第3話 阿久津英(アクツハナブサ)

水澤先生と出会ったのは中学生の時だった。

クラスに馴染めず、「英」という名前が原因でいじめに遭っていた。

「ブサイクな顔のくせに、ホストみたいな名前だな」と。

体育の授業で、グループ分けをする際

仲の良い子達で集まって行く中、僕は1人取り残された。体育の教師が「阿久津をどこかのグループに入れてくれ。」と言う。

なんて苦痛で惨めなんだ。僕が1人になる状況は毎回じゃないか、この教師はわざとやっているのか…。

すると1人の男子生徒が

「先生、気づいて下さいよ。英君と一緒にバレーボールしたい人なんて居ませんよ。英君が少しでも、バレー強かったら考えてあげてもいいですけどね。」

すると他の生徒もつられて「足でまといは来んな」「空気が悪くなる」など罵声が飛んだ。

我慢の限界だった。今すぐ消えたかった。

「先生、具合悪いので早退します。」

そう言って僕は逃げた。逃げるしか方法が分からなかった。走って教室に向かっている途中

「全部見ていたわよ。」

この時声を掛けてくれたのが「水澤久美」だった。

「ねぇ、帰る前にちょっとお茶して行かない?」

今は誰とも話したくない。なんでこんな時に…

「なんで教師って気づかないのかしらね。」

「えっ?」

「貴方がいじめに遭っている事。気づかないフリをしているのかしら。」

なぜカウンセラーが知っているんだ?関わった事もないのに。

「だから言ったじゃない。全部見ていたって。立ち話もあれだから、中入って」

校舎の2階にある相談室。初めて入った。

相談室になんか入って行ったら噂にされるし、入りにくい。

「相談室って名前変えようと思うの」

見透かされている…?やはり心理士は心が見えるのだろうか。

「座って大丈夫よ。」

ソファーに座り、大福と日本茶が出された。

「先生、学校でお菓子はさすがに…」

「真面目ね。甘い物は興奮状態を鎮めてくれる。ショックな事があったのだから少しくらい、いいと思うけど。それとも洋菓子の方が良かった?」

「いえ…そういう事ではないです。」

少し罪悪感があったが、頂く事にした。

「全てを理解している訳ではないけど、もし教室に行くのが辛いなら、相談室に登校するのはどう?」

「えっ、そんな事出来るんですか?でも、クラスの連中に馬鹿にされそう…」

「大丈夫、私が守るから。何も気にしなくていい!」

親には何て言う?許してくれないだろう。それに、いじめの事を話したくない。

「ここに登校する事は担任にしか言わない。登校時間もズラして、誰にも会わないようにする。」

「親には何て話せば…」

「いじめの事は話した方がいいと思う。勉強の事は心配ない。私が教えるから」

「カウンセラーが普通そこまでする?」

「私と同じ目に遭って欲しくないのよ。現にここで勉強している子も居るのよ。塾代わりに使っている子も居る。」

良い先生なんだと思う。だがそれと同時に不信感を覚えた。

校長はこの事を知っているのだろうか?

さすがにカウンセラーが出しゃばり過ぎではないか?

「学校は生徒を守る場所よ。それが出来ない教師ばかりなら、私が守るわ。」

「何故そこまでするんですか?」

「さっきも言ったけど、私と同じ目に遭って欲しくないの!14歳は1番大事な歳なのよ!!」

穏やかさはなく、物凄い剣幕だった。狂気を感じた。

この先生に昔何が起きたのだろうか…

恨みのような感情が伝わってきた。

きっと心に絆創膏を貼っているんだ。

あの時はそう思った…。

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