第9話


「──世良?」


階段を駆け上がって、屋上のドアの前の踊り場で息を整えていると、優しい声で名前を呼ばれる。

「ゆ、ゆう……っ!?」

愛しい愛しい彼氏の登場。だけどいくらここが人気のない場所だとしても、こんなところを見られたら怪しまれる。


「なにしてんのっ、はやく授業──」

目の前までやってきた彼の身体を押してみるけど、全く動かない。華奢そうなのにやっぱり男の子だ。

「世良」

もう一度、言い聞かせるように呼ばれたから口を噤んだ。

「──さっきの、人……。いつも話してくれる幼馴染……?」


遊は一稀と直接会ったことはない。いつも私の話に出てくるから、存在は知っているわけだけど、それが何だっていうんだろう。


「そうだけど……?」

わざわざ私の後を追ってきた理由は一体何?


「いつも、あんなに距離、近いの?」

「え?」

そう問いかけてくる遊の表情は柔らかいままだけど、何を考えているのかイマイチ分からない。


「よく頭……なでるの?」

ふわりと私の髪を掬う。ぽんぽんと頭に乗せられた手は、さっきの一稀の真似みたいで。

「な、なんでそんなヤキモチみたいなこと──」

震えそうな声で呟いた。まさか……っていう期待に歓喜してしまいそうになる。

「……ううん、俺にも幼馴染がいるんだけど……。あんなに仲良くなるにはどうすればいいのかなって思って」


私の“ヤキモチ”っていう言葉に少し目を見開いた遊はやんわりとそれを否定した。




……わかってるよ。もうそんな期待を砕かれるのも慣れたから。

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