第18話
「──ねえ、世良。今日、一稀くんと何を話してたの?」
夕飯の食卓に、遊がハンバーグを並べてくれているのをぼーっと見ていたら。
彼が何気なく、そう言った。
「一稀?なんで?」
なぜ、遊が一稀との話を気にするんだろう?
話していたところを見てたの?
「休み時間に世良のクラスの前を通ったら、世良が困った顔してたから」
ああ、だからクラスにいなかったのか──なんて、どうでもいいことを考えた。
「──世良を困らせるのは、たとえ幼馴染でも許せないなって」
眉を下げて言った「嫌なこと、言われたりしてない?」なんて、私を心配するそのセリフに心臓が鷲掴みにされた。
「されてない、よ」
辿々しく答えたら、彼は緩く微笑んだ。
「それならよかった」
「一稀には、バイトを誘われただけだよ」
話の内容を大まかに伝えたら、首を傾げるあざとい遊。
「バイト?」
「一稀が誘われたバイトなんだけど、もう他のバイトしてるから私にどうかって」
「……どうするの?」
遊はきっと、こんな些細なことにも興味はないんだろうな。
「やることにした。期間限定みたいだし」
「……そっか、頑張ってね?」
だから、気のせい。その顔が曇ったように見えたのは。
「辛いときは、俺のとこにおいで?いつでも待ってる」
それを振り払うように、いつもよりぎこちない笑顔になったのは。
「……辛いときだけ?」
なんだかその表情が不安そうに見えて、思わず飛び出した言葉。
「そんなわけないでしょ?世良がしんどくないなら、いつ来たっていいよ」
……そう言われたら、毎日来ちゃうじゃんか。
今と変わらないけど。
「……うん」
頷いたら、やっと安心したように笑った。
──遊が不安になる?そんなわけないのに。
うん、やっぱり気のせいだ。
「そのバイト先にね、カッコいい先輩がいるらしくて」
いくらか声が弾んでいたかもしれない。
それはイケメン好きとしては条件反射みたいなものだから許してほしい。
「……楽しみ?」
遊が隣にいるっていうのに、期待値は上がるわけもない。
「うーん、まあ。そんなイケメンがその辺にゴロゴロいてたまるかーと思うけど」
ちらりと隣の男を見る。
こちらを見つめるキラキラした瞳なんて、そこらへんに転がっていたら困る。
「──俺は?」
遊がまたコテンと首を傾げた。
「俺は世良にとってイケメンな彼氏?」
……愚問すぎない?
「あっ……たりまえでしょ……」
勢いよく答えすぎて噛んだ。恥ずかしい。
「ふふ、よかった」
そんな私を見て微笑んだ遊が、私の髪をいつもより少し乱暴に、でもちゃんと優しく撫で回した。
「そんなの、言われ慣れてるくせに……」
いつものように可愛くないことを言っても、それすら受け入れてくれる人。
「──そんなの、世良から言われるのは特別に決まってる」
甘すぎて、甘すぎて、胸焼けしそうだ。
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