第5話
「──ほ、本当にいいの?私、すごくワガママだよ?」
どうしても遊が彼氏になってくれるだなんて信じられなくて、そう尋ねる。
それで「嫌だ」なんて言われても、どうしようもないんだけど。
(やっぱり付き合うのはナシで……とか言われたらどうしよう)
自分で掘った墓穴に内心ドキドキしていると、彼は少し首を傾げた。
「いいんじゃない?可愛げがあって」
嫌がる素振りもせず、それがどうしたの?とでも言いたそうな顔をする。
「……遊びじゃ、ないよね?」
失礼極まりない質問には今まで微笑んでいた彼も真剣な表情になる。少しだけ、頬を膨らませて拗ねたような表情をするからまた心臓が破壊しそうだ。
「遊びで付き合うなんて失礼なことしない」
この人が、たった今から私の恋人になった。
その実感がじわりじわりと身を焦がしていく。
「浮気とか、しない?」
付き合ってもらえるなら文句は言えないけれど──それでも、浮気を許せるほどの器は持ち合わせていない。やはり私はワガママな女なのだ。
まだまだこの人の本性なんて知らない。とんだ遊び人かもしれない。
──それなら、この口約束も意味をなすのかは甚だ疑問だけど。
どんな男かと想像しても、“彼と付き合う”意外の選択肢はない自分に笑ってしまう。
「うん。当たり前だよ」
俺をなんだと思ってるの?と冗談ぽく言った遊。
イケメンには注意が必要なんだって、誰かが言っていた。
所詮、みんな外見に魅了される。性格でふるいにかけられるのはその先だ。
私なんかよりずっと綺麗な人が告白してきたら──って、そんな相手ならこの人にはたくさんいたはずなのに。
どうして私と付き合ってくれたんだろうか。タイミングがよかったのかもしれない。
それならば私はとんだラッキーガールだと思う。
それにしても、世の中“外見主義”だなんて言っている私本人だって遊を見た目だけで好きになったんだから偉そうには言えない。
──ごちゃごちゃと考えていても意味がない。とにかく、今はこの爽やかな超絶イケメンの笑顔に騙されておくしかないのだ。付き合ってから彼の本性を知っていくのだって悪くないと思う。
そう言い聞かせて、私は頭を下げた。
「……よろしく、お願いします」
彼が優しく私の顔を上げてくれる。
「こちらこそ」
その指先が頬を撫でていった。
──ああ、この人が笑うとつられて笑っちゃう。正しくは鼻の下が伸びた締まりのない顔、とも言う。
だって遊が笑うと何だか胸が締め付けられて、身体が熱くなって……知らないうちに口元が緩んじゃうんだから。
私はこの人に恋をしたのだと、馬鹿みたいに思い知らされる。
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