第12話:日下と富下
自衛隊による先島諸島奪回から二日後、伊400は佐世保基地内の目立たない桟橋に接舷していた。
周囲を大きな柵で囲っているので簡単には見れない所であり、隠れ蓑として潜水艦“うりゅう“が停泊している。
その伊400甲板上で日下艦長と富下艦長が固い握手をして挨拶していた。
「ようこそ、富下二等海佐! 一度、さしでお会いしたかったですがこうして直にお目にかかれて嬉しく存じます」
「恐縮です! 我等海自全隊員にとって旧日本海軍は大先輩にあたりますし日下艦長という大東亜戦争を生き抜いてなおも戦い続けていらっしゃる……尊敬いたします」
二人の会話はそれから数分間続いたが日下の案内で伊400船内に入ることになったのである。
勿論、日下以下の乗員達も海上自衛隊の最新鋭潜水艦の内部は興味津々なので交互に訪問する事にしたのである。
「こ……これが……伊400の内部ですか!? 最新設備が整っている何処かの研究室みたいな雰囲気ですね?」
富下艦長以下数名は“うりゅう”代表として艦内見学を行ったのである。
日下の話ではこの伊400が未だ通常の潜水艦だったときは狭い空間であったが大改造された時、こういう風になった事を話す。
度肝を抜かれながらも日下艦長自ら艦内のあちらこちらを案内してくれたが核融合炉区域・武御雷神の矛区域は流石に乗員以外は立ち入り禁止だと伝える。
「それはそうですね、伊400にとっても極秘機密ですからね?」
富下は素直に頷くと他の者達も頷いて理解を示す。
“うりゅう”の副官が伊400と言えば晴嵐が必須ですが一度、拝見したいですと言うと日下も快く頷いて格納庫に案内してくれる。
格納庫に入ると晴嵐が翼を折ってその機体を休めていたが自分達が知っている晴嵐とは形が違う事を言うと日下は頷きながらこれは大改造された晴嵐で外見は旧日本海軍のジェット戦闘機“橘花”に似ていて翼に二基の特殊エンジンを搭載していることを話してくれる。
「高度八万メートルまでを僅か5分で到達できてマッハ8で飛行できる性能を持ち、固定武装として30ミリレーザービーム砲一門を搭載しています。ICBM等の弾道弾迎撃も兼ねています」
日下の説明に富下達は開いた口が開かない状態であった。
その富下達に日下は三機の晴嵐に乗るパイロット三名を紹介する。
「一番機担当の『ルーデル』魔王閣下・二番機担当の『岩本徹三』大尉・三番機担当の『岸本忠雄』中尉だ!」
富下達は三人のパイロットに会えて非常に感激するがルーデルがあの有名な魔王閣下本人と知って腰を抜かす程、驚いたが二番機の岩本徹三があの撃墜王と知ってこれもまた、吃驚する。
「私の兄が航空自衛隊のF15パイロットなのですが尊敬する人物は岩本徹三と言っていました……本人がいれば卒倒して感激したでしょうね?」
三番機の『岸本忠雄』少尉は別世界で新乗員として乗り込んで40年の歳月が経っていたのである。
お互い和やかな雰囲気で会話していたが整備する時間なのでお開きにして最後に固い握手を交わして格納庫を出て行った。
一通り艦内見学が終了して食堂に行き一息いれている時に富下はあるものを見て吃驚する。
「日下艦長、この写真に写っている方はもしかして……?」
「ええ、その通りです! 昭和天皇……いや、裕仁陛下ですね」
日下を始めとする全乗員と裕仁陛下の集合写真が額に入れられて飾っていたのである。
「日本本土決戦が終わった直後の写真です……。この中の二割は別世界の一員として生きていく覚悟を決めて艦を降りて行きました」
日下は懐かしそうな表情で集合写真を眺めると富下達も頭を垂れていた。
それから日下は日本本土決戦での石原莞爾達の活躍を話すと皆が感激していたのである。
「伝説の樋口季一郎閣下や石原莞爾閣下と共にですか、素晴らしいですね」
それから簡単な食事をして富下達が“うりゅう”に帰還する時間まで和やかな対話を交わして退艦していく。
富下達が“うりゅう”に戻るのを見送った日下は乗員達に半日だけの上陸を許す事にしたのである。
何十年ぶりかの本土上陸に乗員達は歓喜の声を上げていた。
富下艦長から提供してもらったこの時代の日本の紙幣や硬貨を手に持って佐世保基地に勤める職員や“うりゅう”の乗員達の案内で佐世保の街に繰り出したのであった。
翌日、英気を養った伊400は明後日に行われる北海道奪回作戦の援護に回るために先発として出港する事になった。
「それでは富下さん、当艦は出港しますが富下さん達は参加しないのですね?」
「ええ、残念ながら当艦を始めとする潜水隊は南方担当ですからね? 成功をお祈りしておきます!」
二人は笑みを交わして敬礼をする。
富下は何かを思い出して日下に笠間総理が是非、お会いしたいと言っていたことを言うと日下は快く頷いて又、連絡しますと言い日下は艦橋甲板まで行くと伊400はゆっくりと桟橋から離れていく。
巧みな操艦で“うりゅう”の前方を横切って沖合に向かって航行する。
その姿を富下はじっと見送っていたのである。
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