第12話



お風呂から出て、タオルで髪を拭きながらリビングのドアを開けた。

「……お風呂出たよ」

そう声をかければソファに座ってテレビを見ていた遊が振り向く。


「だめでしょ?髪の毛濡れたまま」

そう言って少し唇をとがらせながら近づいてくる。目の前に立つと、目を合わせるには見上げなきゃいけないくらいの長身。遊を見上げていると私の首に掛かっていたタオルを頭にふわりと被せ、優しく水を拭きとってくれている感覚がした。


「風邪ひいたら、大変。俺も学校休まなきゃじゃん」

そんな意図の不明なことを言い出すから首を傾げる。

「……なんで遊も?」

タオルから見え隠れする遊の微笑み。


「誰が世良の看病するの?一人になんて、しておけるわけない」

そんな男らしい言葉にやっぱりときめく心臓。持ち主とは違って随分素直だ。

「こ、子どもじゃないんだから──っ」

私が反論しても、「だめだめ」なんて──。残酷なほど優しい人だ。



「ちゃんと、乾かそう?」

遊は洗面所からドライヤーを持ってくると私をソファーに座らせ、その後ろに立って髪を乾かし始める。


「……遊」

ぼそっと彼の名を呟いてみたけれど、ドライヤーの動く音でかき消されてしまう。遊から返事がないのを確認すると

「──すき、だよ……」

そう囁いた。きっと彼には届いていない。けれど言葉にして伝えるには、素直になることを忘れてしまった私には難しいことで。これが精一杯なんだ。



カチッ

ドライヤーのスイッチが切れる音がして静かになる室内。

「よし。綺麗」

振り返ればにっこり笑って満足そうに私の髪を撫でている遊。「ありがとう」って言おうとしたけどなかなか言えなくて、迷っている間に彼はお風呂へ向かってしまった。


「……ほんと、かわいくない」

自分で呆れたように零した言葉とため息はただ床に落ちて行くだけだった。



どうして遊は私と付き合ってるんだろう。


いつか、「こんな女はもう懲り懲り」って言われる日が来るのかな。


「もっと可愛げのある子がいい」って遊が気付く日が来るのかな。



──それなら、それまでは。


彼が嫌気をさしてからでは遅いと思うけど──それでも、遊が私に微笑みかけてくれるうちは……私から手離す気なんてない。

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