14
2021年5月12日
柵越しにも、そのボディが曇天の空を映している様子が目に入った。
ガラスには漆黒の車体と見紛うほどに暗いスモークが貼られ、僅かにうかがえる車内には前部と後部を仕切るカーテンが見受けられた。
お嬢様学園の駐車場とはいえ、場に不似合いな車両だった。
───前にはなかったな。
知樹の勘はきな臭いものを感じていた。
言葉にはできない、気に入らない感じ。
これでは
「マック、どうしたの?」
「いや、なんにも」
しかし、慶太も愚かではない。
知樹の視線の先を知ると、同じく違和感を持った。
「コロモの
「……なーんか、嫌な感じすんだよな」
「“いかにも”って感じだよね。その、ヤのつく人とか」
ヤクザ。
知樹も何度かそれらしい人間とやり合ったことはあるが、高級車に乗る手合いは初めてだ。
友人の近くに、ロクでもない奴らがいる。
心のスイッチに指を掛ける。
「おおっと、あんまし関心出来ねぇ言葉遣いだな、ボウヤ」
背後の気配から、聞き覚えのある声。
振り返ると、黄色いタオルを首に掛ける
「なんだよ、またケンカ売りに来たのか?」
「くっくっく……最近のガキは物騒だねぇ。この大人様が忠告しに来てやったのよ」
「忠告ゥ?」
喧嘩腰の知樹を横目に、用務員は腰を下ろして件の車に視線をやった。
いわゆるゴプニクスタイル、またはうんこ座りである。
「あの車の持ち主はなぁ、
「加賀津谷……? 確か、
「あと、修理と調達もな」
その名前は慶太とその
社長自らサービスを行う、という一点のなんてことのない会話だ。
「……で、楽器だけじゃあんな車に乗れるほど儲からねぇ」
「なんだよ。裏の顔でもあるってのか?」
「さぁ。どうだろうなぁ……くっくっく、半端な気持ちで茶々いれねぇこった」
言いたい事だけ言い終えると、用務員はまたどこかへ行った。
本当に仕事をしているのか疑わしくなる男である。
「なんだあのオッサン」
「さあ……いきなり出てきて助言言うやつ?」
とはいえ、無意味な事ばかりではない。
用務員の言うことが事実ならば、加賀津谷楽器店社長とやら、ただならぬ人間であると見るべきだ。
「……姉さん、大丈夫かな」
慶太の呟きに、知樹は心のスイッチにある遊びを引き絞った。
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