第16話



「ちょっとヤバいじゃん!!世良!あの瀬川君に触れてもらえるなんて……っ」


「あいつはどこのアイドルだよ」



 毒突く私にキラキラと輝く目を向ける亜矢。本当におめでたいな。こっちはバレるんじゃないかと冷や冷やしたっていうのに。

「羨ましいなあ~」

 この程度で羨ましいだなんて、遊と付き合ってるなんて知られたらどんな反応をするんだろう。考えたくもない。


「瀬川君の彼女になれる人って幸せだよね」

 チラリと隣で歩く友人を見てみれば、うっとりと想いを馳せている横顔がそこにあった。



「……あんなモテる人が彼氏なんて、大変でしょ」

“幸せ”だという言葉に偽りはない。もちろん、遊の恋人であることに喜びや幸せを感じている。だけど、自分の発した言葉にも嘘はない。


 ──大変だよ、“好きを知らない男”なんて。



 浮気はしないけど、他の女に“好き”だって感情を抱いてしまったら……本人がその想いに気付いてしまったら。浮気よりもっともっと、タチが悪いだろう。私が隣にいる必要性なんて、これっぽっちもなくなってしまうんだから。



「──本気で誰かを好きになったこと、あるのかな?」

 亜矢の素朴な疑問にも、『ないよ』って答えてしまいそうになる。だって彼は、いつだって特上の愛想笑いを振りまく。それはどれだけ綺麗な人にも変わらなくて。お世辞にも可愛いとは言えない人にだって、差別したりしない。馬鹿みたいに優しい男なんだから。


 ──だから、確信はないけどなんとなくわかる。まだ彼にとって“特別”な人は現れていないってこと。私を含め、好きでもない女にこれだけ優しくできるんだから、きっと“好きな人”にはもっと甘くて優しいんだろう。そんな相手はまだいないと思う。どれだけ私が遊を見つめてきたと思ってるの。


「──さあ?あれだけモテるんだから、彼が好きにならなくても寄ってくるしねえ」


 嫌味っぽくなってしまったのは仕方ない。“嫉妬”っていう簡単な言葉で片付けられるものだから。


 ……遊本人には絶対に言えないけど。

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