第17話:最悪の事態へ

 その日は快晴で日本を含むアジア一帯は雲一つない空であった……。

 だが、この日に限っては一つの大都市の空が真っ赤な血の色に染まり消滅したのである。


 その都市はアジアの中でも大都市の一つに加えられて人口2600万人が暮らしていたがたった一発の核ミサイルによって100万以上の人々が蒸発して数十万以上が重傷ないし軽傷を負ったのである。


 日本国総理官邸でも再び緊急招集が掛けられて笠間総理以下20名が会議室に集合する。


「ここにおられる皆様は既に状況を把握されていると思いますが先ほど、ソウルにR国による核ミサイルが発射されて爆発しました。恐らくR国は先日のU国での報復攻撃をしたと断定しますがいかがですか?」


 総理の質問に一人の大臣が手を挙げて発言を求めると笠間総理は頷いてどうぞと言うと彼が立ちあがり意見を述べる。


「総理に一言、申し上げたい! 元はと言えばこの一連の出来事は、あの伊400潜水艦がこの世界に出現した事から始まっています! 我らが頼んでもいないのに勝手にこの世界に来て戦争の種を撒き散らしたのです! 情報によれば平行世界とやらに行く方法は伊勢神宮にあると聞いています。伊勢神宮の最高位でいらっしゃる斎王様に皇室経由でさっさとあの忌々しい潜水艦を別の世界に行ってもらうようにするのがこの混乱を治める方法だと思います! このままでは第三次世界大戦に繋がります!」


 大臣の言葉に首相は何という事を言うのか! と怒声を上げようと思ったが伊400が各平行世界に行くポイントが伊勢神宮だと何故、知っているのか? と思い尋ねる。


「大臣、その情報は何処から手に入れたのですか? 極秘中の極秘ですが?」

「総理、蛇の道は蛇です! それは言うことは出来ませんが先ほどの言葉、考えてはいただけないでしょうか?」


 笠間総理は再び怒声を上げて叱ろうと思ったが彼は何十年も官房長官や政務会長等の役を負っていてしかも愛国心があり笠間政権強化に尽力してくれた恩人だったので喉迄出ていた言葉を呑み込む。


「この件はひとまず棚に上げます。それよりも優先事項は“ソウル”にいた邦人の情報と保護です! 恐らく在K国日本大使館は消滅したでしょうから情報は無理ですが米軍と共同で一刻も早く生き残った邦人保護をしなければいけません! それに……米軍がデフコン1を出せばR国と戦争状態に突入しますが米軍に組み込まれている自衛隊の行動についても考えないといけません」


 総理の頭の中にはしないといけない事が無数に思い浮かんでぞっとしたが己の職責を果たさないといけないと改めて誓った時、秘書官が駈足で入室して報告する。


「今、台湾が独立宣言を出して“台湾国”の成立を宣誓すると同時に我が国に同盟の要請が来たとの事です」


 この報告を会議に出席していた面々がこれは素晴らしい情報ではないか! と喜び笠間も大きく頷く。


「先ず当面の優先事項は邦人救出です! 輸送艦等海自の護衛艦を仁川港や釜山港に進出させて一人残さず邦人を保護するのです! 直木防衛大臣、頼みましたよ?」


 直木防衛省大臣が頷いた時、経営が正常になりつつある国営放送MHKの緊急ニュースが会議室に飛び込んでくると再び皆が仰天する。


 TV画面には未だ巨大なキノコ雲に覆われている“ソウル”が映し出されて次に画面が切り替わると38度線を越えた機甲部隊や機械兵団の車両が無数に映し出されている。


「遂に北が南進を開始したのか……」

「外務大臣、北の将軍に邦人保護の邪魔をしないで頂けますか? と連絡を入れていただけませんか? 拒否したり邪魔するならばこちらにも覚悟があると」


「了解しました、総理がそう言うだろうと確信していましたので先程、それを伝えています。独断でしたが」


「いえ、流石ですね? それではここでだらだらと会議をするよりも各自の判断でこの日本の危機を回避する為に行動する為にも終了します。それと三日後に臨時国会を開きますので承知の程を」


 総理の言葉に全員が起立してお辞儀をすると解散になるが総理は他の事に頭が一杯だったので伊勢神宮の件を頭から忘れてしまったのだがこれがとんでもない事件を引き起こす事になる。


♦♦


 一方、横須賀港を拠点としている世界最強と言われる第七艦隊総旗艦“リンカーン”では艦隊司令官『ロボス』大将が緊張感を以て本国から入電した電文を食い入るように見ていたのである。


「……デフコン1が発動されたぞ!? まあ、オプション・ブラボーだがな?」

「第二次世界大戦終了から初のデフコン1ですね? このまま核兵器の応酬になるのでしょうか?」


「そんなことになれば地球は終了だよ、残るはゴキブリだけだろうな。いや、あの潜水艦も残ることになるな。それよりも出航準備に取り掛かろう! 出撃は明日の1800時」


 排水量40万トンを誇る世界最大と言われる最新鋭空母“リンカーン”は出撃準備に取り掛かると共に原子炉に火を入れる。


「まあ、出撃するよりもここにいたほうが安全なのだがな? あの潜水艦が日本に降り注ぐミサイル等を全て破壊してくれるからな」


 それから数分後、参謀が先程の続きとして現在、ワシントンとモスクワの間で緊急ホットラインが開かれて事態解決の為、話しあっている事をいう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る