第29話:狼狽と冷静

 令和××年3月31日2358時、日本全国の自衛隊基地では日付が変わる頃、熱気が溢れていたのである。


 正式に自衛隊から国防軍に昇格して日本海軍・陸軍・空軍として活動するので皆が不安と期待に溢れていたのであった。


 長針が0時を指した時、自衛隊基地内にキンコンカンコーンとベルが鳴り響く。

その瞬間、全自衛隊員が新たな辞令交付されたのであった。


「まさか生きている間にこんなことが起きるとはな、やはりずっといてよかった」


 日本初空母“いずも”艦長『富永宗次』は、一等海佐改め海軍大佐に任ずるとの辞令書に目を通すと笑みを浮かべて頷く。


「これで増々、お国の為に働く意欲が出ると言う事だな」


 その時、副官が小走りでやってきて防衛省改め国防省から命令書が届いたとの事を報告すると富永は頷く。


「いよいよだな、腕が鳴る!」


 4月1日、正式に自衛隊から正規軍に昇格したと共に大東亜連邦に参加表明をしている各国を護衛する為に駐留軍として出撃準備が始まっていたのである。


 台湾・フィリピン方面に出撃する陸海空軍の戦力が発表される。

 空母“いずも”を初めとするミサイル護衛艦やイージス艦合わせて九隻が派遣される。


 潜水艦も新たに第三潜水艦隊を編成して四隻が派遣される。

 少し問題なのがスリランカで大東亜共栄圏構想には賛成したがC国による莫大な借款によって主要港が抑えられているので運用方法を模索しているとこであった。


 空軍戦力も振り分けられて戦後初の国外駐留を実施する。

 そんな最中、とんでもない情報が飛び込んでくる。


「……えっ? 今、何と言いましたか? 国連による日本国への敵対条項に基づいて日本分割統治を実施? 冗談でしょう?」


 官邸で笠間総理が補佐官からの報告を受けた時、唖然というか冗談ですよねと思っていたが国防省も情報をキャッチすると共に外務省からも血相を変えて大臣が飛び込んできて先程の内容を伝える。


「……どういう意味ですか!? 敵対条項は形骸化した物でしょう? その首謀者というか中心になっている国は?」


「は、はい……。C国とR国が提唱して米国・フランス・イギリスが同意したみたいです」

「馬鹿な! 米国の議会はどうしたのですか? こんな事をすれば世界経済は崩壊します!」


 真っ青状態の表情である笠間の元に『真崎少佐』が執務室にはいってくるとこの背後について説明するが慌てる様子も無く凄く冷静で喋る。


「米国は大統領令を発布しました。勿論、上院下院議会は百家争鳴状態で大統領を批判しています。国防省も勿論、大反対で現在の状況は在日米軍には一切、動かずに基地から一歩も出るな! 籠城しろとの命令が出ています。まあ、日本占領軍がやってくるまで何もするなとも捉えますね」


 真崎少佐のあまりにも冷静な表情と的確な米国等の国内状況の説明にもしかしてあらかじめ知っていたのですか? と聞くと真崎は否定する。


「いえ、どんなことが起きても不思議ではないのでありとあらゆる可能性を考えていましたのでこの状況も予想の内でした」


「……真崎少佐、前から思っていましたが雰囲気が令和の軍人とは思えないオーラが溢れているようですね? それはともかくこの事態をどのようにして抜けるかが必須ですが何か考えがあるのですか?」


「……今回の一連の行動ですが間違いなく国連軍を編成してきますが主な主力は米海軍です。現在、グアムに到着した第七艦隊ですが恐らく反転してくるでしょう。しかし、逐一第七艦隊の動きは把握していますので条件が整い次第、攻撃を仕掛けます。第七艦隊さえ片づけられればどうにかなるでしょう」


 真崎の頭の中にはまだ他に色々と妙案があるようだがそれはおくびにも出さないで平然としている。


「……もしかして……日下艦長率いる伊400が未だこの世界に留まっているのですか? それなら勝機は十分にありますが?」


 真崎が何か言おうとした時、横にいた佐部官房長官が彼を睨みながらも穏やかに話してくる。


「真崎少佐、まさか本気で米国と戦うつもりかね? 君は大東亜戦争の事を知らないのか? 圧倒的物量に押し負けて何も出来ずに広島と長崎に原爆を落とされて惨めな降伏をしたことを?」


 佐部の言葉に真崎は薄笑いをして昔とは違うのですよ昔とはと言い、忙しいのでこれで失礼しますが笠間総理は国内の事のみに専念してくださいと言う。


「総理の手腕で反日やスパイを徹底的に粛清されましたが今度は普通の国民が相手なので慎重にしなければいけないかと? 緊急事態条項を発令していますが国民の殆どが何の意味を示しているのか分からないと思いますので詳細な説明を御願いします。間違いなくデモが起こるでしょうが毅然とした態度で接して頂ければと。戒厳令も発令した方がいいかと思います」


 そう言うと真崎は敬礼をして執務室を出ていく。


 その彼の後姿を見つめながら笠間総理は溜息を吐いたがやるべきことはやらないといけないと思い万が一のことを考えて行動する事にする。


 首相官邸を後にした真崎は迎えに来てくれた軍用乗用車に乗り込むと携帯電話を取り出して何処かに掛ける。


「ああ、私だ! 例の作戦を実施してくれないか? うん、報酬は前金でスイス銀行に振り込んでいる」


 それだけ言うと真崎は携帯電話をポケットにしまうと運転手に市ヶ谷国防省までと言う。

 窓の景色を見ながら真崎は小声で呟く。


「軍隊を動かすだけが戦いではない……。暗殺も立派な戦いだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る