第10話:米国大統領の憂鬱
ここはアメリカ合衆国首都“ワシントンD・C”ホワイトハウス大統領執務室にてアメリカ合衆国初の女性大統領『レナルド・ヒラリー』が険しい表情をしながら出席者達を眺めると頷く。
「国務省・財務省・国防総省・司法省・内務省・農務省・商務省・労働省・運輸省・エネルギー省・教育省・退役軍人省・国土安全保障省の方々にお集まり頂いた理由は既にご承知かと思います」
広い執務室であるが大統領以下15名が勢揃いして各自着席していたので窮屈な印象を与えているが今は誰もがそんな事を気にしていなかった。
「偵察衛星が録画した映像を見たがCGではないのだな?」
エネルギー省大臣が信じられない表情をしながら口を開くと堰を切ったように他の大臣も思いのままに口を開く。
皆に共通しているのはあのSF映画や物語でしか見たこともない兵器が本土に攻撃してくるのではないかという事であった。
「今、この部屋に我が国が誇る世界一天才物理化学者『ハミルトン』博士をお呼びしていますので彼が来れば恐らく分かる事でしょう」
数分後、扉をノックする音が聞こえると扉内の大統領護衛官がゆっくりと扉を開ける。
執務室にはいって来たのは白髪の品がある初老の人物であった。
「初めまして、ハミルトンと申します」
帽子を取りながら会釈をすると大統領は笑みを浮かべて早速、会議に参加して欲しいと言うと彼は頷く。
「博士、もう既に映像は御覧になられましたか?」
大統領の言葉にハミルトンは深く頷くと巨大スクリーンに映し出されている潜水艦を見ながら信じられない表情をしている。
「あの潜水艦の前部甲板に展開しているのは正に正真正銘の荷電粒子砲ですね! 信じられないですが……」
「博士、私はSFとか興味ないのですがあれが凄まじい兵器だとは承知していますが今の現代の技術では不可能とお聞きしましたが?」
大統領の言葉に博士は頷くと説明に入る。
「かつてレーガン政権時にSDIの研究が進められていたことは御存じでしょうが理論的には現在の技術でも実現可能ですがそれを兵器として使用するには天文学的な電力が必須です。最低でも10ギガワット以上の電力が必要ですがあの映像を見る限りですが恐らく10億ギガワット以上の電力を使用していると思います。全地球上の電力を集めたとしても足元にも及ばないでしょう! あの潜水艦の動力は超高性能熱核融合炉を搭載していると断言します! しかも今現在、この世界で研究が進められている核融合炉の何百倍もの超高性能です。残念ながら今の技術ではあの威力に匹敵するには数百年はかかるかと……しかし、それが実現できれば照射した物体を原子崩壊によって消滅・溶解することが出来ます。正にスターウォーズの世界ですね」
博士の説明に執務室は無言状態になって誰もがスクリーンに映し出されている映像を見ていたがやっと大統領が盛大な溜息をついて口を開く。
「……とんでもない存在が出現したわけね? 博士、その他にも信じられないのですがあの潜水艦の装甲はどうなっているのでしょうか?」
この質問には国防省も関心を持っていたが博士の答えにガックリと肩を降ろして溜息をついてしまう。
「解析衛星での見聞ですが見たこともない物質が混じっていますね。大体の目安ですが4種類の鉱石を使用しているかと? この内の三種類は判明していましてこの世界にもありますがこの中でもヒイイロネイカと言う鉱石は日本の東北地方の山脈で沢山、採れますが残念ながらその鉱石はそこしかないのですがそれだけあっても意味はありません」
博士の言葉に大統領がその三種類の鉱石があれば研究が勧められるのですか? と聞くが博士の答えはノーであったのである。
「残りの一種類の鉱石は何か分かりません! ただ間違いないのは地球上にあるということですね。最もあのような装甲にするにはかなりの試行錯誤が必要になりますので100年はかかるかと……しかしあの潜水艦の後部船体にあるレールガンは数年後にはあれと同等の物は開発できるかと」
博士の言葉の後、大統領はエネルギー省大臣の方を向いてあの天文学的な電力を世界中の原子力発電所で賄うことは出来るでしょうかと聞くが彼の言葉はノーで世界中の原子力発電所のエネルギーを出しても届くことはないという。
皆が黙ってしまい時計の秒針の音だけが執務室に聞こえていたが国防総省大臣が口を開く。
「あの潜水艦が常識外れの性能を持つことが分かったが問題はあの潜水艦の乗員は別世界の日本人だという事だ! 博士、平行世界と言う物は実際にあるのかな?」
「ええ、我々の世界は無数にある世界の一つに過ぎません。例えば第二次世界大戦でナチスドイツが勝利した世界もありますしこの世界でのかつての太平洋戦争では日本本土決戦は行われなかったですが別世界ではあったという事です」
「あのホログラムでの演説だが日本を脅かすものは許さないと言っていたが……あれは本当にするであろうな」
その後、色々な意見が飛び交い二時間程度の予定が実に12時間と言う長時間にも渡ったのである。
「結論ですがあの潜水艦とは事を構えないようにすると共に日本の笠間政権とこれ以上に密を以て接する事にしましょう! それとこれ以降はあの潜水艦を徹底監視する事が最重要任務です」
大統領の結論に皆が賛成すると同時に引き続き情報収集をすることを決定したのである。
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