第30話:覚悟と覚悟

 小笠原諸島父島北方10キロ海上にて伊400は光学迷彩シールドを展開して停止していた。


 艦橋甲板では日下と橋本が眉を潜めながら会話をしていたがいつにもなくとても厳しい表情であった為、他の乗員も近寄りがたい雰囲気であった。


「……何という事だ、あの大統領は何をとち狂ったのだ?」


「艦長、彼女は大統領令で今回の事態を決意したみたいですが背後にC国かR国がいるのではないかと?」


「そうだな、それにしても今この時代で分割統治とは……時代錯誤も甚だしいな。しかし、全世界の人に未だ発表していないという事は……」


「ええ、未だ希望は残されていますね? しかし、もし実際に軍が行動したらどうしますか?」


「……米海軍太平洋艦隊はこの伊400一隻で引き受けるつもりだがギリギリまでは攻撃しないつもりだ。しかし、大東亜共栄圏に何かしらの敵対行動を執るのなら一度だけ警告して従わなければ……攻撃する!」


 日下と橋本の会話中に航海科の乗員がやってきて“うりゅう”から通信が入っていますとの報告を受けたので日下は頷いて司令塔に入る。


「これは富下二等海佐! ……いや、富下中佐ですね? 何かありましたか?」


「ええ、私事ですが先ほど、一等海佐……いや、大佐に昇進しました! 何か呼び方に戸惑うのです」


 苦り顔で苦笑する富下に日下は中々お似合いですよと答えると富下も笑みを浮かべるが直ぐに用事を告げる。


「今朝、台湾・フィリピン方面に富永少将率いる派遣艦隊が佐世保を出港しました。まあ、K国との戦いに出撃する時とは違って結構な人達が手を振って激励してもらったそうですよ? まあ、反対と叫んでいる団体もいましたが」


「成程、まあ反日グループがほぼ根こそぎ粛清されたので正常と言うのでしょうかね? それはそうとC国は間違いなく動くかと? 未だ空軍やミサイルを多数、保有していると思いますので」


「まあ、そこは心配していませんね? 日下少将、新たに生まれ変わった日本軍の力を舐めないでくださいよ? あの富永少将が指揮するのです、私は何の心配もしていません」


「……成程、一度お逢いしたいですね? 富下さん、大平洋方面はこの伊400が全て対処しますので貴官達は東シナ海や南シナ海に専念してください」


「あの世界最強の第七艦隊もですか?」


「ええ、殲滅するのは簡単ですが……あの大東亜戦争時のアメリカとは違うのでなるべく犠牲を出したくありませんが日本を危うくすると分かった時は……殲滅します」


「……分かりました、日下少将の言葉は国防省や総理にお伝えします」


 会話が終わりTV通信が終了すると日下は腕を組みながらじっと何か考えていたがある事を決断して命令を出す。


「岩本大尉をここに!」

「了解しました!」


 数分後、岩本大尉が司令塔に入ってくるとお互い敬礼して日下は晴嵐で出撃して日本艦隊を護衛するように命令する。


「恐らくだが日本艦隊に攻撃を仕掛けるのなら明日だと断定できるから万が一の為に上空なりで待機して彼らを護衛して欲しい」


 日下の命令に岩本はお任せくださいと力強く頷くと司令塔を出ていくが入れ違いにルーデル閣下が現れてこの俺を行かせて欲しいという。


「もしかしたら露助が出て来るかもしれないのだろう? 久しぶりに叩きつぶしてやりたいのだが?」


 日下は苦笑しながらもここは岩本に任せるようにと言い、R国とは北方領土関係で必ず面倒事が起きるからその時は閣下でお願いしますというとルーデルはシブシブと了解して司令塔から出ていく。


 日下は溜息をつきながら橋本の方を向くと偵察か何かで飛ばさせてやればいいのでは? と提案してくる。


「閣下は根っからの飛行機野郎ですからね? ストレス発散させるためにも気のすむまで偵察目的で飛ばせてあげればよろしいかと? それに今までそれで偶然か必然か分かりませんが色々と敵の罠等を見つけてくれたこともありますし?」


「……そうだな、確かに閣下は何かしら只では帰還しないからな……。念のために間違っても先制的にR国に攻撃する事は厳禁だぞと伝えといてくれないかな?」


 日下の言葉に橋本は笑いながら了解しましたと言い司令塔から出ていく。

 橋本が司令塔を出ていく姿を見送ると日下はモニターに映し出されている光点を見つめる。


 グアム周辺にいる第七艦隊の位置であった。

「……大鷲で第七艦隊を逐一監視して報告してくれ」


♦♦


 その頃、日本では笠間総理によって全日本の都市に戒厳令を発令すると共に夜間外出禁止命令及び不要不急な外出禁止令・予備役に入っている旧予備自衛官の全員招集命令を明日の0時を以て発動すると共に日本国憲法の一時的な効力停止を発表する。


「この一連の処置は一時的です! 現在、日本を取り巻く状況は非常に危ういので政府は非情的な手段を以て国民を護りますのでどうか耐えて下さい。尚、上記の事を破ればいかなる事があれど厳罰に処します! それと……国民の皆様にお約束いたします。いかなる事態が起きても皆様の大事なお子様を国が徴収する事は一切ないのでどうかそこだけはご安心ください」


 内閣や国会ではとてつもない大反対や大規模デモが起きるのではと覚悟して万が一の為に警察や首都防衛軍の出動準備していたが拍子抜ける程、国民はそれに従うがごく少数の者達がデモを起こすが直に強制解散させらる。


 日本全国が殆ど混乱も無く上記の措置に黙々と従う様子に流石の笠間総理始めとする閣僚やあの真崎も唖然としている。


「15年前の世界的な流行ウイルスの時でも他の国では内戦レベルのデモが発生していたのですが日本だけは黙々と従っていましたね」


「そこが日本民族の素晴らしい所ですね? その人達の上に立っている私達は彼らを護らなければなりません! 私は命を惜しんではいません。先祖代々が築き上げたこの国を護って見せます! 貴方のクーデターに賛同してでもね?」


 厳しい表情を真崎に見せながら鋭い口調で彼に言うと真崎は笑みを浮かべて流石は総理です、こうみえてもわたしは総理を尊敬していますのでと言うと笠間はどの口がと言うかという表情を見せる。


「とにかく今は国内に動揺を起こさせずにこの国難を乗り越えましょ

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