第32話:圧勝!

 一方、台湾・フィリピン方面に展開した富永大佐率いる南方方面軍は順調に航海を続けていて間も無く台湾国領海に入ろうとしていた。


 空母“いずも”艦橋にて艦長席に座っている富永は各艦から入電してくる報告に一つ一つ頷いてそれに見合った命令をしていた。


 そんな姿を見ていた副司令官『山田高志』中佐が感嘆な声を上げながら喋ってくる。


「司令、いつも思うのですがどうしてこんなに的確な指示を与えることが出来るのですか? 今まで外れた事がないですが?」


 山田中佐の質問に膨大な書類を速読で見ていた富永は顔を上げると愛嬌のない笑顔で答えてくれる。


「そんなに難しいことは無いぞ? 我々が今、置かれている状況を鑑みてみればそれに関する予想と言うかこれから何が起きるかを考えれば自然と分かるのだが?」


「司令だけですよ、さぞかし防衛大学でも成績がよかったのでしょう」


「うん? 俺はドンケツから数えたほうがいい成績で卒業したのだがね? あまり出世を考えないで職務に励んでいたらいつの間にか出世していた」


 山田が成程……と呆れた表情をした時、艦内放送が流れて間も無く台湾国領海に入りましたとの事。


 富永はその放送を聞くと同時に真剣な表情になると全艦に対空戦闘準備を命令してヘルメットを全乗員に被るように命令する。


「司令? 台湾は我が大東亜連邦国の最優先国ですが?」


 山田の言葉に富永はだからこそ対艦ミサイル攻撃が来る確率が95%以上だと説明する。


「C国は台湾国独立を認めていないからね? 我が軍が台湾国領海に入れば侵入者として攻撃してくるのは当たり前だからな?」


 その時、前衛を航行していたミサイル護衛艦“おおい”から緊急電が入り内容が大陸方面から対艦ミサイル100発が我が艦隊に向っているとの報告が入る。


「対空戦闘用意!! 全艦防衛リンク作動! これは演習ではないぞ! 尻の穴に極太を突っ込まれたくないのなら全弾迎撃だ!」


 一瞬、大爆笑が起きたが直ぐに皆が真剣な表情になり全艦船にベルが鳴り響く。


 富永は全然動揺もせず不敵な笑みを浮かべていて腕を組んでモニターを凝視していてそんな姿を見た山田は大丈夫だと言う気持ちになる。


「全艦船リンク完了! 命中まで3分14秒です!」


「シースパロー発射用意! 敵ミサイル個々にロックオン完了!」


 日本海軍(旧海上自衛隊)初の最新鋭原子力ミサイル護衛艦“おおい”のCICでは最大200個もの標的を捉える事が出来て瞬時に最適で効率的に全艦に指示が出来る代物である。


「全艦、シースパロー発射用意完了!」

「敵ミサイル命中まで後2分35秒!」


 富永は少しだけ頷くと大声で命令する。

「全艦、シースパロー発射!」


 各艦のCICではミサイル発射のボタンを次々と押していくと各艦に搭載されている対空ミサイル“シースパロー”が次々と轟音を上げて発射される。


 特に圧巻なのが垂直発射SEL搭載艦が一斉に40発同時に発射される姿は正に見惚れる程の情景である。


 迎撃発射された100発のシースパローが白い煙を吐きながら上空へ消えていくがレーダーではきっちりと捉えていた。


「間も無く命中です!」


 オペレータ員の言葉通り次々とシースパローが対艦ミサイルに直撃していき敵ミサイルの光点が次々と消えていき間も無く全弾が迎撃される。


 大歓声が沸くが富永のドスの効いた声が鳴り響く。


「まだ浮かれるな! 第二回の攻撃が来るぞ! 6時の方角を徹底的に目をかっぽじって見ろ!」


 富永の声が全艦船に響くと直ぐに歓声が治まり引き続き監視体制に入った数十秒後に“おおい”から電文が入る。


「後方6時の方角から50発の対艦ミサイル確認! ……ですがミサイルの周波数がR国です! 恐らくR国の潜水艦から発射されたかと?」


 皆がええっ!!?? と声が上がるが富永は冷静な表情でドスの効いた声で迎撃命令をかける。


「うろたえるな! C国とR国は同盟している筈だ! 当たり前の事にいちいち喚くな! 全弾迎撃だけを考えろ!!」


 “おおい”による的確な迎撃目標システムにより全艦船から再び対空ミサイル“シースパロー”が発射されると数分後に次々と対艦ミサイルに命中して全弾破壊された。


「敵潜水艦の位置は把握できているか?」


「は、はい! 後方50キロメートルに潜水艦10隻を確認しています。既に対潜ヘリがソノブイを投下して位置を把握しています」


「対潜ミサイル“天之加久矢(あめのかくや)発射用意!」

「え!? R国ですが……?」


「復唱はどうした!? 馬鹿者が! 我が艦隊に攻撃を仕掛けてきたのだ!」


 富永の怒声に直ぐに復唱されると同時に各艦に設置されている対潜ミサイルロケットランチャーが回転して中に収められている国産初の対潜ミサイル“天之加久矢(あめのかくや)”に情報が入力される。


「発射態勢完了! いつでもOKです」

「よし! 発射だ!」


 富永の命令でロケットランチャーから10発の“天之加久矢(あめのかくや)”が発射されて目標に向かう為、海面に着水したと同時に設定された深度まで自動で潜り時速160ノットで爆走していく。


 モニターに映し出されている敵潜水艦の光点が退避行動を執ったと思われるようで綺麗に隊列を作っていたのが崩れていくのが確認できる。


「……遅い」


 富永の独り言のように次々と命中していき光点10個が消えていくとゆっくりと頷いて引き続き見張りを厳とせよと命令すると大きな息を吐いて艦長席にもたれる。


 全艦船の艦内では大歓声に沸くがこの時は富永は何も言わなかった。

 次の攻撃は無いと確信したからである。


「司令官、お見事です! この山田、感服しました」

「別にいいさ、私はまだ死にたくないからね? 生に執着しているからな」


 そんな話をしている時に補給科補給長『山田剛史』中佐が入ってきて武器弾薬補給艦“まみや”が合流したとの報告が入る。


「よし、かなりの数を消耗したからな? 今から補給作業に入る旨を全艦に伝達だ! 作業終了までどれぐらいだ?」


「はい、30分間あれば完了です」

「よし! その間、“おおい”に監視強化を命令だ」


 補給作業に入った数分後、通信室から血相を変えた隊員が飛び込んできて千島列島沖にR国の大船団をキャッチしたとの連絡を報告する。


「ほう? やはりそうくるだろうな? 何、心配ないさ! 大湊には最新鋭艦隊がいるしそれを率いているのがあの『田端悦司』大佐だからな?」


 日本艦隊の上空8千メートルを飛行していた“晴嵐”パイロット岩本大尉はこの一連の日本艦隊の行動を逐一、伊400に転送していたと同時に富永の指揮に感嘆していたのである。


「流石だな、まあ日下艦長には叶わないがな?」

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