第14話 覚醒
「ソンナモノ、キカナイ゛ィ――!!」
命中するかと思ったその銃弾。それは見事に弾かれ、血を流すことなく、巨人は全力ダッシュ。興奮状態の彼は乱暴にローブを掴み取り、脱ぎ捨てた。
「――――は?」
あらわになった彼の体に人間らしい肌はない。導線パイプだらけの金属の体だった。瞳と頭部の一部はそのままのようで、ふさふさな茶色の髪は残っている。まるで少年漫画に登場するサイボーグみたいだ。
「あなた、何者………?」
世界設定はナアマちゃんとじっくり話し合った上で調整をした。当然、内容も術式も全て覚えている。でも、『サイボーグになれる』なんて設定を作った覚えはない。提案したこともない。
だが、サイボーグ巨人は間違いなく存在している。私の目の前にだ。
この世界を構築している術式がエラーを吐いて、この巨人だけは魔法を使えるようになっていたか。それとも、私の知りえない者が干渉してきたか。
後者の犯人もまぁなんとなく察しはつく。
きっと、私を転生させたあのとち狂った神が、お遊びとして巨人に手を貸したのだろう。それなら、納得できる。てか、せざるを得ない。
だって、彼女以外にこんなことができるのって、私かナアマちゃんぐらいしかいないもの。
…………全く、迷惑な話だ。ルールも何度も見直して調整してこのフィールドを作ったというのに、それをぶち壊して
でも、楽しくなったのは否定できない。
面白さが増したのは事実だ。
もしかしたら、私とあの
心中狂神を恨みながら、巨人に背を向けてホールを駆けまわっていく。サイボーグ巨人の手は鉄だし、拳だけで破壊力は十分にありそうだが、彼は変わらず愛用している棍棒を振り回していた。
んー。あれはいつもの感じが抜けないのかしら。
「ヴァァ――――!!!!」
雄叫びを挙げながら、突進してくるサイボーグ巨人。不思議にも、彼の声に機械らしいノイズはなく、人間らしい叫び声だった。どんな原理で声を出しているのか、気になるところではあるけれど………。
「まずは動けないようにしてあげましょうか?」
正直、巨人鉄人は想定外中の想定外。
対人間と対ゾンビを前提にしているこの第1ラウンドで、サイボーグを相手にするとは思っていなかった。
焦りはある。
怖さももちろんある。
――――――――でも、楽しいの♡
奥底からふつふつと沸く殺意。
倒してみたいという衝動で胸がかられていた。
はぁ………♡
予想外のことってこんなにも楽しいものなのね?
「うふふっ」
目の前にいるのは人間を卒業した機械の巨人。それでも、私の口からは笑みが漏れだす。楽しくって仕方がなかった。
逃げるように駆け、壁を、階段を、走る。走る。走る――――その間に、試しに何発か巨人に当てたが、彼の足は止まらない。巨人は機械ではないその緑の瞳を光らせ、私を潰そうと、棍棒と拳で殴りを入れてきた。
銃が効かない。それは仕方ない。金属の人間に金属の弾を当てても、塵程度のダメージしかならないことは予想していた。
なら、銃以外の方法で狩るまで――――。
私は捨てていた鎖を拾い、同時に迫ってくる巨人の股下をスライディング。その間に鎖を首に巻き付け、股下へと鎖を通す。すると、巨人は態勢を崩し、正面から床へと倒れる。その瞬間に、方向転換し、私は巨人の頭へ向かって大ジャンプ。
あらあら、うなじが丸見えじゃない――――。
うつ伏せ状態となった巨人さん。
彼の背中には鉄の板があった。
だが、首元はコードだらけ。
さすがに脳とかは本人のものかしら。
逃げ回っていた際中に拾った両手剣を握りしめ、巨人の肩に仁王立ち。顔が見れないのは残念だけど、これでお終い。
「じゃあね! 巨人さん! あの世に行ったら、あの女神によろしく伝えてちょうだい!」
両手で剣を握り、大きく腕を振り上げる。
バチバチッ。
そして、首を思いっきり刺し、コードを断線。小さく火花が散った。その瞬間、うつ伏せ状態の巨人から声が聞こえた。それは随分と小さな呟きで――――。
「―――螟ゥ菴ソ縺ョ蜉帙r蛟溘j縺ヲ繧ゅ∬イエ讒倥�蛟偵○縺ェ縺��縺�」
良く分からない一言だった。
なんと言っているのか一文字も理解できなかった。
「縺ェ繧峨�縲∝、ゥ菴ソ繧貞他縺カ縺セ縺ァ――――」
嫌な予感がする――――。
違和感がした私は剣を振り上げ、巨人の頭をぶっ刺す、刺す、刺す………ぶっ刺して、めちゃくちゃにした。
何度もしていると、カチャカチャと動いていた機械音は弱っていき、頭と体は完全に分裂。ノイズは完全に消えた。
「………………」
さっきのは何だったのかしら…………。
巨人の最後の言葉は気にかかったが、時間もそんなにあるわけじゃない。どうせゲームが終われば、とんでもないことを企んでいたとしても、どの道無意味だ。
まぁ、どうしても気になればインターバル中にナアマちゃんに解明してもらえればいい。そう思い、私は次のターゲットとなる彼女たちに目を向ける。
残りは2階のガールズ。リーダー男の恋人クロスボウちゃんと、気弱な眼鏡ちゃん。
巨人から2階の彼女へと目を向けると、クロスボウちゃんは相変わらず睨みをきかせていた。眼鏡女子ちゃんの方は、すでにホールにない。恐怖で逃げだしたのだろう。まぁ、今の彼女なら逃げるのが当たり前かな。
となると、自動的に次の相手は――――。
「――――あなたね」
そう呟いた瞬間、クロスボウの矢が私の横をかすめる。今の、避けなかったら頭に直撃していたわね。
クロスボウちゃんは私を捕まえる気なんてない。
エイダンの命令は頭にない。
ただただ“私を殺すこと”だけしか考えていない。
「――――そう来なくっちゃ」
殺意あってこそのデスゲーム。
さぁ、私を恨みなさい。
そして、本気で殺しにかかってきなさい。
クロスボウちゃんは、1本だと簡単に回避されてしまうと分かったのか、次は同時に4本の矢を放った。私は死んだ巨人の遺体を蹴り飛ばし、首に巻いていた鎖を奪い取って、飛んできた矢を全てはじく。
そして、鎖から手を離し、空いた手で鍬を2階へと投げた。だが、ふらりと避けられ、クロスボウ女子ちゃんの体は左へと体が傾く。
「クソあまがァッ!!」
体勢を崩しながらも癇声を上げる彼女。準備していた一本の矢を飛ばしていた。
「遅い、遅いわ」
正確に狙ってくれた一本だったが、私はその矢を眼前でバシッと掴む。
「お返しするわっ!」
そして、その矢をそのままクロスボウ女子ちゃんに投げ返した。しかし、彼女も体を左へとくるりと回転、矢を避けた。
そう。そうよね。
慣れた武器だし、当然避けれるわよね?
でもね?
こっちの武器の方が速度はあるのよ?
私が左手に持つ銃。
静かに差し込む月明かりで照らされる銃口。
それが捕らえるのはクロスボウ女子ちゃん。
目を剥く彼女の瞳と私の目が合った。
パンっ――――。
発砲音とともに放たれた弾。矢を避けたクロスボウ女子の目を貫き、壁に血しぶきが散った。
たった1発の弾で魂を失ったクロスボウ女子ちゃん。
彼女の体はよろめいて手すりの前へ乗り出し、倒れ、1階へと落ち、リーダー男の上に乗っかった。
「はいぃ~。これでカップルの屍の完成ぃ~」
それなりには楽しかったけれど、少し物足りなさが残る………うーん、人数が多いし色んな武器はあったから、それなりに期待はしていたんだけどなぁ。
「………………あ、でも、まだあの子がいたわ」
アサルトライフルを持っていた弱気な眼鏡少女。
クロスボウ女子ちゃんを妹に持つ彼女が、まだこの館の中にいる。そうして、わざと足音を鳴らして彼女を探しに2階の廊下を歩いていると。
「こんにちわぁ」
「ひいっ」
行き止まりとなった壁に背を向け、アサルトライフルをぎゅっと握りしめて座り込む少女。眼鏡は大きくずれ、髪もぐしゃぐしゃ。可愛い紫の瞳は完全に怯え切っていた。涙で瞼を腫らしていた。
彼女の名前はジーナ・ガントレット。
クロスボウちゃんことニーナ・ガントレットのお姉ちゃん。
そう。眼鏡ちゃんの方がお姉ちゃんだ。
私も最初はクロスボウちゃんの方がお姉ちゃんと思っていたのだけれど、気弱な方がお姉さん。性格的には正反対な彼女たちだが、聞くところによると仲は普通によかったみたい。
だけど、私に怯えて泣きじゃくる彼女の頭には、きっと妹のことなんてない。
自分のことで精一杯だろう。
「わ、わたし! 死にたくないの!」
……………ほらね。
『妹はどうしたの?』という言葉は出てこない。
「あなたとは全然戦いたくない! こ、殺し合いなんてしたくないの!」
「そう」
「私ね、あなたへの嫌がらせは止めようと思ったの。で、でも、他の人たちが『じゃあ、あの子がしたことを許すの?』って責められて………」
「そう」
「本当はあなたを助けようと思ったの!」
「そう」
「お願い信じて!」
「ええ、信じるわ」
彼女の言葉に、私は冷たく端的に返答する。
そこに感情はなかった。淡々と答えていた。
それを察したのか、ジーナからの訴えはなくなり。
「…………私を殺すの?」
「ええ」
「…………死んでほしいの?」
「もちろん」
ジーナの視線は私から地面へと落ちていく。
そして、肩を震わせて泣き始めた。
「ゔっ…………許して………」
そう呟いた直後、彼女は手元にあったアサルトライフルを乱発。私はドアが開いていた部屋へ転がり込み、一旦別室に退散。だけど、退路は作らさせなかった。
銃の先だけ、彼女に見せるように出し、待機。
一時して、銃声はやんだ。
「………………あれっ? あれっ?」
同時に、困惑の声とカチャカチャと空回りするトリガー音が聞こえてきた。私は立ち上がり廊下に出て、彼女の元へと歩いていく。静かな廊下に、カツン、カツンと1つの足音だけが響く。
「あ、あ、あ………………」
私と目を合わすなり、絶望の声を漏らす彼女。
泣きじゃくって赤くなった目は、さらに涙を溜め。
乱射していたアサルトライフルを、ぽとりと手から落とした。
「残念だったわね、ジーナ」
彼女にエイダンほどの恨みはない。
でも、あなたは何もしなかった。
あなたがどんなことを考えていたのか知らないけれど、あなたは私に手を差し伸べようとも、挨拶を返そうともしなかった。
本当に何もしなかった――――ただの
「そういうやつが一番嫌いなのよ」
無視され続ける私がかわいそうだと思ったのなら。
悪口を言われ続ける私を助けようと思ったのなら。
その時に手を差し伸べて、嫌がらせをする子たちには「違う」と主張すればよかったのよ。
そうすれば、あなたは死なずにすんだかもしれないのに。
「でも、今言っても仕方ないわよね?」
デスゲームは始まった。
もう止められない。
始まった以上、“止める”という選択肢は私にない。
「あ゛あぁ………あぁあ゛ぁ――――!!」
言葉にならない最後の抵抗の声を上げるジーナの姿は無様だった。使えなくなったアサルトライフルを投げてきた。でも、私は何事もなく振り払う。
同情も何もなかった。ただただ静かに見下ろして、彼女に向けた銃のトリガーを引いた。
「恨むのなら、これまでのあなたを恨みなさい」
バンっ――――。
――――――――一瞬だった。
「殺す」
呟きとともに、一瞬だけ鋭い眼光が前をよぎった。
銃声が響き、勢いよく吹いた風が銀髪を大きく揺らした。
「………………」
気づけば、目の前にいたはずの、壁を背にしゃがみ込んでいたジーナの姿はなく、銃弾は何もない床を突き抜けていた。
振り向くと目が合ったのは、先刻とは別人の冷たい紫炎の瞳。涙もなく、笑顔もなく、何の感情も映さない顔。彼女は、いつの間にか、太ももにしまっていた私の拳銃を奪い、その先を私の腹に当てていた。
ああ………………。
こういうやつに限って、何かを隠し持っているのよね。
「――――前言撤回、あなたみたいな子、私は大好きよ」
そんな小さな私の呟きを聞いたであろう彼女。
だが、彼女は何一つ反応を見せない。
ただ私を見据えていた。
怯えて座り込んでいた、あの頃の少女はもういない。
「殺す。あなたを殺す――――」
背後にいたのは覚醒した少女。
それはドレスを捨てたジーナ・ガントレットだった。
――――――
明日も2話更新です。第15話は7時頃更新します。よろしくお願いいたします。
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