第8話
「世良?」
ぼけっとしていた私の顔を覗き込む。一稀は綺麗な顔立ちの遊とは違って、整っているというよりは可愛らしい顔をしている。
愛嬌もあって老若男女から慕われる魅力的な人だ。特に年上の女性からの支持はすごいらしい。隣で歩いていると5分おきに綺麗なお姉様に声をかけられて、手を振ったりフザケて投げキスなんかしたりして愛想を振りまいている。
「いや。なんもない」
そう言うと不器用な手つきで頭を撫ででくれる。こう見えて心配性だから、私の顔が曇ったのに気づいたんだろう。この幼馴染には、何でもお見通しなのだ。それが照れくさくも、嬉しくもあるのは私の中にある昔から変わらない感情だ。
「──あ。次の授業、移動だった!」
腕時計を見てハッとすると撫でていた頭をポンポンとたたき、慌てて走り去っていく。馬鹿だなあ……なんて笑いながら見ていたら、どこからか視線を感じた。キョロキョロと周りを見渡すと、ばっちりと合わさった視線。
──遊が、私を見ている。
彼のいる場所から私までは少し距離がある。だから私を見てるとは限らない。でも、やっぱり「彼女」っていう立ち位置にいるわけだから期待はしてしまう。
私が目を逸らせないでいると、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる彼。まだ慣れない遊の心臓破りの微笑みにドキッとしていると、彼が取り巻きの女の子に話しかけられたから私の方へ向けていた視線を外した。
その瞬間、私はその場から逃げるように去った。
「なに、あれ……」
学校ではなるべく私と接触しないでって言ったのに。遊も「そのほうが楽かもね」って言ったくせに……。
他の人が遊の視線に気付いてしまったらどうするのか。
そんな風に苛立ってみたはいいものの、窓ガラスに写った自分の顔はとても緩んでいて慌てて引き締めた。
……可愛すぎる、あの顔を他の人に見せているのが腹立つなあ。そんな感情だって、彼女だっていう優越感から来る嫉妬。遊が私に対して抱くことのないものだ。
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