第35話:千島列島奪還作戦会議

「それでは昨日に言った通り、千島列島奪回作戦について議論したいと思います。既に分かっていると思われますが戦後初の実際に軍を動かしての実戦ですので遠慮なく意見を交わしてください」


 会議の司会者が壇上を降りると早速、一人の旧陸上自衛隊の幹部が手を挙げる。

 司会者が彼に答弁を許可すると彼は立ち上がって先ずは自己紹介する。


「初めまして、私は北部方面隊第七機甲師団長『菊池年永』中将です、今回の作戦ですが陸上部隊は機甲師団の投入はあるのでしょうか?」


 菊池中将の問いに真崎大将が立ちあがってその問いに対して答えると彼はう~んと言いながら着席する。


「菊池中将の質問だが現在、千島列島に配備されているR軍には大規模の戦車師団は確認されていないが五個戦車中隊規模を参加させる予定である。旧式に当たるが74式の投入を考えている」


「74ですか、確かに最適な車両ですな。サスペンサーで自由自在に車高を変えることが出来て走行しながら砲撃が出来ますからね」


 第11戦車連隊長『池田末男』大佐が縦に首を振りながら賛同すると他の陸軍の者達も頷く。


 とっくに引退して廃棄処分にされそうになっていたが万が一の為に保管されて手入れが為されていたのである。


「先に皆さまに言っておきます。参加する兵力を発表します! 尚、台湾・フィリピン・インド洋方面の部隊は勿論、参加しません」


 そういうと大会議室に吊るされている巨大なスクリーンに参加部隊及び兵力が映し出される。


「ほう……第4艦隊に第4潜水隊と掃海隊群輸送艦3隻か。かなりの強力な部隊だな」


「空軍はF35・F2・F15合わせて100機……か。制空権を果たして取れるかどうかだが機体の性能もパイロットの技量も露助よりも上だから特に心配しなくてもいいかもな」


「陸上兵力についても約一個師団だが充分な兵力だ。だが、制海権をきちんと手に入れないといけないな」


「潜水艦攻撃については世界最強と言われているので大丈夫だし露助の潜水艦の位置は全て把握しているから大丈夫だ。我が日本海軍は米海軍以外、怖くない!」


「しかし、懸念はあるのでは? R国が3年前に超音速ミサイル“モスキートⅢ”の配備完了したのが? マッハ8を誇る巡航ミサイルです」


「それの対応は既にあるので心配はない。流石に数百発一斉に来られたら危ないが今の世界情勢において極東のみ配備するのはありえない」


 橋本は目立たないように黙って皆の話を聞いていたが心の中であまりにも楽観視している危険性を感じていた。


「(伊400なら単艦で極東のR軍全てを潰滅させる事が出来るが……実戦を全く経験していない自衛隊からの出発だから果たして……いけるかどうか? 間違いなく引き金一つで死か生が決まるからな。)」


 元々、橋本大佐は伊400でも影に徹しているので殆ど目立たない存在で日下以外には認識されずにいるのが多いのである。


「参加兵力は以上だがこれより先の二つのどちらかの案を採用するかの会議を再開するから遠慮なく意見を言ってくれ」


 スクリーンに映し出された千島列島全域の地図が表示されると皆が一斉に黙り込み一瞬で静寂になる。


「先ず第一案だが全兵力で択捉島を含む4島を一気に制圧してそこを拠点として北に向かって行くか二手に分かれて千島列島北方と択捉島方面の二方向同時攻撃を行うかどっちかだ」


 この内容について多々熱き議論がされたが数時間経った現在でも決まらないのであった。


 平行線を辿りそうな雰囲気になり始めた時、第七機甲師団第11戦車連隊長『池田末男』大佐が立ち上がっていっそこのまま全軍、千島列島北方方面に向かって先に占守島を制圧してカムチャッカ半島から来るR国軍を阻止しながら南下していく方法ではどうか? と提案してくる。


「必ずロシア軍上層部は択捉方面から制圧してくるだろうと考えていると断言できる! 何故なら彼らは北方領土問題は4島だけという認識にある故に」


 池田大佐の言葉に他の出席者達も成程と感心すると共に橋本もこれは良手だなと思っていた。


 この会議の内容を橋本の腕時計を通じて会話のみだが伊400にいる日下の元にも届けられていたのである。


 伊400司令塔で日下は首を縦に振りながら感心する。


「あの池田大佐ってかつて占守島の戦いでソ連の侵攻を阻止した英雄ではないか。もしかしたら彼は生まれ変わりなのかもしれないね? 最も記憶は無いのが普通だが?」


 会議はそのまま続き最終的には池田大佐の案を採用する事にして先ずは択捉島方面に侵攻すると思いこませる事を実施することになる。


「その件については謀略を実施する。長年、日本の情報をロシアに流していたスパイを拘束拘禁しているが奴にやってもらう。最も、死体となってね?」


「……悪辣ですね? まあ、スパイは死刑ですので最後くらいは我国の為に役立ってもらわなければいけませんね? その死体に偽の重要書類でも持たせるのですか? 嘘八百の?」


「そうだ、やり方はかつて第二次世界大戦でナチスドイツと英国が繰り広げた謀略戦を真似させてもらうのだが」


 橋本は黙ってその方法を口にした人物を観察すると心の中であれは公安の者だなと確信を持つ。


 その公安の人物と橋本の目が合うと彼はペコリとお辞儀をして口に出す。


「そう言えば、この会議場にはあの現代レベルの常識と懸け離れている伊400潜水艦の副長が参加されていますが彼にも意見を聞いてみてはいかがですか?」


 橋本は急に指名されたので少しだけ驚いたが直ぐに立ちあがり簡単な自己紹介をしたが自分はあくまでも聞きに徹するだけの役目を受けているのでおいそれと簡単には言えませんと言い、再び椅子に座る。


 その公安の人物もそれ以上は何も言わずに無礼の程、失意しましたと詫びて何もなかったように席に座る。


 そして最後に真崎大将が立ち上がりこの戦は絶対に負けられないので各員一層奮励努力せよと言うと皆が立ち上がって歓声を上げる。


「補足だが海軍の旗艦となる“ふそう”にはZ旗を掲げてもらうのでよろしく頼む」


 この言葉で増々、士気が増幅して興奮冷めぬまま会議は終了して今から各々の部隊に戻り準備を実施する事になる。


 橋本も立ち上がり、日下に迎えの“晴嵐”を寄こしてもらうように言うと岩本機を派遣するとの返答があった。


 他の出席者達から食事会に誘われたが橋本は丁重に断って外に出ると東京湾に向かって行くが尾行に気付く。


「やれやれ……よっぽど脅威と見られているか。まあ、確かに得体の知れない我々だからね?」


 そう呟くと橋本は襟首を触るとボタンがありそれをオンにすると周囲の景色に溶け込んで姿が消える。


 尾行者は慌てたように走ってくるがどうしようもなく誰かに連絡する。

 それを遠くから見ていた橋本は御苦労さんと呟いてそのまま歩き始める。

 光学迷彩の服である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る