私は劣等感でできている

第13話



「──バイト?」


自分の席で友だちと机を寄せ合ってお弁当を開いていれば、私の前の席にどかっと座る男。


上目遣いで私にお願いする一稀に眉をひそめる。手を合わせて私を見つめる彼は卑怯だ。自分の武器である“可愛さ”を前面に押しだしている。


「そう、先輩のバイト先で人手が足りないらしくて。俺はもう別のバイトしちゃってるし……。世良にしか頼めないんだよ~」


……だからって、私も暇じゃない。


そう言おうとしたけど、一稀に「瀬川遊と付き合ってることバラすよ?」なんて満面の笑みで脅されちゃ、仕方ない。一か月っていう期限付きでバイトの助っ人を了承した。


「あ。先輩、見た目は怖いけど優しいから。惚れんなよ~」

──なんて。私がどれだけ遊に惚れてるか知り尽くしてるくせに。





「いいじゃん、イケメンだったらラッキーだね」

一緒にお弁当を食べているクラスメイトの亜矢にそう言われればぐっと言葉に詰まった。

「……興味、ない」

こうやって学校では恋愛に興味ないふりをして、遊とのことを悟られないように必死だ。たまに一稀と付き合ってるとか噂になることもあるけど、そっちは放置している。むしろそう思ってくれてる方がカモフラージュになるから。


「ほんとに世良は男嫌いだね」

そう言って苦笑する亜矢には悪いけど、男嫌いどころか彼氏の家に転がり込んでいる……なんて、言えやしないんだけど。


「一稀くん以外と話さないじゃん」

自分ではそんなつもりはない。でも用がなければわざわざ話かけることもないし、特に仲の良い子もいないからそう思われても仕方ないんだろう。


「そんなこと、ないけど……」


「世良、モテるのにもったいない」

クールだから高根の花なんだよ、なんて嬉しいことを言ってくれる。




「瀬川くんとか、カッコいいと思わないの?」

聞き覚えのある名前が突然聞こえて身体が微妙に揺れた。

「……そりゃ、思わないことはない、けど……」

声まで震えちゃって、嘘をつくのが下手だなあってつくづく思う。


だけど“クール”って言われるだけあって、あまり動揺が表情には出ないからバレたことはない。

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