第6話


 ──これが、私たちの馴れ初め。遊の気まぐれで私たちは付き合うことができたと言っても過言ではない。


 あれから、2年。まだ有り難いことに私たちは恋人同士だ。


 だけどこの2年間で一度も遊に「好き」だと言われたことはない。キス以上をしたこともない。私のワガママを笑って受け入れてくれて、本当に優しい彼だと思う。


 たくさん甘やかしてくれる。ときめくような言葉もくれる。だけど一番大切な言葉は、一度ももらったことがない。




 最初の言葉通り、遊に浮気をする素振りはない。他に好きな人を作るわけでもなし、友だちと遊び歩くことも滅多にない。ただ、私の隣で笑っている毎日。私のことを好きでもないのに、退屈じゃないのかと思ってしまう。




 同じ高校へ進み、両親が仕事で海外へ行ってしまって一人暮らしを始めた遊の家に毎日のように転がり込んで、今では半同棲状態。それでも、文句ひとつ言わない。


 私のことなんて好きじゃないくせに。私用のマグカップを買ってきたり私の着替えをタンスに入れてくれたり。歯ブラシだって、洗面所で仲良く2本並んでいる。


 私のこと、好きじゃないくせに──これからも私がそばにいることを受け入れる環境に、期待してしまいそうになる。


 だけど同時に、半同棲といういくらでも手を出せる空間の中でも全くと言っていいほど触れようとしない彼に、苛立ちすら感じる。私に色気がないのがいけないんだ。と何かしら理由をつけて納得しようとした1年目。だけど2年が経った今でも彼は欲求不満な様子を見せない。





「おはよう、世良」

 朝、遊の声で目覚めると1日の調子が良い。優しく笑って髪を撫でてくれると疲れなんて吹っ飛ぶ。目を開けて、遊の顔が目の前にあるととてつもなく幸せな気持ちになる。


「おはよ、遊」

 そう返すとまた微笑んで抱き寄せられるから朝からドキドキして心臓に悪い。


 だけど、遊は?

 どこで癒やされてる?誰にドキドキしてる?いつ幸せを、感じてる?


 ──少なくとも、その相手は私じゃない。そう考えるだけで胸が締め付けられる。



 優しいのは、私だけにじゃない。誰にだって優しく微笑みかける遊。いつも愛想を振りまく無数の女の子の中に、いつか遊がときめくような子がいるかもしれない。


 ……いや。もうすでにいるのかも。笑顔の奥はあまり読み取れないから、彼の本当の気持ちなんて私には分からない。きっと彼は、優しさだけで私のそばにいる。

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