第16話:混沌の炎

 一連の伊400による史上最大のICBM弾道弾迎撃作戦の全容はほぼ世界中の首脳部や軍部が目撃したのである。


 世界各国が常識外れた力を持つ伊400を我が国に迎え入れようと食指を動かして唯一、接触出来る日本国に対して、外交使節が途切れることなく押し寄せてくるのだがそれは又、先の話である。


 総理官邸では全弾道弾迎撃完了した事で大歓声が沸き起こっていて笠間総理も目に涙を浮かべながら笑みをこぼす。


「……祖国を護るために航空自衛隊のパイロットに遠回しで死ねと言う非情な命令を出しましたが結果として残酷な結末を実際に見る事は無く終われたのは幸いです」


 笠間総理の言葉に直木防衛省大臣も頷きながらも総理に最高司令官たるものは必要な時に部下に死ね! という非情な命令をも出さなければいけない場面もありますというと複雑な表情を浮かべながらも頷くと手をパンパンと叩いて発声する。


「皆さん、お静まり下さい! 日下艦長を初めとする伊400の活躍によって我が祖国は護られました。これより北海道を不法占拠しているC国軍に降伏勧告を出します。勿論、期限付きです! 降伏を拒否すれば一人残らず生きて日の目を拝めないということを呼びかけて下さい」


 総理の言葉に皆が同意して直ちに降伏勧告を促す作戦が発動して実施されていく。

 翌日、北海道上空に大量のビラが投下されてそれを見たC国軍は軍としての統制が取れていなくて勝手に降伏していく部隊が続出していてこのビラが決定打になって次々と白旗を上げて降伏していく。


 北海道上空から降り立った第一空挺団が次々とC国軍を武装解除していくと共に各基地に籠城していた陸上自衛隊も出撃して彼らと共に職務を全うする。


 笠間総理からは降伏したC国兵は貨物船で全て本国に返すようにとの命令を受けていて武装解除した数万ものC国兵は続々と貨物船に乗り込んでいく。


 その中でこの北海道をC国軍に売りわたした売国奴が逮捕されるが実に40人もの人数が関わっていたのである。


 特に直接、関わっていた人物10名は外患誘致罪で簡易裁判の後、絞首刑になりその他も矯正施設へ送り込まれたのである。


 このICBM迎撃を切っ掛けに世界は自分達の世界とは違う別の世界、いわゆり平行世界と言う存在について議論がされて世界規模でそれを舞台とした数々の異世界物語として数々の作品及びサイトが出来たのであるがそれは別の話である。


♦♦


 迎撃に成功した伊400ではルーデル達の“晴嵐”を回収した後、洋上航行で津軽海峡を通過して日本海に入り哨戒行動をしていた。


「艦長、どうやらうまくいってよかったですね? しかし、これから笠間総理はどうするのでしょうか? C国本土、即ちICBM地下サイロを始めとする施設の破壊命令を出すのかどうかですが?」


「……あの総理ならやるだろうね。それに今なら反撃しても世界から批判の声は殆どないだろうね? 一方、もし何もしなければ舐められるであろうね?」


 そこまで言うと航海科から全日本航空自衛隊基地から空軍機が出動すると共に超長射程国産巡航ミサイル“天照”が200発発射されたことを報告すると日下はふっと笑みを浮かべてやはりしたなと呟く。


「まあ、K国と違ってC国は混乱が起こるだろうが国民は強いだろうね? 国防動員令も日本は殆どの工作員やスパイを摘発したので特に混乱も起きてなく正常だという事だ。意外だが米国は大混乱に陥っているとのこと」


「まあ、米国は移民が沢山いますからね? 全員が星条旗に忠誠を誓っているとは思わないし……」


 橋本の言葉に近くにいた者がそれでは私達の任務もそろそろ終わり再び別世界に転移する時期なのでしょうか? と尋ねると日下も頷く。


「恐らくな、今後はR国がどんな風に動くかどうかだね?」


「艦長、米国の無線傍受を解読した結果、キナ臭い動きが出ていますね? R国の原子力潜水艦を始めとする全潜水艦の活動が活発になっています」


「……そうか、ラスプーチンはやるつもりかな? おそらく初撃からは核兵器は使わないと思うが……」


 その言葉を言った瞬間、オペレーターが叫び声と悲鳴を上げる。

 全員が何事だ? というと震え声で喋る。


「……タイフーン級原子力潜水艦から弾道弾が発射されました! たった一発ですが……あれは核弾頭付きだと思われます」


「計算しろ! 何処に着弾する? クソッ!! 迎撃準備だ!」

「……!? 着弾地点判明! K国首都“ソウル”! です」

「ソウル……? 何故だ? 最早、何の価値もない筈だが?」


 日下の疑問に西島航海長が何かを思いついたようで確か現在、米国副大統領と上院議長がソウルに訪問している途中ですと言う。


「……CICに繋げ! 徳田、迎撃可能か?」

「……こちらCIC徳田! 無理です! 間に合いません!」


「とにかく出来るだけやれ! K国は気に食わないが罪のない一般市民が犠牲になるのは防ぐのだ!」


 だが、準備が出来て迎撃弾を発射する寸前、無情にも遂に二百キロトンの核ミサイルが“ソウル”上空で炸裂する……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る