私の彼氏は完璧王子
第1話
「──遊くん、好きですっ!」
そう言って顔を赤らめる可愛い女の子。その目の前にはきょとんとしている、人形の様に整った顔立ちの持ち主。長い睫毛が揺れて、ただ立っているだけなのに絵になるその姿はすれ違った人が必ず振り返るほどだ。
彼は女生徒からの告白に少し戸惑ったように目を伏せると、甘く声で囁くようにその答えを発する。
「──悪いけど……俺には、すごく大好きな──。えっと、世界一可愛い彼女?……がいるから……君とは付き合えない」
それはまるで台本を暗記したかのような棒読み。視線が宙を泳いで、忘れかけたセリフを手繰り寄せようとしている所も見受けられた。
「──って言え、と言われてるので。そういうことです、では」
最後に付け加えた一言は全くもって必要のないものだと思う。
だけどふわりと笑った顔にはもう女生徒もメロメロで、最後の言葉はきっと彼女に届いていないんだろう。
そして爽やかさだけを残して、彼は去っていった──。
「……あれ、世良?何してるの」
……やばい、見つかった。
「……な、なんでもない!」
柱の陰で隠れていた私──宮西
「ちゃんと、合ってた?」
そう無邪気に聞いてくるこの恐ろしいほど綺麗な男は瀬川
──そう。彼は紛れもなく、私の彼氏。
「合ってるっちゃあ、合ってる……けど……」
とんでもなくモテる彼氏を持った私は、上手く告白を断れないと言う彼のためにさっきのセリフを考えた。
「ものすごい棒読みだった」
遊は俳優には向いていないみたい。あの微笑みで全てを誤魔化せてしまうのは一種の特殊能力だとは思うけれど。
「なんで『可愛い彼女』に疑問符がつくの」
ちょっと拗ねるように言ってみれば、ぽかんとした後またくすりと笑った。
「──ふふ、大丈夫。可愛いよ、世良は」
ぽんぽんと頭をたたく。そんな仕草一つにだってときめくから、どうしようもなく私は彼に惚れているんだと思い知らされる。
私は決して可愛くも美人でもない。いい子でもないし、何か秀でた才能があるわけでもない。ごくごく平凡な女子高生なのだ。
それでも私なんかを恋人にしてくれた彼。どうして王子様みたいな彼が私を好きになったのかって?
「ねえ、世良。髪にゴミがついてる」
ぽんぽんとしていたそれが撫でるような手つきになり、そっとゴミを取ってくれているのだとわかる。
「あ、りがと……」
そう言えば、軽く頷いて微笑む。
──私の彼氏はとても優しい人。意地っ張りで素直じゃない私のワガママを広い心で受け止めてくれる。お人形みたいに整った顔をしているのに、平凡な私を大切に扱ってくれる。
みんなには付き合っていることを内緒にしてるけど、スマイル王子と呼ばれるくらい有名な彼。本当に完璧で、絵に描いたような理想の彼氏。
──だけど、その彼は私のことが好きじゃない。
……そう、好きじゃ、ないんだ。
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