第34話:それぞれの思い

 市ヶ谷国防省(旧防衛省)では来月に開始する千島列島奪回作戦を実施するための会議が開催されていた。


 旧防衛省制服組出身である『行長道隆』大将が全指揮を執ることに決定して日本全国の陸軍駐屯地司令官や空軍基地の各司令官が所狭しと集まっており未だ会議も始まらない前でも各々の持論や作戦を話し合っていた。


 その中に一際威厳を纏った一人の男が椅子に座って目を瞑っている。

 旧日本海軍の大佐の肩章をつけた軍人であった。


「橋本大佐、お待たせしました。間も無く真崎大将と笠間総理が入室してきます」


 司会役の少佐の肩章を付けた男性が橋本と言う軍人に声を掛けると彼はゆっくりと目を開けて頷き了解したと言う。


 『橋本以行』大佐、又は先任将校であり伊400艦長『日下敏夫』少将の代役でこの会議に参加したのであった。


 本来なら日下が参加する予定であったが伊勢神宮放火に伴う内宮が焼け落ちた関係で祭主とやりとりをしなくてはいけなかったのである。


 会議室のドアが開くと内閣総理大臣『笠間水江』と防衛軍最高司令官『真崎純一郎』大将が入室してくる。


 全員が起立して二人の方へ正対すると敬礼をする。

 笠間と真崎も答礼の敬礼をすると着席を命じる。

 全員が着席すると笠間がそのまま立ち上がりマイクを手に取って喋る。


「遂に……遂に……この時がやってきました! 100年前、不当に占領した我が国の固有領土である千島列島をR国から奪回する時が来ました! 靖国に眠る英霊達も喜ぶことでしょう! 皆に言います、北方領土返還と言われてきましたが奪われたのは千島列島全体です! 4島だけではありません! これより我が国は千島列島全てを取り返す戦いに投じます」


 笠間総理の言葉が終わった瞬間、会議室全体が大歓声と拍手の嵐が起きる。

 皆が顔を見合わせながら頷く。


 その様子を見た笠間は笑みを浮かべると真崎の方へ顔を向いて後はお任せしますと小声で言うと真崎は頷く。


「諸君、偉大なる総理の仰る通り、不当に奪われた我が国の固有領土を奪還する時が来た! 遠慮はいらない! R国という占領者を叩き潰す!」


 真崎の言葉に皆が歓声を上げて奪回を誓い合う。

 その様子を黙ってみていた橋本は満足そうな表情をしながら頷く。


「(日下艦長、彼等の士気は絶大MAXです。きっと成功します)」

 そして奪回手段の策が練られていく。


 会議は徹夜で二昼夜もかかり最終的には二通りの案が残ってこれに関して議論をすることにするが流石に疲れも溜まって来たので24時間後に再開するという事を決定して一時的に解散する。


 疲労が溜まっているであろう各諸将だったが士気は衰えていなかった。


 橋本も席を立ち、会議室を出て行こうとした時、真崎大将に声を掛けられて少しだけ話しませんかと言われたので黙って頷く。


 数分後、誰もいなくなった会議室内で二人の男が顔を突き合わせながらじっと不動の状態で見あっていたが同時に笑みを浮かべると椅子に座る。


「橋本大佐、お会い出来て光栄です! あの歴戦の伊400の方とお話ししたかったのです」


「……そうですか、こちらも無血クーデターを成し遂げた閣下と話をしたかったです……と言っても日下の方ですがね? 私は只の副官です」


 二人は色々と会話したが殆どが真崎からの質問で橋本は応える範囲の中、淡々と話し合い、時には笑いながら数時間喋る。


「おっと、もう日付が変わりますね? 長々と申し訳ありませんでした、お疲れさまです」

 二人はお互いに敬礼をすると真崎は静かに出ていきそれを見送った橋本は彼の姿が見えなくなると腕時計に口を近づけると口を開く。


「艦長、お聞きの通り、明日に作戦が決まりますが先程の真崎大将の会話を聞いてどう映りましたか?」


 実はこの腕時計は人工衛星“大鷲”を中継して地球の何処にでもいても通話できて今までの会議等の会話を伊400に送っていたのである。


「……有能で決断力が優れているね? だが、相当な野心家だな。最悪、スターリンやヒトラーに匹敵する独裁者になるタイプだと見たな。まあ、それも数十年先だが……それまで俺達はいないだろうが」


「……そうですね、それはともかく明日ですが我々は相当、扱き使われますね?」


「うん? そうかな? 真崎大将は野望溢れる人物でプライドの塊だ。自分の功績を以て上を目指しているだろうから案外、こちらは何もすることがないかもな? 最も、そうなっても私達は彼らの目と耳になれるからね? 目立たずに彼らをバックアップして最終的に勝利を手にするのがいいのだと私は思うよ」


「……成程、分かりました。とにかくこちらは出しゃばらないで静かにしておきます」

「うん、よろしく頼むよ! ではおやすみ」

「お疲れさまでした」


 橋本は腕時計のスイッチをオフにするとゆっくりと部屋から出ていく。


♦♦


 その頃、伊400は北海道釧路沖海上に浮かんでいて日下は前部甲板の上で格納庫扉にもたれかかって空を見ていた。


 雲一つない空で星が宝石のように輝いていた。


「艦長、そろそろ気温も下がってくる時間です。艦内に入られては?」


 衛生科『福留親房』大佐が日下に声を掛けると日下は振り向いてそうだねと頷いて艦内へ入るハッチまで歩き始める。


「福留大佐、医薬品は大丈夫かな? 万が一、負傷者を救出した時に、十分に足りているかどうかだ」


「心配ありません! 抗生物質を始めとする薬品もRPGに出て来るようなエリクサー等も沢山、備蓄していますので」


「そうか、まあ失った腕や足を再生する秘薬もあるからね? 人知を超えたアイテムだが数百年旅してきた成果かな?」


 二人は笑いあうと艦内に入る。

 二人が艦内に入ると伊400はゆっくりと潜航していく。

 そして……24時間が過ぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る