「まあ現状は米艦隊の動向だな? 第七艦隊がグアムまで後退したから今すぐと言う訳で攻めてくることは無いだろうが」


「引き続き、監視はきっちりとしていますので」


「うん、よろしく頼むよ。それでは日本の活躍を見させて頂こうかな?」


 日下はそう言うと艦長席に座り、人工衛星“大鷲”から途切れなく送られてくる映像を 見ることにする。


♦♦


 一方、日本艦隊はロシア艦隊が一瞬で全滅した事に驚いたが直ぐに作戦を展開する事になったのである。


 占守島上陸第一陣としてLCU輸送艇10隻(総員500名)が上陸して74式戦車20両を積んだLCACエアクッション艇20隻もそれに続くことになり、30分後には第二陣として残り半分が上陸する事になっていたのである。


 輸送艦“さがみ”にて占守島司令官として同島に留まる『池田末男』大佐がズラリと整列している将兵に向って演説する。


「我々は100年にも渡る不当に制圧された北方領土奪回を胸にひたすら秘める事に努めてきた。そして、今ここに降魔の剣を振るう時が来たのだ! そこで皆に敢えて問う。貴官達はいま、赤穂浪士となり恥を忍んで将来に仇を報ぜんとするか、あるいは白虎隊となり、玉砕ではなく勝利をもって我が日本民族の防波堤となり後世の歴史に問わんとするか。赤穂浪士たらんとする者は一歩前に出よ。白虎隊たらんとするものは手を上げよ」


 池田大佐の言葉に皆が一歩前に出ると共に手を挙げる。

 それを見た池田は満足そうな表情を浮かべると共に大声で命令を出す。


「全員、艇に乗船だ!」


 一糸乱れない隊列でLCU輸送艇に次々と乗り込んでいく将兵達。その横には74式戦車を積んだLCACエアークッション艇が今か今かと出発を待っている。


 上陸予定の半数が乗船して準備完了の報告を受けた第4艦隊司令官『田端悦司』少将が出撃の合図を出す。


 それを見た各艇がエンジン音を響き聞かせて占守島の浜辺へ向けて出発する。

 奇しくも100年前にソ連が上陸した竹田浜である。


 彼らがすることは先ず、防衛機構の設立だがそれと共に未だ荒れた大地に埋もれている両軍の遺骨収集をする事である。


 上陸は何の抵抗も一切受けなく全て順調に進み二時間後には島全域を制圧して旧日本軍司令部跡に日章旗が翻る。


 万歳万歳万歳三唱が叫ばれると同時に各護衛艦から祝砲が放たれる。


 そして最小限必要な物資や機材が運び込まれていき一週間後には本土から要塞基地とするための機材が本格的に運び込まれる予定である。


 それまでの護衛として“ながと”“きくつき”“はるつき”“かりゅう”が留まる事になる。

 その状況を見ていた伊400では日下が満足そうに頷いている。


「先ずは上々だね? ロシアは抗議するだろうが奪回しようとは思わないだろう。それよりも欧州で戦火が噴き出してそれに対応する事に必死だろうね? そしてロシアと同盟をしている旧ソ連の国々が離れていく気配を見せているからそれに対応しなければいけないから極東に構うゆとりはないか」


 日下の言葉に司令塔にいた全員が同意する。

 映像を見ていた橋本が第4艦隊が南下していきますと言うと日下はそちらに目を向けると頷く。


「当艦は米国の動向に目を向けると同時に陰ながら日本艦隊を見守ろうではないか」


「ええ、それと第4艦隊は千島列島奪回後、択捉島に駐留するのですね? さしずめ単冠湾に集結でしょうか?」


「うん、そうだろうね。さあ、我らも進むかな? 占守島に何かあれば“晴嵐”を射出するから陰ながら援護しよう」


 そう言うと日下は休息の為、艦長室に行くことにして後を橋本に頼むと艦長室へ向かって行きそれを橋本は見送る。


 日下は艦長室に入ると上着を脱いでコーヒーを注いで椅子に座り、机の上に置いている立体映像通信機のスイッチを入れる。


 直ぐに相手が小さい立体映像が飛び出してきて笑顔で挨拶してくる。


「おおっ! やっと繋がったか。日下艦長も元気そうで至極上々! まさか時空と平行世界を超えて話せるとは夢にも思わなかったぞ?」


「ええ、私達の時間間隔で言えば実に数百年ぶりですね? 朝霧翁様」


 そう、大東亜戦争で特に活躍もせずに戦後、米軍により調査後、撃沈された悲運の伊400潜水艦を最新鋭技術の塊の潜水艦に改造した朝霧コーポレーション会長である朝霧翁であった。


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