第31話:驚愕、そして

 国連による日本に対する敵対条項を発動する寸前、とんでもない事件が起きて世界が震感する。


 それは米国大統領暗殺事件であった。

 しかも重要な発表をするだけあって米国や世界的なマスコミが集合してカメラを回して大統領を映し出している時であった。


 大統領警護官である一人の男性が突然、銃を取り出して大統領の頭を撃ち抜いたのである。


 脳が飛び散り頭から噴水の如く血が噴き出す姿は全世界に配信される。

 その警護官は直ぐに取り押さえられたが口の中に仕込んでいた毒カプセルを噛んで即死する。


 現場は阿鼻叫喚で人々が逃げ叫んで大混乱が起きて収支がつかなくなる。

 生中継で全世界の人々がTVを見ていたがその最中に大統領暗殺の瞬間を何十億もの人間が見てしまい世界的な動揺が起きる。


「ふん、阿保な事を考えるからそうなるのだ、自業自得だよ」


 冷酷な冷笑を浮かべながら真崎大佐は車内TV画面を見ていたがスイッチを切ると携帯電話を取り出してあるところに電話を掛ける。


「私だ、TVを見たよ。流石千年にも渡る暗殺組織だね? ああ、他にも数人程、暗殺して欲しい人物がいるが私の依頼が出るまで保留だ。報酬の方は心配しないでくれたまえ。今回の残りの報酬は今しがた振り込んだので確認して欲しい。では、又」


 携帯電話を切ると真崎は靖国神社へ向かうように運転手に言うとシートにもたれると目を瞑る。


「(……志半ばで統制派の陰謀によって粛清された皆、私は……悪鬼と化しますがこれも日本の為……。今度こそ私達が目指した皇道派による正しき道を作ります。幸いにも笠間総理と言う尊敬できる方が現れましたので)」


 そう、真崎と言う人物は昭和初期に起きた2・26事件の首謀者の一人が記憶を持って転生した人物であった。



♦♦


 この映像は伊400でも大鷲を介して見ていたが突然の凶行を見て流石の日下達も茫然として持っていたカップを落としたが誰もそれに気が留めない程唖然としていた。


「……これはどういう事だ……? 誰か理解できる者はいるか?」


 日下の言葉に誰もが無言で首を横に振る。


 橋本も解せない表情をしながらもこれは大変なことが起こりましたが直に副大統領が臨時として政務を執りますねと言うと日下も黙って頷く。


「確か副大統領は大の親日贔屓で日系人7世の人物だったね? このシナリオを仕込んだ人物は間違いなく日本にいる! だが、この事件は米国と対決しないで済むかもしれないな? まあ、予断は許さないが?」


 やっと思考が回復した時、通信士から晴嵐一号機から緊急電が入った事を報告してくる。


「魔王閣下から? まあ間違いなくとんでもない重大な事だな」


 司令塔にいた全員が頷くと通信回路を司令塔に切り替えると閣下からとんでもない報告が入る。


「……何? 千島列島占守島沖に……旧ソ連国旗を付けた大船団が南下している?? どういう事だ?」


「もしかするとですが……ウクライナに侵攻していた部隊を密かに転進させて北海道に逆上陸でもするのかも? 首都キエフが核攻撃で消滅してしまったので戦う意義が無くなった?」


 橋本の言葉に日下はじっと考え込むが直ぐに首を横に振りながらこの事態に関して想定外で対処が難しいと言う。


「米国艦隊のみの今回の行動だったからな? R国が絡んでくるとは……」


「艦長? これを日本に報告すれば如何でしょうか? 確か大湊基地に護衛艦隊が一群停泊している筈です」


「確か……最新鋭ヘリ空母“ふそう”にイージス艦4隻と護衛艦4隻に潜水艦4隻の規模だったな? 閣下にその船団を護衛している艦船の映像を回してくれといってくれないか?」


 そう言った瞬間、パネルが切り替わって映像が映し出されると日下もうん? という困惑な表情を見せる。


「あれって……空母“キエフ”……だな? 解体されたと聞いていたが?」


「まあ、何かあった時にでも使おうと密かに保管して置いていたのでしょう。それでどう対処しますか?」


「恐らく今の日本人の殆どが勘違いしていると思うが元々は北方領土と言われている範囲は4島だけではなかった! 千島列島全域を当時のスターリン政権がポツダム宣言を受けて戦争終結後に卑怯にも攻めて来て不当に占拠していたのだ。いわば我が日本の権益を犯していると同様だ。直ぐに日本に知らせよう! まあ彼らの判断に任せようと思う」


「了解しました、しかし……魔王閣下が何もしないで引き返すと言う命令は受け付けないかもしれないですね?」


「確かに……そうだな。だから閣下には光学迷彩シールドを展開しながら空母“キエフ”のみを撃沈するように伝えて欲しい。残りは日本艦隊に任せる」


 日下の命令がルーデル閣下に行くと彼から「gut!」と元気な声が返ってくる。


 ルーデルが操縦する晴嵐が一時的に船団から離れて行き途中で機首を翻すとマッハ3まで加速しながら機首に装備されている30ミリレーザービーム砲の出力を最大限に上げてトリガーを引く。


 バターを切り裂くようにいとも簡単に喫水線に沿って装甲を切断していく。

 間も無く大爆発を起こして“キエフ”は轟沈する。

 何が起きたか分からず乗員の殆どが海中に没したのである。

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