第5話:日下の決断

 伊400により八割の潜水艦を喪失したC国海軍潜水艦基地“青島”では大騒ぎになっていた。


「突然の通信途絶とはどういうことだ? 米国か小日本から攻撃を受けたのか?」


 基地司令の質問に副司令が首を横に振りながら奴らは一切、攻撃をしていないしそれにもし攻撃を受ければ何かしらの電文を発する筈だが何の前触れもなく二十隻もの潜水艦を喪失してしまったのである。


「この事態を北京に報告したとしても何を言っているのだ? と言われるが正直にありのまま報告せねばいけないな」


「司令! 『曹猛金』主席は聡明で寛大な方です、いきなり銃殺とかはないと断言できます」


「……っ!! 主席に連絡だ、ありのままにだ」


 副司令はそのまま小走りで部屋を飛びだしていくと基地司令は顔面蒼白になりながらも詳細な情報を手に入れろと命令する。


「……一体、何が起きているのだ?」


♦♦


 一方、伊400は“うりゅう”と対話していた。


「三日後には海上自衛隊の“おおすみ”“しもきた”の二隻が強硬上陸を仕掛けますが日下艦長が言われた特殊光学シールド発生装置を装備した陸上自衛隊特殊部隊二十名を先発させたいと思いますが?」


「ええ、了解しました! 光学迷彩スーツは直ぐにでもお渡しできますが現在、先島諸島を始めとする島の何処が制圧されているのですか?」


 日下の言葉に富下は地図を持ってきて印をつけていく。

 それを見た日下達はう~~むと唸る。


「与那国島・西表島・石垣島・宮古島か……それで自衛隊の人的損害は? 島民たちは……?」


 富下は非常に険しい表情をして詳細な被害を述べるとじっと黙っていた日下が鬼の形相になって絞り出すような声を出す。


「陸上自衛隊645名に……村民や島民の男性が数千人……が……犠牲か! そしてその背後には売国奴達が絡んでいるのだな? よろしい! 卑劣な売国奴を一人残さず地獄に叩き込んでやろうではないか! その前にやる事があるな?」


 久しぶりに見た日下の鬼の形相に橋本達を始めとする乗員達も気を引き締めると共に同胞の無念を晴らす事を新たに決意する。


「各島の奪回は陸上自衛隊にお任せするとして……当艦はC国海軍を殲滅する! 位置は特定できている故に……」


 それから日下と富下は光学迷彩シールドの受け渡し方法を決めて通信を切る。

 日下はじっと目を瞑って何かを考えていたがカッ! と目を開くと口を開く。


「武御雷神の矛を使用する! C国海軍主力が台湾沖に集結しつつあるから全速力で航行して奴らの前面に出て武御雷神の矛をお見舞いしてやる」


 日下の言葉に司令塔にいた全員が大きな声で了解ですと答えると伊400は核融合炉出力限界を超えて最大速度70ノットで台湾沖に向かう。


 潜水艦“うりゅう”では伊400が凄まじい速度で去って行くのを見ながら溜息をつくと同時に富下は呟く。


「気の毒に……」

「え? あの伊400ですか?」


 副官の言葉に富下は首を横に振るとC国海軍だよと言う。


♦♦


 その頃、C国原子力潜水艦を追尾していた各米国攻撃型原子力潜水艦でも何が起きた? と混乱状態に陥っていたのである。


「一体、奴らに何が起きたのだ?」


 米国海軍ヴァージニア級潜水艦“トレス”では艦長『スミス』大佐が各乗員に尋ねるが誰も答えを出すことが出来なかったのである。


「攻撃を受けた様子もないし予兆も無く突然、爆発して轟沈した。事故だとしても同時刻に二十隻もの潜水艦が一斉に事故するとは考えられない」


 スミスの言葉は他の米国潜水艦でも同じ状態であった。


 勿論、この状況は横須賀第七艦隊司令部に報告をしたが司令部から阿保か? 何寝語を言っているか? エイプリルフールではないぞと無線を切られたのである。


 何の答えも出ないスミス大佐の元に航海科の乗員が摩訶不思議そうな表情で艦長に言う。


「今から数十分前……C国潜水艦が突然爆発した前後ですが当艦の真横に設置している水中カメラがこんなものを撮ったのです」


 スミス大佐が彼から写真を受け取るとそれを見て??? の表情をすると副官や他の者にもそれを見せる。


「魚雷か? しかし不鮮明だな? 確か当艦の水中カメラは超高性能だぞ? 最もそれは日本製の部品が主なのだがな?」


 写真を持ってきた乗員の言葉によるとそれは不鮮明なのはあまりにもの高速の為で計算してみると時速350ノットの超高速と共にホーミング機能及びステルス性機能を備えていると思いますと言う。


「……正気か? そんな魚雷はこの世界の何処を捜しても存在しないぞ? ……いや、待てよ……一年前に本国で聞いたことがあるな? 何やら得体の知れない存在が日本に味方していると……。ふむ、この写真を横須賀に届ける必要があるな」


 それから数十分後、横須賀司令部から付近に展開している潜水艦は直ちに台湾沖に急行してC国海軍の動きを監視しろとの命令が来る。


 但し、“トレス”は至急に横須賀に帰投せよとの報告が入る。

 しかも可及速やかに戻れとの命令であった。


「よし! 久しぶりに地上の空気を吸えるかもな? 針路を横須賀に転進!」


 潜水艦“トレス”は急旋回して最大速度で横須賀に針路を取る。

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