第22話
次の日、恐る恐る登校したけど私たちの噂が広まっている様子もなくて一安心。先輩を疑っていたわけじゃないけど……良い人なんだな、って思った。
「……先輩、友だち少なそうだしなあ……」
ポツリと呟けば後ろから頭をがつんと何かで殴られて前につんのめった。
「てめえ……バラすぞ」
文句を言おうと振り返ったら、そこで鬼のような形相で立っている英知先輩の姿が。どうやら私は先輩の鞄で殴られたらしい。私の呟きが聞こえていたのか。恐るべし。
「あはは……。すんません……」
慌てて笑顔を張り付けてみたけれど、先輩のじろっと睨む目が怖い怖い。
「──でもなんでわざわざ隠してるわけ?」
そう興味なさげに聞いてくる先輩。興味ないなら聞かないでよ。
「──自分に自信がないんです」
誰かに話したくても話せなかった、私の悩み。
「遊の彼女だって、胸を張って堂々と隣を歩けないんです。遊も、こんなのが彼女だって周りに知られたら恥ずかしいんじゃないかって思ってしまって……」
ただの被害妄想だって言われてもおかしくない。でも、先輩は意外にも真剣に聞いてくれた。
「──本当に恥ずかしかったら、バイト先までわざわざ迎えに来たりしねえと思うけど?」
こんな馬鹿な悩みにも、一緒になって考えてくれている。
「……そ、ですかね」
なんだか少しだけ、心が軽くなった気がした。
「ありがとう、ございます……」
遊には伝えられない言葉も、すっと零れ落ちた。
「──それに……可愛い顔して嫉妬深いんじゃねえの?あいつ」
先輩から、信じられない言葉が放たれて思わず立ち止まる。
「──遊は、私のこと……好きじゃないので、嫉妬なんてしませんよ」
どうして先輩がそう思ったのかなんて分からないけれど、それはとんだお門違い。
「たまたま、私が一目惚れして、たまたま告白が受け入れられて。今私が彼と付き合っていられるのは、すごく幸運なことで。私は出会った時から彼に一目ぼれして、彼しか考えられないし、本当に大好きです。
……でも、遊はそうじゃない。あの子は、人を好きになったことがないから。恋する気持ちが分からない人だから」
自虐気味に笑ってみたけど、先輩は顔を顰めて私を見つめる。
「……お前はそれで、幸せなんだ?」
そんな言葉に一瞬戸惑ったけど
「──はい、遊がそばにいてくれるうちは」
そう、それだけで私は幸せなんだ。
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