第13話 激おこぷんぷん丸

「あらぁ? 電気は消しててもよかったのにぃ?」


 2人の少年を屠った後に入った、吹き抜けのあるその大部屋。そこにいたのは5人の男女。2階に2人、1階に3人と、私を囲むように立ち、全員がこちらに武器を向けていた。


 リーダーらしい風格のある男子は――2丁の拳銃を。

 反対側の廊下にいる弟系少年は――分銅鎖を。

 3mの身長を持つローブを深く着た巨人男は――棍棒を。

 上からちらちら顔を覗かせる眼鏡女子は――アサルトライフルを。

 同じく2階から見下ろす黒髪ロング女子は――クロスボウを。

 

 全員がそれぞれ違う武器を持っていた。おそらくこの倉庫街で武器を入手、もしくはそれを見つけたエイダンから支給でもされたのだろう。


 吹き抜けとなっている部屋の両端には、2階へと繋がる螺旋階段。1階には階段以外の全ての壁にびっちり木製の棚が置かれ、武器が並び。床には腰あたりの高さの箱が何個もあった。まるで屋敷を無理やり倉庫にしたようで、形からするに、大層位の高い人間が所有していた屋敷。


 それが倉庫になっているなんて、その貴族は没落でもしてしまったのかしら?


 部屋の構造が気になり、じっくり見学しようと歩き出そうとした瞬間。


「動くな。動けば撃つ」


 と、唯一拳銃を持つ男が、強気な声で脅してきた。今まで1丁で発砲するのが精一杯だったプレイヤーの中では珍しく、2丁の拳銃を構えていた。


 へぇ………………。


 1丁ですら腕にくる反動がすごいのに、2丁も持っているなんて、凄いじゃない。ぱちぱちぱち。


「あなた、かっこいいわ」


 まぁ、私も二刀流だし、人のことは言えたもんじゃないけれど。


 彼と私とではアドバンテージが違う。あっちは銃と出会って数時間しか経っていないのに対して、こっちは何度もシミュレーションをしている。そう考えると、彼の順応能力は素晴らしい。ぱちぱちぱち。


「聞いてるのか、アドヴィナ・サクラメント。勝手に動くな」

「お断りいたしますわ」

 

 拳銃二刀流男の脅しに、さらりと答える。

 不服だったのか、彼は分かりやすく眉をひそめた。


「なら、撃つぞ」

「どうぞ。当てれるものなら、当ててみてくださいな」


 両手を広げ煽ってみせると、彼は私の足元に向かって、パンっと発砲。いつだってお前を殺すことはできる―――そう言っているようだった。

 

 うふふ。この子、やるじゃない。

 さすがエイダンの犬ね。


「じゃあ、足にでも手にでも撃って、私を拘束してみてはいかがです?」


 私はさらに煽り、肩をすくめてみせる。

 、さっさと撃って、拘束でも何でもすればいい。しかし、リーダー男はためらっているのか、それ以上は撃ってこなかった。


 ハッ、意気地なしね。

 こういう時こそ、容赦なく撃つものよ。


 そっちの方がのに。

 ………………バカな子ね。

 

「ロジャー、やってくれ」

「了解」

 

 30秒してようやく口を開いたリーダー男は、ロジャーという名の童顔男子君に指示を出す。猫目の童顔少年君は、自身の武器である分銅鎖を振り回し。


「ちょっと痛いけど、我慢してねー」


 どこか楽しげな声で、そう言ってきた。


 おそらく少年はカーボーイのごとく、鎖を飛ばして、私を拘束するつもり。距離があり、巻き付けるのは簡単じゃないとは思うが、私に下手に近づくよりかは断然いい。悪くないわ。


「お好きにどうぞ?」


 と答えてみたものの、こっちは馬鹿正直に捕まる気なんて、これっぽっちもない。


 そりゃ、そうでしょう?

 敵の言う通りにする人間なんて、一体どこにいるかしら? いるのなら、教えてほしいものだわ。


 もし私を操りたいと思うのなら、それこそセイレーン変態男のように、自爆するつもりでいないと………そこまでしないと、私があんたたちの命令通りに動くわけがないじゃない。


 迫ってくる少年の2本の鎖。鎖の先がギラリと光る。


「はぁ、全く平和ボケにもほどがあるわ――――」


 だが、私は羽毛を取るように、軽やかに2つの鎖の先を右手で掴み、ぐぃっと自分の方へ引き寄せた。


 手に鎖を巻いて離さないようにしていた少年。


「え――――」


 しかし、それがあだとなり、体は前へ倒れ、鎖とともにこちらに引き寄せられる。


 あはっ。

 こんな力で引っ張り負けるなんて、握力、体幹、両方とも弱すぎ。もう少し鍛えたらどうかしら?


「クソっ!」


 すると、少年の危機に、敵が一斉に動きだす。

 四方八方から弾や矢が飛んでくるが、全て鎖で弾き飛ばした。


 鎖に繋がった少年は操り人形かのよう。

 私はぐっと引き寄せ、彼の体を壁にたたきつけた。

 そして、また引き寄せて、捕まえる。


 その時にはすでに少年の頭は血だらけで、完全に奇絶。でも、息はしてる…………まだ使えるわね。


 首を腕で押さえ少年を立たせると、一本の鎖で体を巻き、彼の身動きを封じた。


 これで人間盾は完成っと――――。


 その鎖の少年を盾にすると、二刀流男は一瞬だが躊躇いの表情を浮かべる。その瞬間を見逃さない。


 もう一本の鎖の先を振り回し、二刀流男の左手にある拳銃を弾き飛ばす。同時に少年の脇腹に隠していた左の拳銃を取り、トリガーを引いた。


 パンっ――――。


 銃声とともに二刀流男の胸を貫く弾。二刀流男は「うっ」と苦し気な声を漏らしたものの、一矢報いる気なのか右手の銃を発砲。

 

 でも、大丈夫。

 その弾は当たらない。


 私は拳銃を吹き飛ばした鎖を引き戻し、音速の弾を弾き飛ばす。そして、とどめを刺すかのように。


「じゃあね、リーダーさん。あなた、そこそこかっこよかったわよ――」


 銃で彼の頭に撃ちこんでやった。

 笑ってみせると、彼は「クソがっ………」と呟いて地面へと突っ伏した。

 

貴様ぎさまァ――!!」


 頭上から飛んできた怒号。

 見上げると、黒髪ロング女子が怒りをむき出し。

 鬼瓦以上に怖い顔だった。


「そんなに怒らなくても………」


 鬼の形相の彼女に、思わず引いた私はそうこぼす。

 

 ………………あ。

 もしかして、リーダー男と恋人関係だった?

 うそ、うそぉ?

 こんなところで青春しちゃってるの?

 

「あらあら………かわいいじゃなーい」


 でも、かわいそうね。

 こんな弱い人が恋人だったなんて。


 先ほどのリーダー男さんの一撃によって、チームが勝ちに転びうる可能性があった。そんな時に躊躇うなんて、あまりにも情に流されやすすぎる。弱すぎる。


 だから、私が殺してあげた。

 うふふ、よかったわね――――あなたの恋人弱者が結婚相手にならなくて。


「絶対殺してやるっ――――!!」


 血気盛んに、殺意を隠すことなく、宣言してくる黒髪女子さん。彼女は今にも噛みついてきそうだった。

 

 …………ああ、そんなに彼のことが好きだったの。

 そんなに彼のことが恋しいのなら、あなたも同じ場所へ連れていってあげましょう。

 

「――――せいぜい、地獄で青春の続きを楽しみなさいな?」


 なまはげぐらい目力のある黒髪女子さん。怒り狂いそうな彼女は意外にも2階から降りてこようとはしない。接近戦では負けてしまうことを分かっているのだろうか。


 額の血管を浮き上がらせながらも、彼女の手に震えはなく、毎日使っていたような、慣れた手つきでクロスボウを構え、そして、私を狙い矢を放った。

 

「うふふ! カッコイイじゃない!」


 その可憐さに、私は思わず声を上げる。


 銃が一番かっこいい武器だと思っていたけれど、クロスボウもいいじゃない! かっこいいわ!


「でも、心臓を狙ってほしいの――――」


 そっちの方がハラハラドキドキできる。

 絶対ぜぇったぁーいそっちの方が楽しい。


ごろすっ――――」


 でも、彼女に私の声は届かない。興奮で聞こえていない。


ごろしてやるっ――――」

 

 多分エイダンの命令は忘れているのだろう。

 殺意むき出しで私にひたすらに叫んでいた。

 

 叫びながらも、彼女は手をぶらすことなく冷静に、同時に3本の矢を放つ。その3本の矢は確実に私の頭を狙っていた。殺す気だった。


 でも、回避は簡単。クロスボウ女子ちゃんがいくら上手いとはいえ、銃の速さには劣る。全然いける。

 

 でもでもぉー。

 普通に避けるのもつまらないわよねー。

 

「――――うふっ、ここは面白いことをしてみましょうか♡」


 持っていた拳銃を捨て、空いたその右手で少年の首をガっと鷲掴み、しゃがみ込む。そして、少年の頭に飛んできた矢を貫かせた。


 その瞬間、自分の顔に散る少年の血。

 シャンデリアの明かりもあってか、赤血の雨は輝いていて。

 

「わぁ………綺麗…………」

 

 あまりの美しさに思わず呟いていた。


 私の視線の先にいたクロスボウちゃん。綺麗な桃色の瞳は完全に開ききり、小さく「あぁ……」と絶望の声を漏らしていた。


 感動させてくれた少年の死体から鎖を解放し。


「あーあ。彼、あなたの矢で死んじゃったわね?」


 上の彼女にそう煽ってみる。

 すると、彼女の瞳は絶望から怒りへ変わり。


「グソぉっ! ごんの゛っ! この゛クソ女ァ!!」


 頭は沸騰、沸点は優に超えていた。

 だが、それでも2階から下りてくる様子はない。


 まるで、あの世へ旅立ったリーダー男の命令を遵守しているようだった。


 バカね。

 死人の意見を守り続けるなんて――――。


 一向に降りてこない彼女の代わりか、巨人が私にめがけて真っすぐ走る。彼もすでに理性を失っているのか。


「ヴァア゛ァァ――――!!!!」


 腹の底からの雄叫びをあげながら、全力ダッシュ。彼が一足一足踏む度に床が揺れていた。


 この巨人、森で育った野生の人間みたいになっているけれど、普段は普通にしゃべれるわよね? 身長がバカみたいに大きいだけで、他に特徴がないような普通の子だったわよね?


「もしかして、激おこぷんぷん丸状態? 言葉も失っちゃった?」


 こちらの問いかけは届いていないのか、巨人から返ってきたのは「ヴァァ――!!」と絶叫。勢いよく鼻息を漏らす。


 まぁ、彼らに激おこぷんぷん丸なんて言葉が分かるわけないか。分かったら、逆にこっちが驚くわ。


 理性を捨てて、私を追いかけまわし、ネズミ退治をするかのように棍棒を振り回す巨人。

 

 クロスボウ女子からの矢も飛んでくるけれど、コイツが叫び続けていると、邪魔なゾンビが全員ここに集合してしまう。


「なら、先にこの巨人を仕留めた方がいいわね――」

 

 ローブで隠れた巨人の額をめがけて、一発撃ちこむ。

 確かに彼に穴が開いた。弾丸は当たった。ローブには穴が開いた。

 

「えっ――――?」


 しかし、弾は巨人の体を貫かなかった。彼に当たった瞬間、カキンッという人間の体らしくない音が響いた。

 

「ソンナモノ、キカナイ゛ィ――!!」


 耳を塞ぎたくなるぐらい怒号と覇気を放つ巨人。彼は勢いのままに胸ぐら部分のローブを掴んで、そして、ローブを脱ぎ捨てた。


「――――――は?」


 あらわになった彼の体に、人らしい肌色はなく、あったのは複雑に組み合わされたパイプと導線と金属板。


 ローブの下に隠れていた巨人の体。

 ――――それはサイボーグの体だった。




 ――――――


 今日は2話更新です。第14話は18時頃に更新します。

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