第47話 ゲームチェンジャー
「天の使い? なんの話かしら~?」
ふわふわなストロベリーブロンドの髪を手でかき上げて、柔らかな笑顔を保つジュリエットもどき。
天使らしい完璧な微笑みだが、それで何とかなると思っているのだろう。焦りを必死に隠しているのを感じる。
「さっさと白状した方が楽よ」
白状しないっていうのなら、拷問するまで。
相手が相手だ。容赦などしない。
ジュリエットもどきは深い溜息とともに大きく肩を落とす。同時に彼女の背中から純白の翼が生え、髪もツインテールへと変わった。
ステージ上で肩を落とす天使は、まさに絵画。息を飲むほど美しく、彼女の周りの空気は全てが神々しい。
そっと地につける純白の羽もドレスのようで綺麗だった。彼女は落胆しながらも、右手をズボンのポケットへ突っ込む。
「きゃっはー★ ばれちゃったら、仕方がないにゃん……………」
………………え?
ポケットから出された真っ白な右手にはスマホ。
この異世界ではまず見ない電子機器。
なぜにスマホ?
なんでここで?
いや、その前にちょっと待って。
この子、語尾に『にゃん』とかつけてた?
え、天使よ?
気品で満ち溢れてるあの天使よ?
『にゃん』ってある?
…………うーん。何だかヤバい人。
ヤバい天使の予感がする。
天使は自撮り棒を取り出し、スマホを取り付ける。
「みんな、見てたー?★ 私、やばやばやば大ピンチちゃんにゃ~ん★ アドヴィナにばれちゃったみたいにゃ~ん★」
そして、カメラに向かってピースし始めていた。
「圧倒的大大大ピンチちゃんな私だけど、ここでチャット追っかけていくにゃ~ん★」
なんだろ。これ。
もしかして、配信してる?
「『底辺天使ミシェル様へ♡ デスゲームを壊して、アドヴィナって女を倒してください! 応援してます!』みろりんりん、応援ありがとにゃ~ん★ マジ私頑張るにゃ~ん★」
底辺天使ミシェルは、ひたすらにカメラに向かって媚を売る。私を置いて、彼女はコメントを読み続け。
「みんな、どしどしスパチャ送ってにゃ~ん★ 私頑張っちゃうにゃ~ん!★」
さらに、天高く上げた自撮り棒の先に向かって、ウィンク、ウィンク、ウィンク。まるでY〇uTuberのよう。見た目も、Vの方かしら。
「………………」
まぁ、私を転生させてくれた狂女神がいたんだ。別にY〇uTuber天使がいてもおかしくない………おかしくはないが、こんなやつらが世界を管理していると思うと、将来が非常に暗い。
セイレーンといい、あの
「じゃあ、みんなにアイデア聞くにゃ~ん!★ チャットで提案よろしくにゃ~ん★ あ、スパチャも待ってるにゃ~ん★」
天使はまるで私がいないかのように、画面の向こうの人たちに話し続ける。歌姫だった時には気高さを感じたのだが、今は何と言うか………アイドルみたい。
ピロンっ。
「おっけー★ 決まったにゃん★ アドヴィナちゃんはー、問答無用でし★け★い、にゃんっ!」
どうやら投票の末、私の処分が決まったようで、天使はきゃぴきゃぴと判決を言い下した。ギャルのノリだった。
ピロンっ。
「あ、面白コメント来た★ ふむふむ、なるほどぉ………死刑前に、それをするのは鬼畜だにゃん★ いや、天国かにゃん?★ いいかも★ よぉーし、みんな死刑の前に面白そーなことしてみようと思うにゃん★ 見ててにゃん★」
うーん。面白そーなことって何かしら………。
私がジト目を送っていると、ようやく天使はこっちを見てくれた。
「ねぇ、あなたの本当の名前は、ミシェル?」
「そうだにゃん★ 私は底辺天使ミシェルちゃんにゃん★」
「…………人間をロボに変えたのはあなたの仕業?」
「うん、私にゃん★ チャットでアイデアぼしゅって、やったにゃん★」
「じゃあ、あの双子に魔法を使えるようにしたの?」
「うん、それも私にゃん★」
魔法使用を可能にしていたのは、やはり彼女だったか。あんな術式改変、天使ぐらいにしかできないわよね。さらに私は胸の内で引っかかっていた疑問を彼女に問うた。
「なぜデスゲームを止めないの?」
術式を変えれたのなら、デスゲームを止めることもできたはず。複雑化していた魔法陣だったが、彼女ぐらいなら解析も編集もできたはずだ。
そう問うと、ミシェルは苦し気に笑った。
「それは普通にできなかったにゃん★ そりゃあ、始めは主様のお願いもあって、デスゲームの術式解除に取り組んだにゃん★ でも、私の手には負えないようにゃん★」
「あなたの主……神にならできると言うの?」
「んー、それも分からないにゃんっ★」
じゃあ、誰にも解除できない可能性があると。へぇ、神殺しも場合によってはできるのね……………。
「そんな術式構築するなんて、アドヴィナちゃん、一体誰に手を貸してもらってるにゃ~ん?★」
「……………その顔、誰か分かっているんじゃないの」
「うん、まぁ何となくにゃんよー★ 私の出番ってことはアイツ案件なのは分かるにゃーん★」
ミシェルはウィンクしてピース。もうウザさもイライラも超えて、無の境地にいた。
「取りあえず、君を捕まえて、ナアマちゃんって子に交渉しにいくにゃん★」
「ハッ、交渉できるのかしら? デスゲームをろくに改変できなかったあなたに」
すると、ミシェルは天使とは思えないほど、口角を挙げてニヤリと笑い。
「できるにゃん★ このデスゲームの欠点、私は知ってるにゃん★」
パチンと指ならし。
その音にエコーがかかり、周囲に響く。
デスゲームの欠点………そんなものないわ………。
「じゃあ、アドヴィナちゃん、おやすみにゃん★」
彼女の挨拶で、私の視界は暗転した――――。
★★★★★★★★
気づけば、朝だった。
「失礼いたします」
シャーとカーテンが開けられる音ともに、聞こえたのは驚くほど爽やかな男性の声。その声はよく知っているものだった。
いつも嫌悪しか向けてこないのに、今日はなんだか優しいような………………。
目元を手でこすりながら、私はむくりと体を起こす。
声の主は、本来私の家にはいないはずの人。
おそらく私の聞き間違い。
あの人がここにいるはずがない。
誰かと間違えた……サクラメント家の執事の誰かなのだろう。
寝ぼけまなこながらも、ベッド脇の彼へ視線を移す。
「………………ん?」
あれ? おかしいな?
私の目おかしくなったのかな?
見えたのはあの燃えるような赤髪。
太陽のような橙の瞳と目があった。
「おはようございます、アドヴィナお嬢様。今日も気持ちのよい朝ですね」
ベッドわきで爽やかな笑みを浮かべて、迎えてくれた人。
それは燕尾服をまとったエイダンだった。
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