第21話
「ああ──終わった」
頭を抱えて座り込んだのは、遊の部屋のソファー。
あれから彼に手を引かれて、当り前のように帰ってきたこの部屋。私はこの世の終わりみたいな絶望を感じているっていうのに、その原因を作った本人は澄ました顔で……むしろ清々しさを感じるような表情でキッチンに立っている。
くそう、爽やかイケメンめ。
「……遊は、バレてもいいの?」
そう聞けば、首を傾げて「別に?」なんて言ってる。
「世良は……バレたくないの?」
そんな質問が返ってきて、
「当たり前でしょ!?」
苛立って声を荒げてしまった。
「遊の恋人なんて、どれだけ注目されるか!ファンクラブの人にだって、何されるかわかんない。怖いよ!」
こんなの、遊に当たったって仕方ないのは分かってる。ただの八つ当たりだって。でも、吐き出す言葉は止まってくれなくて。
「遊だって恥ずかしいでしょ!?こんな可愛くない彼女!馬鹿にされるのがオチだよ!!」
そうやって卑下して、こんな女……遊に好きになってもらえるわけないのに。
──もしも、彼が私を好きになってくれて。本当に恋人同士になったなら……もっと自分に自信を持てたかもしれない。堂々とあなたの隣を歩いて、ファンクラブの人なんて眼中にないくらい、彼に愛されてる幸せを噛みしめていられたのに。
「──馬鹿にしないで」
キッチンから出てきたのは、少し怒ったような顔をした遊。彼のそんな表情は珍しくて思わず眉をひそめた。
「……ファンクラブとかなんだか分かんないけど、世良に危険があるなら黙ってるし、守ってあげる。それは俺の役目だから」
近づいてきた彼は強い口調で、私を見下ろす。
「……でも、俺の彼女のこと、そんな風に言わないで。馬鹿にしないで」
今度は悲しみを含んだ瞳で、“私”を庇う遊。
ああ……心臓が痛い。
「俺は自分の彼女のこと、恥ずかしいなんて思ったことない」
きっぱり言い切った彼に、涙腺が緩んできた。
「世良は、俺にはもったいないくらい……可愛い彼女だよ」
そんな、へたくそなお世辞。嘘だって丸分かり。
──でも、遊の手が私の頭を優しく撫でるから。私を落ち着かせるみたいに、肩や背中を撫でてぎゅって抱きしめてくれるから。
流れた涙は遊の服にしみ込んでいく。
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