第27話:人工偵察衛星

 ロボス大将との会見から一週間後、伊400は小笠原諸島硫黄島沖海上に浮上していて甲板上では沢山の乗員達が作業をしていた。


「吉田さん、順調ですか? いよいよ発射ですね?」

「ええ、艦長! 今日は無風で全面的に快晴です。正に打ち上げ日和ですな」


 日下艦長が晴嵐射出機の方を見ると“晴嵐”ではなくロケットのような物体が設置されている。


「外見上は第二次世界大戦でナチスドイツが開発したV1に似ていますね?」


 橋本先任将校が謎の物体を見ながら吉田に言うと彼も首を縦に振って頷く。


「まあ、そうですな! だが、これはロケットはロケットでも地球軌道上を周回する偵察人工衛星ですからね?」


「開発から実に100年は経ちましたがやっと実りましたね?」


「ええ、縮退炉を搭載した人口偵察衛星で地球一周を最速5分で回れる夢のような衛星です! 最も速度も自由自在に調整できます! これがあればわざわざドローンを飛ばしてリンクさせなくても直に衛星とCICをリンク出来ますので戦略幅も広がります」


 吉田の説明に日下と橋本は頼もしそうにロケットを見上げると既に設置は終わりつつあり後は発射準備にかかる頃である。


「予定は0700だったな? 後、15分か。名前も“大鷲”か……懐かしいな、その名前は……」


 日下は日本本土決戦の時代に海上自衛隊輸送艦“さがみ”と共に行ったことを思い出す。


「まあ、そう懐かしむことが出来るのもこの打ち上げが成功した後だな」

「ええそうですね。そろそろ司令塔に戻って打ち上げシーンを見ましょうか?」


 甲板上でロケットを射出機にセットした乗員達が傍を離れて後部甲板の方に移ると皆が耳当てを当てる。


 艦内では外に出ることが出来ない任務中の乗員達はモニターで凝視していた。

 日下達が司令塔に入った時、CICから全ての発射準備完了との報告が入る。


「よし、カウントダウンに入るぞ! 発射まで後2分だ!」


 司令塔では皆がモニターを凝視していて今か今かとワクワクしていた。

 デジタル時計の表示が60秒を切る。


 皆が沈黙して艦内では物音一つもたたない程、発射を微動もしない態勢で見ている。


「10秒を切りました! ……5秒前……2秒前……発射!!」


 CICの徳田大尉の声が艦内に響き渡る。

 射出機にセットされている“大鷲”ロケットの後部エンジンに点火されて凄まじい白煙と共に轟音を上げると同時に艦全体が武者震いした如く震える。


 大鷲は無事に発射されて水平に発射されたロケットは態勢を変えて上空へ一直線に舞い上がっていく。


「もっともっと舞い上がれ!!」

 船務科の『岩倉光義』少尉が喝采しながら叫ぶ。


 彼は吉田技術長と一緒に開発に手を貸していたのである。


 日下と橋本もお互い握手をして喜ぶが吉田は真剣な表情でまだまだこれからですと言いモニターを凝視している。


「第一エンジンが切り離されて第二エンジンが点火されるまでは安心できません! いや、衛星が切り離されて軌道上に乗るまでが勝負です」


「そうだな、勝負は最後まで分からないからな! しかし、まどろこっしいな」

「後5分後で第二エンジン点火ですね」


 それから遂に5分に迫ろうとしていてカウント数字が10秒を切る。

 この十秒がとてつもなく長い時間だと全乗員が感じる。


「切り離し成功! 続いて第二エンジン点火! ……え!?……」


 吉田がモニターを見て顔を顰めると日下もそれに気づいてモニターの右上を見ると何と速度の数字が減っていくのを確認する。


「そんな馬鹿な!? 何がおかしいのだ?」


 皆が失敗か? と落胆した時、徳田が画面を見ながら叫ぶ。

「数値が上がっています! 11秒のロスがありましたが当初の予定通りの速度に達します!」


 モニター画面に第二エンジン点火の信号が送られてくると皆が歓声に沸く。

 全員が手に汗を握って見守っている中、衛星は遂に最終段階まで来て“大鷲”を切り離す事に成功する。


「切り離し成功! 自動で予定軌道に乗ります」


 それから順調に進んで遂に予定していた衛星軌道に乗って展開完了する。


 艦内全体に拍手と大喝采が沸き起こり司令塔でも日下達が皆と握手をして吉田にもよくやってくれましたと破顔しながら握手をする。


「徳田君、衛星の自動防衛機能は作動しているかな?」

「はい! プラズマシールドと電磁シールドを展開していますので大丈夫です」


 日下が早速、吉田に衛星の機能を実際に使用してみましょうと提案すると吉田も大いに頷いて何処を見ますか? と聞くと米国東海岸のノーフォーク海軍基地を見てみたいと言う。


 吉田が衛星リンク端末のキーボードを操作しながらノーフォーク基地上空の座標を入力すると自動でその地点まで動き始める。


「大体、一分後で到着です」


 吉田の言葉通り、一分後にはノーフォーク基地上空に到達してカメラの性能をテストする事にする。


 凄まじい鮮明の画面が映し出される。


「……凄い綺麗だな、とても宇宙から撮影しているとは思えない程だ」


 橋本が感心しながら喋ると日下も頷くが急に無言になり画面を見つめる。

 どうかしましたか? と吉田が尋ねると日下は顔を歪めながら苦しそうに呟く。


「何だ、これは!? 世界中の米艦隊が集結しているぞ?」

 日下の頭の中で相当、嫌な予感がしたのだが果たして? 

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