第15話:伊400の神業的

「一体全体、何がどうなっているのだ!?」


 C国首都“北京”中央部国家主席『曹猛金』が机を激しく叩いて副主席に怒鳴ると副主席も動揺しながら私にも何が何だかと弱弱しく言うと曹主席は増々怒鳴る。


「お前達が可及速やかな行動で全てうまくいくと言っていたが結果はこんな体たらくではないか! 我が海軍の9割が一瞬で喪失したばかりか虎の子といえる戦略原子力潜水艦も全て失った! しかも訳が分からない謎の潜水艦だ!」


 曹主席の怒りが増々激しくなった時、急に頭に激しい痛みが襲ってきて叫び声を上げて崩れ落ちると意識を失ったのである。


「主席!! 主席、大丈夫ですか!? 急いで病院に運べ!」


 最高指導部が倒れて昏睡状態になった事は一瞬で国内に広がったばかりか米国を始めとする日本やR国も知ることになる。


 その大混乱の中、北京軍区の総司令官『趙春雷』大将が軍を率いて一瞬で北京を制圧して臨時国家主席として統治すると発表する。


 そしてその時刻にU国首都“キエフ”に核爆弾が投下されてR国・U国大統領を始めとする閣僚達が一瞬で死亡した事が知らされると『趙春雷』は今こそ偉大な中華による世界統一をすることだと決める。


 国防動員令を全国に発動命令を出すと共に全世界中に散らばっているC国人に今こそ祖国の為に働く時が来たと激励してその地で破壊活動をすることを命じる。


 それと同時にICBM弾道弾全てを日本に落とす事を命令するが流石にそれは全面世界核戦争を引き起こすと反対意見が出たが米国も日本が消滅しただけで報復核攻撃を行うことはない! と自信満々で言う。


これ以上反対意見を出しても粛清されるであろうと危機感を覚えて了承する。


臨時主席の命令は直ちにICBM弾道弾を保管しているサイロに送られてその責任者は粛々と何も考えずに命令通りにマニュアルに沿って発射準備に取りかかる。

 そして……全弾が発射される。


♦♦


 200本と言う前代未聞のICBMが発射された事は米国でもキャッチ出来たがそれ以上に“キエフ”に核爆弾を落とした爆撃機が撃墜された時、米国が極秘建造した機体だったので大統領以下閣僚達が大騒ぎになっていたのである。


「今、モスクワでは強硬派の『ラスプーチン』が臨時大統領に就任して報復攻撃を叫んでいてどうやらそれが実行されそうです」


「まさか……核の報復ですか?」

「…………」


 大統領の表情に閣僚の皆が真っ青になる。


「今、全国内及び国外の米軍にデフコン2を出しました。最悪、デフコン1を出すつもりです……。何処でボタンを掛け間違ったのでしょうね?」


「……大統領! そもそもこんな風に事態が大きく動いたのはあの伊400とかいう訳が分からない潜水艦です! あの存在は世界中にとって害悪そのものです! 私達が相手するのはR国ではなくあの潜水艦ではないでしょうか?」


「……あの潜水艦を相手する事は……日本と事を構えるという事ですよ? あの笠間が政権を完全に掌握するまでならどうとでもなりますがあの女狐が政権を握った日本は相当、手ごわいわよ?」


「……大統領、お言葉ですが冷静になって下さい! もっと大事なことを忘れてはいませんか? 何処の誰が極秘に造られた最新鋭爆撃機を盗んで核爆弾をも手に入れた事です! 全世界中の米軍基地や国内の各基地に問い合わせましたが一発も紛失していないとの事です。それにあの常識外れの塊である潜水艦を撃沈できるのですか?」


 話が紛糾している時に誰かが叫び声を上げてモニターを指差すと皆が振り向く。


「!?!?!?……まさか……!?」


「し……信じられませんが……高度8万メートルまでを僅か5分で中間圏に達しています。どうやらICBMを迎撃するのだと……」


♦♦


「こちらルーデルだ! ICBMの大編隊をキャッチした! 確か多弾頭システムで発射から6分後……高度二万メートルに分裂するのだな?」


 伊400司令塔ではルーデルの問いに日下がそうだと言うと了解との連絡が入る。


 無数のICBMが炎を上げて上昇していく途中、高度一万メートルに達した時に三機の“晴嵐”はエンジンを噴かせて最大加速をしながらレーザービーム砲を使用する。


 モニターには次々と撃墜されるICBMが映し出されていて僅か3分で100本のICBMが撃ち落とされる。


 誰もがスターウオーズの実写版を見ているようで我を忘れてモニターを凝視していてそれはモスクワでも同じであった。


 日本海や太平洋では海上自衛隊のイージス艦を始めとする弾道弾迎撃システムが立ちあがっていて陸上には迎撃ミサイル発射車が全国各地に展開していた。


 日本各地の上空で破壊されたICBMの残骸が流れ星のように空を覆いながら落ちていくのが観測されていて全てが海上に落ちて行き残骸回収をするために手が空いている護衛艦が出動している。


 ルーデル達はそのまま次々とICBMを撃ち落としていくが遂に残り二発が多弾頭に展開する高度まで達する。


 伊400では日下がじっとモニターを見つめながら色々と考えている。


「残り二発か……だが、“晴嵐”もかなりエネルギーを消耗しているな……」


 日下が呟くと無線機から悲痛な声が聞こえてくる。

「くそっ!! エネルギー切れだ、後は真打で頼む!」


 ルーデルの問いに日下は了解! と返答して命令を出す。

「ICBM多弾頭破壊弾を15センチレールガンに装填! 急げ」


 後部15センチレールガンに多弾頭迎撃弾が装填されるがこれは多弾頭に分かれた時にそれぞれをロックオンして撃ちだされる砲弾で先端には10発の小型迎撃弾が治められているのである。


 首相官邸では“晴嵐”がICBMを破壊するごとに歓声に沸くが笠間は直木に各地に展開した迎撃システムは作動するのね? と質問すると直木は大きく頷く。


「首相! ICBMが多弾頭に展開しました! 今、各基地からF15・F2が離陸していますが……一・二発は覚悟しないと……」


「落下地点は?」

「計算によりますと広島・長﨑・大阪・神戸・名古屋・横須賀・新潟・岐阜市の8つです!」

「東京は無事か……」

「日下艦長はよくやってくれました! 198発のICBMを撃ち落としてくれたのです。恐らく世界の何処を捜しても無理でしょう! 非情な事をこれから言いますがそれぞれ個々の命でこの日本を救えと航空自衛隊の各機に命令してください」


 首相の言葉に皆が息を呑むがこの命令は体当たりしてでも守れと言う命令でいわば死ねと言うことであった。


「成功しても失敗しても実行した隊員は二階級特進で靖国に軍神として讃えます。遺族には墓場まで国が面倒を見ます」


 首相の言葉は直ぐに航空自衛隊の各機に伝えられる。

 皆が首相の言葉に感を打たれて闘志が沸き起こる。


「靖国に祭られるとさ? 家族も死ぬまで面倒を見てくれるのか」


 8つに分散した弾頭が目標地に向かって落下を始めると航空自衛隊機が体当たり覚悟でアフターバーナーを点火すると同時に無線機から声が聞こえてくる。


「勇敢なる自衛隊の各員に告ぎます! 貴官達の想いは充分に組みましたが憂いる事はありません! 間も無く処分します」


 その瞬間、15センチ砲レールガンが轟音を上げて打ち出される。

 そしてその砲弾が突如、八分割して落下している弾道弾に次々と命中して消滅させてしまう……一片残さず……。


「……よし、ミッション完了!」

 伊400司令塔で日下は笑みを浮かべて呟くと橋本も頷く。

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