第33話:北方艦隊
青森県陸奥湾奥にある大湊海軍基地では駐留艦隊の出港準備が終わり出撃まで後10分の所であった。
旗艦である最新鋭ヘリ空母“ふそう”艦橋では司令官兼艦長である『田端悦司』大佐が窓から港の周辺を眺めていた。
「春の青森はいいな、桜も満開だし花見にはぴったりな季節だが……そんな雰囲気には到底ならない」
「ええ、本当ですね? 所で聞きましたか? 台湾沖で富永大佐率いる艦隊が攻撃を受けた事を?」
「ああ、聞いたが全て迎撃に成功したそうだな? 無傷で」
感心した様子で田端が言うと副官の『山口祐樹』少佐が頷くと次は我々の番ですね? と言うと田端は頷いて山口の方を向くと笑みを浮かべながらそうだと力強く言う。
「敵は空母を含む大輸送船団らしいが先程、報告が入りましたが空母が突然、大爆発して轟沈したとの事ですが……?」
田端は暫く何か考えていたが顔を上げると表情を変えずに恐らくはあの常識外れの例の潜水艦の仕業ではないか? と答える。
「では未だこの世界にいるのですね?」
「……そうだな、恐らく世界中の国家が束になっても叶わないだろうな? だが、彼らにでかい顔をさせておくのは気に食わないからな! 露助の船団を一隻残らずこの艦隊で海の藻屑にさせてやる」
力強い言葉に山口も頷くと航海科の隊員が入ってきて出港準備が整いこれより出港しますと言ってくる。
大湊港から順次、艦船が桟橋を離れて行き隊員の家族等が見送りに来ていて至る所で手が振られていた。
「……しかし、一年前とは大違いだな? それに……あの無血クーデターは見事に尽きる。聞いた時は我が耳を疑ったが独裁体制には入らず笠間内閣はそのままで軍事関係のみだとはな」
「真崎大佐でしたか? 何でも一気に昇進して大将としてこの日本軍の総指揮を執るみたいですが?」
「まあ、上の方は上に任せて俺達は目の前にいる敵を殲滅する事に専念だ! 津軽海峡を出て太平洋に出たら針路を北方に転進する」
それから二時間後、田端率いる日本艦隊は無事に太平洋に出ると隊列を組むと同時に日本初の国産機垂直離発着機“桜花”10機が甲板に引き出されていき命令発令と同時に出撃する手筈であった。
国産長距離対艦ミサイル“天照”二発を積む戦闘機である。
艦橋からその様子を眺めていた田端は頼もしそうに見ていると山口がやってきて今しがた東京の国防省から極秘機密暗号電文を入電して現在、解読している所ですと報告してくる。
「ほう? もしかすると……例の敵対条項に関する事かな? ふふふ、もしかすると全世界と喧嘩するのかもな?」
その時、レーダーが敵大編隊をキャッチしたとの事を報告してくる。
巡洋艦クラスのイージス艦“あたご”“まや”“たかお”から情報が次々と送られてくる。
「ほう……こいつは露助の最新鋭戦闘機じゃないか? 現在の位置が択捉島東10キロ海上か……。会敵予想時間は30分間後だな? 200機とは恐れ入るな、本格的に総力戦か?」
「これは……脅威ですね? 間違いなく最低200発のミサイルが飛んできますよ? 対策は如何に考えているのですか?」
「もしかすると……だ、こちらのミサイルは一発も使わないで奴らの戦闘機ごと処分できるかもだな?」
「それはどういう意味……ですか?」
山口の言葉に田端はにやりと笑うとこの“ふそう”には天才ホワイトハッカーが乗っているではないか? と言うと山口は不思議そうに言葉を発する。
「『橋田敦』大尉ですか? 確かにそうですが……」
ハッカー競技世界大会で日本人初で優勝した彼の事を言っていて元々、陸上自衛隊所属であったがその快挙に深い意味を捉えなかった当時の上官は特に何も感じなかったがその腕を見込んだ田端が幕僚本部に掛け合って手に入れた逸材であったのである。
「先程、奴と話したが出来るとの事だ! 敵の周波数を乗っ取ってそのまま反転させてドカンとだ」
田端のどや顔に山口は無言であったが今まで彼の言葉が外れる事は殆ど無かったので信じる事にする。
間も無くCICから連絡が入り敵の周波数を乗っ取ることに成功した旨が報告されると田端はうんと強く頷いてそのミサイルを母機にお返ししてやれと命令する。
間も無く200機のR国戦闘機から対艦ミサイルが放たれる。
「敵機が発射しました! 200発です。命中まで5分13秒」
この時、恐らくだがR国戦闘機パイロットは「Не смешите меня(そんな馬鹿な!?)」と叫んだはずだと思うがそのままミサイルが反転すると次々と母機に命中していく。
一瞬で200機の戦闘機がバラバラとなりレーダーから消える。
大歓声が艦隊に沸き起こり皆がハイタッチしていてCICでも他の隊員から肩を叩かれて称賛される橋田がいた。
「よし! このまま攻撃開始だ、対艦ミサイル“天照”全弾、発射用意! 目標は敵船団」
一年前に日下艦長から技術授与されたレーダー網により個々の艦船に番号が振り分けられて天照に情報がインプットされていく。
艦隊が函館東方50キロ地点に達した時、日本艦隊から一斉に対艦ミサイル“天照”がプラスチックカバーを破り轟音を上げて空中に飛びだしていく。
総勢100発の天照がR国大輸送船団に向けて飛翔していく。
「命中まで4分47秒です」
オペレーターの言葉に田端はゆっくりと頷くと達成顔の表情をした。
彼の表情通り、次々と天照が船団に命中していき大爆発と共に次々と轟沈していく。
「敵船団、全滅です! 我が軍の完勝です」
凄まじい大歓声が沸く中、田端は直ぐに東京国防省に殲滅完了の電文を送るように言うと指揮官用の椅子に座る。
「さて……と、次の一手は何だろうか?」
その時、山口が走り込んできて暗号電文の解読完了した旨を報告する。
その内容が驚愕するに等しい物である。
「来月に千島列島全島奪回作戦を発動するに対して貴官率いる艦隊は上陸軍の護衛に当たれ」
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