第2話


 彼──瀬川遊と出会ったのは中3の夏。


 私の通っていた中学に友だちがいたという彼は、下校時間後、校門に寄りかかってその友だちを待っていたらしい。背が高くて人形みたいに整った顔をしているから、一瞬で下校途中の女子生徒に捕まっていた。


 そんな騒がしい門の前、私は何気なく女子の群れから頭ひとつ分出ているそのお顔を拝見する。



 女子の大群を苦笑いでかわす彼。くりくりの目にカールした長いまつ毛、群がっているファンデーションを塗りたくったどの顔よりも白い肌。通った鼻筋とぷるぷるの唇に柔らかそうな少し茶色がかった髪。


 どこをとってもまさに完璧なその姿に、私は他の女の子たちと変わらず目を奪われた。




 世の中にこんなに綺麗な顔をした人がいるのか、というくらいの衝撃。そしてその衝撃に撃ちぬかれていると、彼とバチッと目が合って何故かにっこり笑いかけられる。今思えば、それが私に対してだったのかは定かではないんだけれど。


 ……とにかくそれが私が一目惚れした瞬間だった。



「ちょっと来て!」

 元々そこまで積極的な性格じゃないんだけど、どうしてかその時は居てもたっても居られなくて女子の軍団をかき分けてその中心にいた人物の腕を掴んでいた。

「え……」

 きょとん、とする彼を引っ張って校外へ走り出る。適当なところまで逃げて誰にも邪魔されない路地裏へ連れ出した。


 ……なんだか、悪いことをしているみたいだ。けど唖然とする女の子たちは見ものだったよ。あの顔は化粧でも誤魔化せない。



 弾む息を整えて、彼に向き合う。体力のない私とは違ってほとんど息を切らしていない彼はスポーツもできるのだろうか。不思議そうに私を見つめる姿がなんとも可愛い。可愛すぎる。


「す、すきです!!」


 このお人形さんと目があっていることが信じられなくて、見つめられていることが無性に恥ずかしくて。


 無意識のうちに出た言葉に、私自身が度肝を抜かれた。


「──え?」


 ……いやしょうがない。当然の反応だ。だけど告白なんてされ慣れているだろうに、少し戸惑っている様子がまた可愛い。


「一目惚れ、しました……」

 懲りもせず続けた私の言葉に、彼は目をまんまるにさせるとぷっと吹き出した。


 ……ですよね。



 何故だか彼の笑いのツボに入ってしまったらしい。しばらく身体を小刻みに震えさせながら、口を手で押さえて笑っていた。

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