第11話



「世良」

今度は優しく呼ぶ。私が素直に行動するのは久しぶりだから何だか恥ずかしくて顔を上げられない。だけど彼はそんなこともお構いなしにぎゅうっと抱きしめ返してくれた。

「なにか……あった?」

よしよしと頭を撫でてくれる遊。顔だけを上げてみれば、やっぱり微笑んで私を見下ろしている。そして私の前髪を掻き分けると、おでこに唇を落とした。

「そんな、可愛いことしないで?」

何も答えない私に、困ったように笑う。……それはこっちのセリフだっていうのに。


「……遊」

“すき”って続けたいのに、やっぱり意地っ張りな私にはできなくて声が詰まった。


「遊は……私のこと……」

“どう思ってるの?”って聞こうと再び開いた口は、遊によって塞がれてしまう。柔らかな感触と温かい体温は心地の良いもののはずなのに──

勘の良い彼によって誤魔化されてしまったんだと思うのは私の思い過ごしなんだろうか。


「ゆ……っ」

だんだん激しくなっていく口付けに思わず彼の服を握れば、バッと身体を離された。


「あ……ごめん……」

申し訳なさそうに項垂れた遊。恋人がキスするのに、申し訳ないことなんてあるの?私は嬉しいのに。好きな人に触れてもらえるなんて、こんなに幸せなことなんてないのに。

「……お風呂、いってくる」

潤んできた瞳を誤魔化そうと遊に背を向けた。


──遊は私にキスする度に、苦しそうな、少し辛そうな顔をする。それがどういう意味を持つのかなんて考えたくもないよ。


“彼女だから”って、その義務を果たそうとするかのように私に触れる。そして一線を超えることは絶対にしないのは私に魅力がないからでしょう?どれだけ私が頑張ったって、その王子スマイルでかわしていく。



「遊のばか……」

ポロリと落ちていく涙は決して彼には届かない。


私の気持ちと同じように。

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