第28話:暗雲垂れ篭る
時間を遡る事4日前……。
アメリカ合衆国首都ホワイトハウス内にてヒラリー大統領以下閣僚5名が椅子に座っていてある書面を見ていた。
「信じられないけど……あの例の潜水艦はやはり未だこの世界に留まっていたのですね? しかもその艦長と対話したという事でしたか」
大統領の言葉に国防長官が立ちあがり何故、そこでロボス大将は捕虜にしなかったのか? と非難する。
「あの艦長を拘束拘禁できればあの潜水艦を手に入れる事ができたのではないか?」
彼の言葉にハミルトン博士が呆れた表情をしながら否定してその理由を述べると国防長官は押し黙ってしまう。
「報告によればあの潜水艦は第七艦隊のど真ん中に浮上してきたと言うではありませんか? 聞けばどの艦も探知できていないとの事! そんな潜水艦の艦長たるものが何も用意せずにノコノコとこちらの懐に飛び込んでくるわけではないですか! おそらくイレギュラーが起きても対処出来る手段を持っていた筈」
この時のハミルトンの指摘は間違っていて日下が“リンカーン”に訪問した時には完全な丸裸であったのであるが前の世界で交流があったので彼は絶対にそんなことしない確信があったのである。
「しかも彼は我国独自の国土病と言われている遺伝子病の特効薬を渡してくれたのではないか! 動物実験だが僅か数時間であの病気が完治したのだ。しかもそのワクチンを開発したのが別世界の米国の名もなき博士との事。C国が渡してくれた薬は確かに進行を遅らせるがそれだけだ!」
ハミルトン博士の言葉に他の閣僚が笑みを浮かべるが大統領補佐官が眉間に皺を寄せながら反論してくる。
「博士、そのワクチンを本当に信じているのですか? よく考えて下さい! その潜水艦は何十もの数々の平行世界を旅しているのなら当然、別の世界で我が国と交戦して大量虐殺をしているのではありませんか? しかも彼は第二次世界大戦時の日本軍人ではありませんか? 鬼畜米英と叫んでいた時代の人物ですよ? 彼が我々米国人を憎んでいればこの世界でも絶滅を計るのでは?」
補佐官の言葉に大統領は無言状態になり思案に入ると共に他の閣僚もワイワイガヤガヤと会話状態になる。
「大統領、今回の議題はその話ではないかと? 国連による日本国に対する敵対条項の適用を可否する話では?」
補佐官の言葉に大統領ははっとして確かにそうでしたと言うと取り敢えずはそのワクチンの事は置いといて国連の要請をどうするかの会議に入る。
「無視すればいいでしょう! 100年前とは全然ちがう! 世界経済が崩壊してしまうぞ?」
「そうです、しかも現在はクーデター政権にも関わらず米国主導の元、自衛隊を今後とも運営していくとの事ではないか? それにだ、来月には正式に軍隊とするとの事。そうすれば共産主義共の完全な防波堤として機能してくれる」
「それと……新たに判明した事ですがあの潜水艦の映像を解析した所、とんでもない事実が判明しました」
ハミルトン博士の言葉に全員が彼の方を向くと彼も信じられない表情しながら淡々と話す。
「あの船体はプラズマシールドを装備していると断言できる! 原理としては可能だが実現するには数百年は研究開発に必要な技術だがあの船は既に搭載している。残念ながら現在の全世界のいかなる兵器も傷一つ付けることは出来ない」
彼の言葉に参加者は悲痛な表情になる。
そんな閣僚達に補佐官が眼鏡をクイと人差し指で上げる仕草をすると真剣な表情で喋る。
「大統領、私達白人は神に選ばれし人種です! 黄色人種、しかも黄色い猿にでかい顔をさせてよろしいのでしょうか? 今こそ、黄色い猿をこの世界から滅ぼして白人至上の世界を築くことが世界最強国たるアメリカ合衆国大統領ではありませんか?」
大統領補佐官の言葉に他の閣僚も確かにと頷く。
今は表立ってそんなことは考えないのだが白人至上主義という魂に刻まれた楔はそう簡単に消えないのである。
やはり心奥深く、深層精神の奥では黄色い猿と言う認識が刻まれていたのである。
「……そうですね、確かに貴方の言う通りです! しかしあの潜水艦の対処はどうするのですか?」
「それは既に対策済です! 所詮、時の漂流者と言っても東洋のちっぽけな猿真似しか出来ない国が造った物です!」
「……分かりました! 大統領令を発動します、国連の要請に従い戦勝国の権利たる敗戦国に対する敵対条項を適用します」
大統領の言葉に閣僚達は了承する。
議会に通さなくてもいける最強且つ最終カードである大統領令が発動されて直ちに全世界中の米軍基地に戦闘配置号令が掛けられる。
「日本再占領すれば北海道と東北はR国、関東・中部・近畿はアメリカ合衆国、四国はフランス、C国は九州及び琉球諸島を含む南シナ海及び東シナ海の諸島、中国地方はイギリスで統治して東京都はアメリカ・C国・R国・イギリス・フランスで分割統治という事を各国に通達してください! 尚、この事は来月4月1日に日本の発表と共に発動する事を決定します。それとそのワクチンは我が国民を虐殺する可能性が高い物ですので直ぐに破棄してください」
会議が終了して満足そうに頷く大統領補佐官がしかめっ面をしているハミルトン博士の所に行くとNASAが極秘に開発している例の物を作動させる準備をお願いしますと博士は冷ややかな表情をしながらそんなことしてもあの潜水艦には勝てないよ? と言い部屋を出ていく。
その様子を見た補佐官は誰にも聞こえないような声で呟く。
「ふん、処分する時がきたか!」
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