第22話 豚の子とクソガキ
カジノの部屋を出た先の廊下。
そこで待っていたのは1つの鏡。
鏡は廊下のど真ん中で宙に浮いていた。
目の前に立つと、鮮明に映る自分の姿。
よく目を凝らして見るとその奥には闇があった。
「鏡なしで、このまま自分の足で駆けまわってもいいけれど…………」
折角のギミック。
異世界らしい瞬間移動ができるという装置。
「使わないのはもったいないわね!! 行ってみましょうか!!」
転移はギャンブル。
やるまで、答えは得られない。
さて、
もしかすると、ハクトと以上に面白い人に出会えるかもしれない。その好奇心と期待とともに、暗闇の鏡へ飛び込む。
「ここは…………」
一瞬視界が暗くなったその先。そこにあったのは廊下の奥まで続くレッドカーペット。左を見れば、一定間隔で個室へと繋がるドアがあった。どうやら、客室が集まっているフロアのようだ。
戦闘らしい音も聞こえない…………。
私は再度近くにあった鏡へ身を投げる。
「あれ………?」
でも、次に移動したのも誰もいない客室フロア。先ほどと全く景色は変わらない。一瞬脳がバグった。
…………ま、ありえなくはないか。客室フロアは6階から13階。同じ景色になってもおかしくはない。
しかし、場所を移る度に、期待度は急降下。誰もいないか、つまらない人に出会うか、その二択だった。
「180人いるんだから、1人ぐらい面白い人間がいるでしょうに」
あまりにも残念な遭遇に、愚痴をこぼしてしまっていた。もし、次誰もいなかったら、もう自力で探そう。
そう決意して、飛び込んだ鏡の先。
「ごきげんようぅ、おバカなアドヴィナ」
赤いカーペットが敷かれた廊下に響く、少女の声。
30m離れた先にいたのは2人の子ども。ホラーゲームを思わせるかのように、廊下に並んで立っていた。
1人は床に着きそうなぐらい長い菫色の髪の少女。
もう1人はヘアバンドをしたチャラそうな緑髪の少年。
2人に共通するのは片方の瞳孔に入った★のマーク。
ああ…………まさかここでこいつらと出会うとは。
ご丁寧にも、2人は声を揃えて挨拶をしてくれた。
「「お久しぶり、おバカな豚さん」」
子どもとは思えない、不敵ないたずらな笑みを浮かべる2人。
「この豚に挨拶するとは………とうとう人間の友達がいなくなりましたか?」
「「…………」」
「あ、いえ、あなた方には友達なぞいませんね………失礼いたしました。では、改めまして、ご挨拶を」
パレオの裾を掴み、淑女らしくそっと頭を下げる。
「ようこそ私のデスゲームへ――――クソガキども」
目を丸くさせ腑抜けた顔をする2人。鏡のように動きがそろっている彼らは、首を横にして2人で見合う。
「ねぇ、カフカ。アドヴィナは随分と性格が変わったみたいだね」
「そうね、ケヴィン。初級魔法もできなかった頃の弱々しい面影もないわぁ」
「だとしても、僕ら負けないよね、カフカ?」
「ええ、もちろんよぉ、ケヴィン。私たち2人なら絶対に勝てるわぁ」
挨拶をしておいて、勝手に話し始める2人。
髪型こそ違うが、性別が同じさえあれば、瓜二つな2人。
「でも、その前に――――」
「――――――あなたは誰?」
双子は不気味なほどハイライトのない瞳を見開いて、問うてきた。
「私はアドヴィナ。アドヴィナ・サクラメントですわ――――」
「…………」
右目に★がある紫の両眼と、左目に★がある緑の両眼。4つの瞳は何かを探るように私を見据えていた。
姉である少女の名はカフカ・インガーソル。
弟である少年の名はケヴィン・インガーソル。
彼らは2人で1つの双子。
私よりもずっと小さな背丈の彼らは、普通なら初等部にいるべき子だろう。しかし、双子は飛び級してきた紛れもない私の同級生――――つまり天才。
ことあるごとに、私をバカにし、からかい、晒し者にしてきた、クソガキな双子。
座学や魔法ではそれはもう強かった。入学からずっと1位をキープしていたエイダンですら、あの子たちが入った途端、2位へ降格。魔法も展開の速さ、魔力量の多さから、軍からスカウトが来ていたほどだった。
でも、それは机での話。教室での話。学校での話。
不敵な笑みを浮かべるケヴィンは、服装とはあまりにもアンマッチな日本刀。一方、カフカは流星錘という鎖の両端に鉄の重しが付いた武器を手にしていた。
魔法無しで戦ったことのないあの子たちに、あんな武器を扱えるのかしら――――?
「ハッ、あなたがアドヴィナのはずがないわぁ。あのアドヴィナごときが膨大な魔力ソースを必要としそうなデスゲームぅ? ………ハハッ! あの子、私たちにちょっと言われただけで豚のように泣くのよぉ? 本当に豚の子だったわ!」
「………………」
「なのに、膨大な魔力リソースを必要とする空間変位魔法を展開ぃ? 冗談は夢の中だけにしてちょうだいなぁ」
「僕らの目は騙せない。どこの誰か知らないけど、とっと白状することを勧めるよ」
私が偽物だと勘違いしているのか、訝し気な目を送ってくる2人。何を言われても、私はアドヴィナ。そこに偽りなんてない。
「まぁ、誰でもいっかぁ。誰であれ全員倒せばいいしぃ………ねぇ、ケヴィン」
「ん? なに、カフカ?」
「私ねぇ、いつかアドヴィナをちゃんといたぶって見たかったのよぉ」
「へぇ、奇遇だね。僕もだよ」
ケヴィンが笑って答えると、口角を上げるカフカ。
「じゃあ、やっちゃいましょうかぁ」
「はーい」
在学中も何度もいびられ、痛みつけられた。
ずっと我慢していた。
ずっと殺意を抑えていた。
でも、今は抑制なんて必要ない。
――――――全てはこの時のため。
このクソガキならどんな手でも第1ラウンドは絶対勝ち抜けてくる――そう確信して、第2ラウンドでやってやろうと思っていた。
煌びやかな会場の主人公はあなたたちじゃない。
これまでどんなことでも叶ってきたのだけれど、それをぶち壊してやる。今までにしてきたこと、全て返してあげる。ちゃんと地獄へ送ってあげる。
でも、その前に――――。
「
――――――
双子戦開始です。第23話は明日7時頃更新いたします。よろしくお願いいたします。
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