第12話 Shall We Dance?
ヤンデレ変態男セイレーンと別れた私は、颯爽と礼拝堂を出た。
そして、エイダンが待っているであろう港へ、屋根の上をつたって向かう。南に走っていくと、水平線が見え始め、港が一望できる場所まで来ると、一旦足を止めた。
海に沿って並んでいたのは、横浜のあの倉庫を彷彿させる赤レンガの倉庫街。多くの倉庫が綺麗に並んでいた。エイダンたちはここで武器を揃えて、待っているはずだ。
ああ…………待たなくたってもいいのに。
全力で私を殺しにきてほしいわ。
まぁ、彼に求めても決して叶わないのでしょうけど。
私はレンガ倉庫近くまで行き、地上へと降り立った。
本音を言えば、屋根の上から攻めたいところ。だが、こちらが屋根で移動することぐらい、彼もさすがに把握しているだろう。
警戒心の高いエイダンなら、それなりの人員をさいてるはず。勝算だけを見れば、室内移動という選択肢が最上位だ。
「でもねぇ………………」
障害物の少ない屋根で複数人を相手する―――それはとっても魅力的なバトルではある…………。
でも、でも!
障害物があって、上からも横からも攻められる室内の方が、何倍も楽しそうじゃない?! ワクワクしそうじゃない!?
「うふふ……そっちにしましょ♡」
そうして、私はルンルン気分でスキップ。
近くの1つの赤レンガ倉庫へと一直線。
その間も周囲の警戒は怠らない。
傍からみれば、これからお花畑に行く少女に見えるのでしょうけど………実際は両手に拳銃を持って敵地に向かう殺人狂。
一般人が見れば、ドン引き間違いなし!
でも、この世界はそんなこと気にする必要なし!
「最高の世界ねっ!」
そうして、窓の近くまで行き、窓枠に手を掛けたその瞬間、窓ガラスにきらりと光る何かが映った。
光は室内からものじゃない。
窓ガラスに反射した光だった。
それに気づき、私はすぐにしゃがみ込んだ。
パリンっ――――――――。
かがんだ直後、窓ガラスが割れる。
だが、頭から振ってきた破片は少しだけ。
逃げるように、私は割れた窓へ身を投げ、室内に入った。
あの弾は近くにあった小さな教会の塔から飛んできた。狙撃をしてきた………エイダンでは………ないな。褐色野郎がいたのかも。
でも、OK。問題なし。
私が縄張りに侵入したことは、確実にエイダンの耳に入る。そうなれば、彼らは私を捕まえようと躍起になる。
それにしても………。
「殿下たちはどこにいるのかしら――――?」
エイダンたちの目的は、デスゲームを終わらせるために、捕らえた私と交渉すること。“殺す”ことはしないが、足という移動手段を奪ってくるに違いない。
“殺さない”という案はハンナの意見が100%。
だが、エイダン個人の意見なら別だ。
先ほどカイロスと屋根の上でやりあったことを考えると、彼は確実に私を殺しにくる。こちらとしては嬉しい限りだが、ハンナは納得しないだろう。
頭がお花畑な彼女なら、「殿下の手を怪我したくないし、アドヴィナさんも死んでほしくないです」とか言うわね……………はぁ、全く彼女のおせっかいにはつくづく吐き気がする。
ハンナはゴリラ並みの力を持ち、尚且つ頭脳明晰。
私からすれば、超エリート女子だ。
そんないい子ちゃんなハンナにはぜひ闇落ちして、全力の殺し合いをしてほしいけれど………。
入った部屋にに明かりはない。薄暗いが、目を凝らすと部屋の物が見えた。木製の棚には麦らしい穀物が入っている布袋が隅から隅まで置かれてあった。
足音を鳴らさないよう慎重に進んでいく。
暗闇で何も見えなかったが、徐々に目が慣れていった。
エイダンの場所はまだ分からない。
各倉庫に人を配置しているでしょうから、倉庫をまわっていけば、いつか彼に会えるはず。
それまで出会う人は全て屠ってあげましょう。
歩いていくと、1つのドアを見つける。
ドアノブに手をかけ、そっと回し開け、隙間から周囲を確認。誰もいないことを確かめ、静かに廊下らしい場所へと出た。
その廊下にも大量の箱が置かれており、歩ける床の面積は狭い。
足音を鳴らさないように歩いていると、1人の少年を見つけた。彼は長物のスナイパーライフルを片手に持ち、窓の様子を窺っていた。
この子、私がまだ外にいると思ってるのかしら?
それとも、上にいると?
――――――ハッ、私はここにいるのですが?
「ねぇ、さっきの銃声聞こえていなかったの?」
声をかけた瞬間、彼はハッと息を飲み、視線と銃口を私に向ける。その顔には、動揺と焦りがはっきりと表れていた。
この距離なら、確実に銃声も窓ガラスが割れる音も聞いたはず。なのに、外に出て確認しない。窓から観察するだけ。
「もしかして、殺されるのが怖くなった?」
不敵な笑みを浮かべながら、私は足を進めていく。
「く、来るな………撃つぞ」
「どうぞ? お構いなく撃ってちょうだい。まぁ――――」
エイダンの指示とは言えども、銃になれていない彼らが躊躇う気持ちも分かる。
だけど、それではここでは生き残れない――――。
「――――どうせ撃てないのでしょうけど?」
と、挑発的に笑ってみせ、私は走り出す。
少年は分かりやすくいら立ちを見せた。
バカね。こんな安い挑発にはのるんじゃないわよ。
パンっ――――。
発砲するも、彼の弾は当たらない。
狙ったであろう足にもかすりもしなかった。
冷静さを欠いている証拠ね――――。
駆けだしていた私は右手でスナイパーライフルの先を掴み、照準を逸らす。そして、そのままジャンプしてライフルの上に乗り、左手に持っていた拳銃を構える。
「思い通りにさせるかっ!!」
威勢の声を上げる少年に、スナイパーライフルを捨てられ、銃とともに私の体は落下。
こちらの体勢を崩すつもりなのでしょう。でも、足元がどうなっても、たとえ他の武器があったとしても。
――――――――私にも拳銃があるのよ?
トリガーを引く。
だが、引き終わる前に少年に蹴りを入れられ、拳銃は弾とともに空を飛んだ。
「ハッ、やるじゃない――――」
でも、ダメね。
これじゃあ、負ける。
あなたは負ける。
だって、私が持っている武器は拳銃だけじゃない――――。
背中に背負っていた鍬を取り出し、それをゴルフショットなみに、少年の頭に向かって振った。
「あっ――――」
驚きの声が発せられた頭には、もう体はない。
鍬にかられた頭は綺麗に吹き飛んでいた。
美しかった。
タンッと地面に落ち、ボールのように転がる少年の頭。
コロコロと転がって、近くの棚にぶつかり止まる。
血だらけになった目は、じっと見つめてくる。
「なぜこんなことを――――」
まだ息がある彼の首は、眉を潜ませ、小さく疑問を投げかけてくる。
――――――なぜってね?
そりゃあ、あなたたちの行いが悪かったからに決まってるじゃない。
嫌いで消えてほしいと願っているからに決まっているじゃない。
ただエイダンの意見を聴いて、考えもせずにひたすらに同意していただけのクラスメイト。
王子の意見だけを鵜呑みにしていたクズ。
ろくでもない噂を流していたのも知ってる。
「それなのに、『なぜ』と聞くの? 自分のしたことを思い出したら?」
話しかけたが、彼からの返事はない。
首から血が広がり、彼の瞳はすでにハイライトを失っていた。
「じゃあね。バイバーイ」
まずは1人、狩れた。
私は一息つきがてら、横たわった遺体から戦利品を探す。
「魔女がきたぞっ――――!!」
だが、殺して30秒も経たないうちに、こちらの存在に気づいた男子の叫び声が、廊下に響く。
へぇ………………。
私、『魔女』って呼ばれているの?
えぇ~~~?
めちゃくちゃ嬉しいんですけど?
魔法技術が下の下だった私からすれば、最高のあだ名じゃない。
「でも、そんな大声を上げるのはOUTね………」
その行為は居場所を教えてくれているのも同然。「自分を殺してください」と言っているのと同じなのよ。
声が聞こえた方へ駆け出し、廊下にいるであろう彼にパンと一発撃つ。その後、ぱたりと何かが倒れた音がした。
綺麗に命中したわね…………さすが、私。
あの人の下で特訓したかいがあったわ。
そうして、屍となった叫びの少年と出会い、廊下を走り抜けていると、別の広い場所へと出た。
もちろん、そこにも明かりはない。窓があったが、差し込む光は弱々しい。大小さまざまな物陰が見える、それがなんとなく分かるだけ。
私は堂々と部屋の中央へ歩いていく。
そこに敵がいることぐらい知っていた。
分かったうえで、あえて煽っていた。
「ねぇ、みなさん。隠れていないで、一緒に遊びましょう?」
どこかにいるであろう敵に、「Shall We Dance?」と投げかける。すると、ガダンという機械の音が響き、カッと倉庫に明かりが灯り、そこでようやく部屋の全貌が見えた。
「あらあら~?」
静かな割に、準備はもうバッチリじゃない。誰か1人ぐらい「I'd love to」って答えてくれてもいいじゃないの。
その部屋にいたのは、5人の男女。
彼ら全員が私に武器を向けていた。
――――――
明日も2話更新です。13話は明日7時頃更新します。
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