第19話:大事件前夜

 某国ゴビ砂漠の中にある名前がない廃村中央部の元オアシスがあった場所で数人の漆黒の頭巾を被った人物達がヒソヒソ話をしていた。


「マスターの言いつけ通りに伊勢神宮を放火したがこれであの伊400という平行世界を旅している潜水艦はこの世界から弾き飛ばされた! これで邪魔な存在はいなくなったのでマスターも酷くお喜びであった」


「間も無く、日本に政変が発生して我等の尖兵たる傀儡国家が成立する。自衛隊も半数を押さえたとの報告があるぞ? 何にしても邪魔な存在が無くなったのだ! 世界を混沌の渦に巻き込んでその犠牲になるのが日本と言う国だ」


「国民は従順で他国のように暴動等を起こさないから少々、派手にやっても大丈夫だ」


 それから彼らは数十分ほど、話をしていたが迎えに来た漆黒のヘリコプターに搭乗してこの地から去って行く。


♦♦


 同時刻、伊400は和歌山県潮岬沖海底4000メートル地点で艦を停止していた。


「橋本先任将校、いつでも直ぐに行動を移せる準備は出来ているかな?」

「はい、艦長! 抜かりはありませんが……奴等、思い切った事をしますね?」


 先日、発生した伊勢神宮放火事件は日本全国で衝撃を与えたのである。

 その報告を聞いた日下は直ぐに秘密が漏れたのではと思い艦に光学迷彩シールドを展開してこの艦の存在を消す事にしたのである。


「私達の存在を疎ましく思う者の仕業に違いないが不幸中の幸いなのが俺達が既にこの世界から弾き飛ばされたと思っている事だな?」


「ええ、恐らくここ数日の間に奴らは行動に移すでしょうがそれが何かは分かりませんがろくでもないことは確かですね」


「一応、富下二等海佐だけには知らせておきたいのだが……彼の“うりゅう”は何処の地点にいるのかな?」


「現在、佐世保基地に帰投する為、沖縄本島沖を航行しています」

「そうか、取り敢えず彼と合流できる距離まで進むとするか」


 日下の言葉に橋本は頷くと機関室に連絡して艦を動かすように命令する。

 伊400はゆっくりと動き始めて徐々に速度を上げていく。


「針路このまま、50ノットで航行だ。それと……富下さんとあらかじめ決めていた特殊周波数で座標を送ってくれ」


 日下はそう言うと艦長席に座り怒涛の如く短期間の間に起きたことを思い出していたがふと何かを思いついて橋本に言う。


「なあ、橋本君? 確か伊勢神宮の他にも色々な平行世界と共通場所があったよな? 最も私達は天照様が治める高天原圏内以外は関係ないが」


 日下の言葉に橋本も頷くが現時点では使用されていない箇所がありますねという。


「まあ暫くは様子見だが……何かとんでもない事が起こる予感がする」

「……艦長の予感は9割当たりますからね? 色々なパターンを想定して直に行動に移せるようにしましょう」


 日下は再び考え事の世界に入り色々な可能性を浮かんでは消して胸の中に沸き起こっている不安の正体を突き止めようとしたのである。


♦♦


 那覇沖合12キロ地点にて潜水艦“うりゅう”は佐世保基地へ向けて深度300メートルで航行していた。


 笠間総理の意向で伊400と唯一接触できるとの事で単艦での行動を認められていたが伊400と通信途絶した事で戸惑っていたのである。


「……副官に聞くが伊400はこの世界から弾き飛ばされて最早、いないと思うか?」


 富下の問いに副官は少しだけ考えるといや、まだこの世界に留まっているのではないでしょうか? と返答すると富下もそうだなと頷く。


「昔、日下艦長から聞いたのだが他の世界に転移する時期と言うのは高天原の天照様の意向が働いた時と聞いたことがある。伊勢神宮はあくまでも各平行世界と繋がっているだけだとね? 今、第三次世界大戦が起こるかもしれないと言う時期に日本国を守護する天照様がそんな事をするとは思えないから日下艦長達はまだこの世界に留まっていると考えたほうがいいと思う」


「では、何故? 通信途絶して存在自体を消そうとしているのでしょうか?」

「……もしかしたら……陰謀論と言われるかもしれないが私達の想像にも及ばない何者かの第三勢力に警戒しているのではないかと思う」


 富下がそこまで言った時、通信室から緊急連絡が入る。

 “うりゅう”と伊400のみで通信できる特殊周波数が“うりゅう”に飛び込んできてそれを解読した内容であった。


「やはりか! 日下さん達は未だこの世界に留まっているのだな? それで内容は?」


「はい、今後の事を相談したいので何処かで合流しようとの事です! 座標が示されています」


 通信士から電文の内容を受け取ってそれを見ると富下は頷いてこの地点に急行する事を命令する。


「全速力で向かう!」


 “うりゅう”は示された座標に向かう為、エンジンを最大出力にして向かって行ったのである。


「(今の国内は反日勢力は皆無に等しいから最悪な出来事は起きないと思うのだが)」

 富下は世界地図を見ながら自分が想像できる範囲の中で色々と考えたが実現性がないものばかりだなと思ったが実はその中の一つが当たっていたのである。


 それは数日後に発生する……。

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