第8話 王都派遣部隊
テームの街が魔王軍の侵攻を打ち破り、喜びに包まれている4時間ほど前、夜明け前の王都では平和な夜が過ぎていた。城壁を守る兵隊たちは、いつも魔王軍が攻めてくる深夜を何事もなく終えて、安堵の表情でおしゃべりを始めていた。
「空が白み始めてきたな。今夜も魔王軍は来なかったな。」
「ああ、やっぱりホッとするな。ここから2将軍が北に向かったといううわさだ。東からの増援も来ているみたいだけど、王都を攻めるには戦力不足なんじゃないか。」
「やはり、北の補給路を確保して、兵力を整えてから再度攻撃してくると思うな。」
「北からの補給路を遮断しているテームの街に、3将軍と3万匹ぐらいのオークとゴブリンが向かっているそうだから、その街の攻略が終わってからだろうな。」
「そうだろうな。1000匹ぐらいの魔王軍は殲滅したそうだが、3万匹相手にどれだけやれるだろうか。」
「うーん、テームの街から教わったこの大型の・・・・何て言うんだっけ。」
「ホーガン。」
「そうそう、ホーガンのおかげで普通のオークを遠距離から倒せて戦いはだいぶ楽になったけど、テームの街の人口は1000ぐらいだろう。」
「今は周辺の街や村から集まってきて2000ぐらいいるそうだ。アイシャ大尉の部隊も行っている。」
「それでも、さすがに人口の15倍の敵ではもたんだろう。」
「将軍も3匹いるしな。アイシャ大尉、無理しないといいんだけど。」
「まあ、妖精部隊は飛んで帰ってこれるから、大丈夫だよ。」
「そうだな。でも、俺も一回ぐらい飛んでみたいな。」
「可愛い男の子だったら、もてない女の妖精にさらわれて飛べたかもしれないけどな。」
「ははははは、昔ならそうかもな。冗談はともかく、テームの街の攻略が終わったら、魔王軍は北からの兵を加えて、本格的にこっちを攻めるんだよな。」
「副師団長は最終的には10万ぐらいで攻めてくるんじゃないかと言っている。だから、大本営では大型ホーガンや連装式の小型ホーガンを全力で制作しているらしいけど。」
「勝たないと皆殺しだから頑張るしか・・・・・おい、あれは何だ!?」
白んだ空を背景に大きな飛竜のようなものがこっちに来るのが見えた。
「どれ?」
「あの東の大きな木の右側だ。」
「あれか。距離が分からないが、飛竜よりかなり大きそうだ。」
「もう少し様子を見て、あれがまだこちらに向かってくるようならば、やまと副師団長に連絡するか。」
「いや、すぐに副師団長にした方がいい気がする。」
「臆病だな。でも、まあ行ってこい。」
「分かった。」
少しして、やまと副師団長がやってきた。
「大きな飛竜か。どれだ。」
「あの、あの東の大きな木の右側。まだこちらに向かってきています。」
「あれか。まだ、5キロメートルは離れている。とすると、大きさは少なく見積もっても、70メートルはあるな。暗くてよく見えないが、まず間違いなく炎竜だ。」
近くにいる副官に命令する。
「警報を出せ。そして連絡係の妖精に、大本営に東からの炎竜来襲を伝えるように指示してくれ。両方とも大至急だ。」
「了解です。」
「全員よく聞け。手順通りに対処する。まず、全員、水をかぶれ。炎竜が200メートル以内に近づいたら土嚢で作った防火壕に退避しろ。残念ながら、地上からでは飛んでる炎竜と戦う有効な手段はない。炎竜が来た後に、こちらの混乱に乗じて魔王軍が上がってくるはずだ。そのために、できるだけ負傷しないようにしろ。」
やまと副師団長は、空を見上げながら「妖精部隊の頑張りに期待するしかないのか。」と無念に思っていた。兵が水をかぶり、土嚢で作った防火壕の近くで警戒を続けた。やまと副師団長が城壁の外を見ると魔王軍が動いているのが見えた。
「案の定、魔王軍の兵も動き出した。弓兵以外は全員防火壕に退避。弓兵は、ぎりぎりまで防火壕の近くで、穴から出てきた魔王軍を攻撃する。」
弓兵が魔王軍に対して大型ホーガンや連装式ホーガンで矢を放つ。
「矢でオークを倒せる。これなら10万が攻めてきても大丈夫だ。炎竜が問題だな。」
炎竜が500メートルぐらいに近づいてきた。
「弓兵も防火壕に退避。」
副官がやまと副師団長に声をかける。
「大きいですね。」
「ああ。俺も本物を見るのは初めてだ。」
「副師団長もそろそろ防火壕へお入りください。」
「お前は入れ。俺はぎりぎりまで見ている。」
「それならば、私もお供します。」
炎竜が城壁の外側の地上に降りた。そして、口から強力な炎を吐いた。炎は150メートルぐらいの長さになっていた。しかし、それは壁の上に向けてではなく、城外で攻撃の準備をしていた魔王軍に向けてだった。多数の魔王軍の兵のオークやゴブリンが焼かれていた。焼かれなかったオークやゴブリンは、慌てふためいて近くの地面に掘った穴に隠れた。
「やはり炎竜は人間も魔王軍も区別なしか。」
しかし、その様子を見て、やまと副師団長が大型ホーガンに矢をセットした。それをまねして、副官も大型ホーガンに矢をセットしようとしたが、力不足でセットできないでいたら、防火壕から兵が飛び出して、セットをするのを手伝った。
「有難う。お前たちのおかげで矢がセットできた。だが、お前たちは防火壕に戻れ。」
「分かりました。防火壕から見ていて、2射目をするときに出てきます。」
「すまない。副師団長、この位置ならば炎竜の目に矢が届きますね。」
「ああ。同時に放つぞ。」
「はい。」
「よし、撃て!」
歩きながら地上を焼いている炎竜の目に向かって、大型ホーガンの矢が放たれた。しかし、二つの矢は炎竜が目を閉じたため当たらなかった。
「最大のチャンスだったが、防がれたな。今度はこっちに来るぞ。」
炎竜が羽ばたいて飛び上がり、城壁の上に足を乗せて止まった。その際にいくつかの防火壕が炎竜の足で押しつぶされた。矢のセットを手伝った兵が入っている防火壕も押しつぶされていた。やまと副師団長が再度水をかぶり、炎竜の足に切りかかる。
「おのれ。」
しかし、その矛は炎竜の表面を覆っている硬いうろこにかすり傷をつけるのが精一杯だった。炎竜はやまと副師団長の攻撃に気づかず、王都の中に向かって飛び出したため、やまと副師団長は炎竜の足に蹴とばされて城壁の中に弾き飛ばされてしまった。副官が叫んだ。
「やまと副師団長!」
炎竜が来襲したとの報を受けた大本営は、計画していた通り、妖精部隊に対して決死の攻撃命令を発した。
「妖精部隊は弓矢で炎竜の目を攻撃する。目が見えなくなれば、炎竜とて王都に対して有効な攻撃はできない。極めて危険な作戦ではあるが、王国の壊滅と人間の絶滅を救うためには妖精部隊のみんなに頑張ってもらうしかない。」
「はい。」
「炎竜が吐く炎の長さは150メートルほどという報告が入っている。したがって、200メートル程度離れたところから矢を射るように。また、この距離だとあまり高い命中率は望めない。戦果をあげるためには、多数の矢を放つことが必要だ。距離に十分注意して、矢が外れてもあきらめずに作戦を続けてくれ。」
「分かりました。」
命令を拝領し、空中戦では近隣諸国の中で最速最強を誇るプラト王国妖精部隊が次々に飛び立っていった。上空に上がると炎竜の位置はすぐに分かった。炎竜は地上に降りて、王都の建物に向かって炎を吐いていた。プラト王国の兵たちは土嚢で作った防火壕に避難し、炎竜の周りには人が見えなかった。妖精部隊は炎竜に接近していった。炎竜から300メートルぐらいのところから減速して、さらに200メートルぐらいの距離まで近づいて行った。近くで、炎竜を見た妖精たちが息を飲む。
「大きい。」
各分隊長が命令する。
「ひるまずにいくよ。目標は炎竜の目。他の分隊とタイミングを合わせて矢を放つ。」
妖精たちは分隊ごとに散開し、様々な方向から一斉に炎竜に向かって矢を放った。しかし、矢は、小さな腕や閉じた瞼にはじかれて目に命中しなかった。一人の分隊長が命じた。
「この距離では矢が防がれる。炎竜が目を覆ったときに、私たちの分隊はさらに接近して攻撃する。他の部隊は援護をお願い!」
妖精たちが再度矢を放つと、炎竜が顔を手で覆い目を閉じた。その瞬間、その分隊が炎竜の顔に近づいて行った。
「目を開けた瞬間を狙うよ。」
しかし、炎竜は接近を察知したのか目をつぶったまま炎を吐くために息を吸った。分隊長が攻撃を断念して命じる。
「急降下で退避。」
妖精たちは急降下して逃れようとするが、炎竜が首を振りながら炎を吐き、下降途中の分隊後方2名の妖精が炎に包まれ、火だるまになって地面に落ちた。分隊の隊員が名前を叫ぶ。
「かがみ!きょうか!」
分隊長が命じる。
「二人はあきらめて。炎竜の後ろに回り込んで退避する。」
残った3人が炎竜の後ろに回り込んで退避した。すると炎竜は大きく羽ばたき離陸して、前方の多数の妖精に向かっていった。妖精たちは巨大な炎竜が迫りくる恐怖の中で、後退しながら矢を放ったが、落ち着いて狙うことができず、矢は当たらなかった。炎竜が近づいてきたため、妖精たちは攻撃を断念し、全速の時速300キロメートルで炎竜から逃げようとしたが、炎竜が加速するとだんだんと飛ぶ速度が上がり、ついには妖精たちより速くなり、炎竜から妖精たちまでの距離を詰めてきた。そして、炎を吐き出すと、たくさんの妖精たちが火だるまになって地面に落ちていった。それを見た各分隊長が命令する。
「だめだ、このままじゃ全滅する。全員散開して退避。」
妖精たちが蜘蛛の子を散らすように炎竜から逃げ始めた。炎竜はその中の一人に狙いを定めて、ゆっくりともて遊ぶかのように追い詰めていく。その妖精が悲鳴を上げる。
「助けて!」
同じ分隊に所属する仲間の妖精が炎竜に接近して目に矢を放つと、炎竜は飛ぶ方向を変えて、その仲間の妖精に向かって飛び始め、接近するとその妖精を目掛けて炎を吐いた。妖精は火だるまになり、地面に落ちていった。炎竜はそれを確認すると、もとの妖精に狙いを戻してゆっくりと追い詰めていった。妖精は小回りをしながら全力で逃げたが、振り切ることはどうしてもできなかった。数分すると炎竜は追い駆けっこにもう飽きたのか、最後は全力で炎を吐いて、その妖精を火だるまにして飛び去っていった。そして、炎竜が自分の周りを見ると、もう自分の周りには妖精はいなかった。大本営から妖精に対して撤退命令が出ていたのである。炎竜は王都の中や城壁の周りで人間、オーク、ゴブリンを探し、見つけると炎を吐いていた。
大本営では全員があわただしく作戦指揮にあたっていた。
「女王様の地下要塞への避難は完了したか?」
「はい。女王様と女王様のご家族は、『ユナイテッドアローズ』の警護のもと、王宮からの地下通路を通って地下要塞の王族専用の部屋に避難を完了しています。」
「そうか。それは一安心だな。妖精部隊の撤退は?」
「はい、炎竜に攻撃されなかった妖精の撤退は完了しました。現在は妖精部隊の基地の地下室に退避しています。」
「地上に落ちた妖精や兵の負傷者の救援は、炎竜から離れたところから順番に実施し、地下要塞の救護室に運び入れています。ただ、炎竜が飛ぶ速度がかなり速いですので、救援作業が困難で、かなり時間がかかっています。」
「時間がかかるのは仕方がないが、それでもできるだけ急いでくれ。しかし、炎竜がうちの妖精部隊より速く飛べるのは計算違いだった。」
「はい。あんなに大きな図体で時速400キロメートルぐらいは出るようです。時速600キロメートルで飛べるアキ様ならば炎竜より速いですが。」
「アキ様の強力な矢でも炎竜の鱗を貫通することはできないだろう。目を狙っても、一人だけでは当たる確率はかなり低い。現状では有効な対策が考えられない。」
「はい、その通りだと思います。」
「しばらくの間は地下に退避して、様子を見るしかないだろう。」
「了解しました。」
妖精や兵の負傷者が、炎竜がその場所から離れている時間を狙って、地下要塞の救護所に運ばれてきた。全員が全身に酷いやけどを負っていて、まだ息はあっても、呻きながら死を待つばかりの状態だった。その救護所にマリ女王がやってきた。
「女王様!」
「負傷者がたくさんいると聞いて、私にも何かお手伝いできることがあるかもしれませんと思って、やってきました。」
さすがのマリ女王もその光景を見て息を飲んだ。
「こんな。酷い。」
しかし、気を取り直して、全力でヒールを施すことにした。
「どこまで治せるか自信はありませんが、痛みや苦しみを少しでも取り除けるよう、ヒールをしたいと思います。」
マリ女王がヒールのための歌を歌い始めたが、負傷者の痛みや苦しみを和らげて命をつなぐのが精一杯で、酷い火傷が治っていくようには見えなかった。
そのとき地下要塞の大本営の指揮所に伝令が飛び込んできた。
「地下要塞の東側の守備隊から急報です。目度砂が多数のオークとゴブリンを引き連れて、地下要塞の通路に侵入してきたとのことです。」
「どこから入ってきたんだ。」
「報告によると、地下通路の壁を破って突然現れたということです。城壁の外から地下要塞までトンネルを掘って入ってきたのではないかということです。」
「城壁まで数百メートルはあるのに、直接地下要塞まで掘ってきたのか。」
「はい。また、事前の情報通り、目度砂の目を見た兵が石になってしまったそうです。現在、地下通路にある扉を閉め、バリケードを作って侵攻を遅らせていますが、魔王軍は地下要塞の中心部に少しずつ近づいているとのことです。」
大本営の指揮所には『ユナイテッドアローズ』のアキ以外のメンバーも集まっていて、状況を聞いたパスカルがメンバーに話しかける。
「目度砂がオークやゴブリンを連れて、地下要塞の通路に入り込んだそうだ。」
ラッキーが答える。
「地下要塞が占拠されると女王様の安全な居場所がなくなるよね。」
「それはラッキーちゃんのいう通りだ。」
「全軍を指揮することもできなくなって、王国軍が崩壊する可能性もあるよね。」
「本当は妖精たちにあんな酷いことをした炎竜を討ち取りたいが、飛んでいるんじゃどうすることもできない。」
「目度砂ならパスカル君の小烏丸で切れると思う。」
「おう。これを使えば目をつぶっても音で周りが分かるから、目度砂とでも戦えるぜ。」
「パスカルちゃん、そのカスタネットは何?」
「これから出る音の反射で敵の位置が分かる。真っ暗な中で戦うために練習してきた。」
「おお、それは頼もしい。ラッキーちゃんの楯なら目度砂の蛇の髪の毛の攻撃も防げると思う。私は腐った魚の水を用意する。あと魔法で偽の壁を作って、目度砂をパスカルちゃんのところへ誘導するね。」
「コッコちゃん、頼んだ。」
「任せて。」
「でも、心配なことが一つあるんだ。」
「ラッキーちゃん、何だい?」
「噂なんだが、目度砂はすごい美人だということ。」
「ラッキーちゃん、何でそんなことが分かるんだ?見たら石になってしまうのに?」
「石になる直前に、『美しい』とか、『何でこんな美人が』とか、言うそうだ。」
「なるほど。そういう言葉でパスカルちゃんが目度砂をつい見てしまって、石になるということか。」
「その通り。」
「おい、お前ら。いくら何でも俺を馬鹿にしすぎだ。どんなに美人と分かっていても、石になると分かっていて目度砂を見るはずはない。」
「普通ならそうなんだが。」
「二人とも分かった。女王様に誓う。目度砂がどんなに美人でも見たりしない。」
「まあ、パスカルちゃん、とりあえず信じることにするよ。」
「うん、今は信じるしかないからね。それじゃあ、時間がもったいないから行くぞ。」
「そうだね。」「おう。」
パスカルを先頭に、三人が地下通路の東側に向かった。ラッキーとコッコは走りながらパスカルが石になった時の対応について話し合った。
大本営の指揮所に、地上の戦いに関しても悪い知らせが入った。
「現在、城壁の門の守備隊がオークとゴブリンと交戦中との報告です。」
「門の守備兵ということは、城壁の内側か?」
「はい、その通りです。」
「そのオークとゴブリンはどこから来たんだ。」
「それが炎竜が飛来したときに、守備兵が一旦防火壕に退避したのですが、炎竜は飛び去ると同時に地面に穴があいて、そこから多数のオークとゴブリンが出現したとのことです。」
「魔王軍がトンネルを使ったということか。」
「それ以外には考えにくいです。守備隊の土嚢の内側に出てきて、不意を突かれ、土嚢の防壁の内部の守備隊は全滅し、防壁の外側の守備隊が攻撃をかけていますが、ゴブリンとオークの数がどんどん増えていき、殲滅できない状況です。そして、多数のオークが門を内側からこじ開けようとしているとのことです。」
「魔王軍がこちらの防壁を盾にしているのか。オークはバカじゃないからな。」
さらに悪い知らせが入る。
「残念ながら、城壁の門が突破されました。極めて多数のオークとゴブリンが王都内部に侵入してきているとの報告です。」
「数はどのぐらいだ。」
「4万は越えていて、そのうち1万がオークという報告です。さらに城外には2万ほどの魔王軍が待機していて、様子を伺っているとのことです。」
「そんなにたくさん潜んでいたのか。王都外の地面に穴を掘っていたが、東から移動してきた兵がそこに隠れていたということか。」
「はい。移動は夜だけにして、こちらの偵察にかからないようにしていたのではないかと思われます。」
「しかし、そんな大量の兵を長期間養う食料は運んでこれないはずだ。ということは短期決戦を狙っているということか。」
「あるいは、王都から略奪するつもりかもしれません。」
「そうすると、地上の食料は処分せざるを得ないか。」
「地上の食料を処分してしまうと、地下要塞の食料だけでは王都にいる民を食べさすには十分ではなく、民がすぐに飢えてしまいます。」
「そうだとすると、その決断は女王様にお諮りするしかないか。」
「はい、私もそう思います。」
地下要塞の地下通路でコッコが偽の壁を作って、魔王軍をパスカル、ラッキーがいる小部屋に誘導した。その小部屋の右と左の隅には守備隊がバリケードを設置し、その後ろに対オーク用ホーガンや連装ホーガンを用意して待ち構えていた。コッコが言う。
「コウモリの報告では、魔王軍が最後の角を曲がったということだから、もうすぐ来るよ。」
その部屋の隊長が命令する。
「ホーガンの照準を確認後、全員、目隠しをしろ。前を向いている間は目隠しを取るな。ホーガンの再装填と照準の変更は後ろを向いて実行するように。」
兵がホーガンを確認した後、全員が目隠しをした。
「パスカル君、あまり前に出すぎると、味方のホーガンの矢が当たるから注意しなくてはいけないよ。」
「パスカルさん、分かっています。兵が目隠しをして範囲を決めて撃つようですから、その範囲には入らないように注意します。」
「僕は目隠しをするけど、パスカル君も目隠しをした方がいいんじゃないか。」
「いや、俺には目隠しは不要です。あの扉が開いたら目度砂を倒すまで目を開けることは絶対にありません。」
「本当にそうかな。心配だよ。」
少しして、静かに前の入口の扉が開いた。パスカルがカスタネットを静かに打ち始める。
「うんたん。うんたん。」
ラッキーが尋ねる。
「パスカル君、うんたんって、何?」
「ラッキーさん、カスタネットを打つときには、うんたんって言うって、幼稚園で習いませんでしたか。」
「習ったかもしれないけど、ここでは言わなくてもいいと思うよ。」
「そうですか。でも、言わないと調子が出ません。」
「それなら仕方がないか。」
「ラッキーさん、部屋にオーク3匹とゴブリンと10匹が入ってきました。まだまだ、入ってきそうです。」
「うん、そんな感じだね。兵隊さん、ホーガンを撃つ準備をお願いします。」
守備隊の隊長が答える。
「承知しました。全員、射撃準備!」
「ラッキーさん、オークが10匹、ゴブリンが30匹に増えてます。あっ、今、怪しい音がする何かが入ってきました。」
「パスカル君、目度砂かな?」
「はい、頭の方から何かが動いている不気味な音がしますので、目度砂だと思います。」
目度砂が尋ねる。
「お前が、この国最強の剣士パスカルか。」
「その通りでございます。あなた様が目度砂様であらせられますでしょうか。」
「その通りよ。それでは、お手並み拝見と行かせてもらうわ。」
「パスカル君、何で目度砂に様をつけて敬語なの?」
「女性の声で褒められるなんて、めったにないですから。」
「そうか。それなら仕方がないか。」
「目度砂様におかれましては、非常に残念ですが、小烏丸のさびになって頂きます。」
目度砂がオークとゴブリンに命じる。
「オークとゴブリン、前にいる敵を討ち取れ。」
オークやゴブリンが動き出した音がした。守備隊の隊長が命令する。
「全員、撃て!」
パスカルがカスタネットを打ちながら口ずさむ。
「うんたん。うんたん。うんたん。」
ホーガンの矢に当たり、たくさんのオークとゴブリンが倒れた。それでも近づくオークやゴブリンを、パスカルが目をつぶったまま次々に切り捨てた。部屋が静かになると、目度砂が感心して言う。
「噂通り、なかなかのものね。」
「おほめに預かり、とても嬉しいです。」
ラッキーがパスカルに話しかける。
「パスカル君、敵のオークとゴブリンの動きが悪くなかったか。」
「はい、ラッキーさん。敵のオークやゴブリンも目隠しをしているみたいです。仲間同士ぶつかった音がしていました。」
「なるほど。魔王軍も目度砂の目を見ると石になるということか。それなら、こちらの勝機も十分あるな。」
目度砂が言う。
「面白い矢を使うわね。それじゃあ、次はこっちも矢で攻撃させてもらうわよ。」
目度砂の後ろから矢が飛んできた。ラッキーがパスカルをカバーし、兵たちは土嚢の後ろに隠れた。その時、目度砂の声がした。
「痛い。」
矢が目度砂の髪の蛇に当たり、その蛇が矢を放ったゴブリンを嚙み、ゴブリンが悲鳴を上げながら倒れた。目度砂が前を向いたまま注意する。
「私の後ろから矢を放つときは、目隠しを取っても大丈夫よ。よく見てちゃんと狙って。それでは、もう一回攻撃するわよ。」
目度砂の後ろのゴブリンが目隠しを取って、矢を放つ準備をする。
「準備はできた?」
目度砂が後ろを向いて尋ねた。すると、後ろのオークやゴブリンと目が合ってしまった。
「みんな私を見ちゃダメじゃない。」
「目度砂様、本当にお綺麗・・・・・。」
「噂通り、本当に美人なん・・・・・。」
言葉が終わらないうちに、オークやゴブリンが石に変わってしまった。
「後ろの兵たちが、みんな石になってしまったわ。本当にオークやゴブリンは知恵が回らないんだから。」
パスカルが言う。
「あの、目度砂様が、後ろを見るからいけないんじゃないでしょうか。」
「うるさいわね、パスカル。」
ラッキーがパスカルに話しかける。
「パスカル君、後方のオークやゴブリンが石になったから、援軍が部屋に入ってくるのに手間取っているようだ。今、この部屋にいる魔王軍は目度砂、一人だけだ。」
「そうですね。最高のチャンスが訪れたわけですね。」
「舐めた口きくんじゃないわよ。人間の分際で。お前たちなんか、私一人で十分よ。」
守備隊の隊長が命令する。
「撃て!」
大小様々なホーガンの矢が部屋の入口に向けて飛んでいった。その何割かは目度砂の方に飛んでいったが、目度砂の蛇の髪の毛で防がれて目度砂には到達しなかった。そして、目度砂が逆襲し、目度砂の蛇の髪の毛が兵隊たちを襲う。部屋の後ろの右と左から多数の兵の悲鳴が聞こえた。隊長が叫ぶ。
「パスカル様、ラッキー様、私どもには構わず、目度砂を!」
ラッキーが叫ぶ。
「パスカル君、隊長さんの言う通り、目度砂の前が開いている。今がチャンスだよ。」
「みなさん、後で助けます!うんたん!うんたん!」
手薄になった目度砂の正面に向かって、パスカルがカスタネットを鳴らしながら飛び込む。目度砂の蛇の髪の毛が襲ってくるが、パスカルは切り捨て目度砂に迫る。ラッキーもパスカルに続いていた。目度砂が、
「この!」
と言いながら、蛇の髪の毛でパスカルの胴体を突こうとするが、ラッキーがパスカルの前に出て楯を使って跳ね返す。その瞬間、パスカルがジャンプしてラッキーの楯を飛び越え、目度砂に切りかかる。
「目度砂様のお力も、目をつむっていればどうっていうことはないです。目度砂様、お覚悟をお願いします。」
「そうだとも、『ユナイテッドアローズ』の力をなめていたことを地獄で反省してね。」
パスカルが小烏丸を楯に振り下ろす。目度砂の悲鳴が部屋に響いた。
「ギャー!」
小烏丸からも手応えが伝わってきた。パスカルがラッキーに話しかける。
「ラッキーさん、手応えがありましたよ。」
「パスカル君、まだ油断するなよ。」
目度砂が悲鳴をあげてからすぐに目度砂が床に倒れる音がした。パスカルにはずうっと気になることがあった。それは魔王軍のオークやゴブリンが石になる直前に言っていた目度砂が本当に美人であるという言葉である。パスカルは、目度砂が本当に美人かどうか気になってしょうがなかった。
パスカルは目度砂が倒れている方に少しずつ近づいて行った。それでも、動く気配がしなかったため、パスカルは「さすがに、死んだんだから大丈夫だよな。」と思って目を開けた。すると、そこにはうつぶせに倒れている目度砂の姿があった。パスカルが「スタイルはいいけど、蛇の髪の毛は少し気持ち悪いな。でも、どのぐらいの美人なんだろうか。」と思いながら目度砂の顔の方に近づいた。しかし、その瞬間、目度砂が振り返りパスカルの方を見た。パスカルも思わず目度砂の方を見た。
「小烏丸の切れ味はさすがだったけど、人間はやっぱり馬鹿だな。お前が切ったのは私が手に持っていたゴブリンだ。」
パスカルにはそんな言葉より、目度砂が本当に美人なことに驚いた。
「本当に美人だった。」
その言葉だけを残してパスカルは石になった。ただ、その表情はどこか満足しているようだった。ラッキーが叫ぶ。
「パスカル君!」
そのとき後ろの扉からコッコの声がした。
「ラッキーちゃん、逃げ道は作ってある。速く逃げて!」
「分かった。」
ラッキーは石になったパスカルを持って後ろの扉まで下がると、コッコが部屋に腐った魚が入った水をぶちまけた。
「何、臭い!これがザンザバルが掛けられた臭い水か。」
「その通り。」
コッコはそう言い残した後、後ろの扉から出ていった。ラッキーは、撤退する兵にパスカルを預け、全員が後ろの扉から退避するまで扉の前に楯を置いて退路を守り、全員が撤退すると自分も撤退した。そして、コッコが魔法で強化した扉を閉めた。目度砂も自分の後ろの通路を魔王軍が通れるようになるまで追ってこなかったため、全員が退避することができた。コッコがラッキーに言う。
「やっぱり、目度砂が美人という噂があるから、パスカルちゃんは、それが敗因になるんじゃないかと思って逃げ道を作っておいたけど、役立った。」
「その通りだね。でも、目隠しをさせても取ってしまうだろうから、本当はどうすれば良かったんだ。」
「まあ、最初に目をつぶしてしまえば良かったんだろうけどね。」
「コッコちゃん、それは怖い。」
「でも、鉄でできた鍵付きの目隠しを作っても、小烏丸で壊しちゃうし。」
「それもそうだな。それは後で考えるとして、魔王軍の地下通路の侵攻を遅らせないと女王様が危ないよね。」
「それはラッキーちゃんの言う通り。それじゃあ、遅滞作戦の開始だね。」
「今はそれしかないから。」
ラッキーは中心部につながる地下通路が細くなっているところで楯を構えた。その後ろで守備兵が大型ホーガンを準備し、ラッキーの楯と地下通路の天井の隙間から大型ホーガンで魔王軍を攻撃した。コッコは、他の地下通路に偽の壁を作って魔王軍の侵攻の邪魔をした。
大本営の参謀の一人が救護室に向かい、マリ女王に王都の戦況を説明し、地上の食料を処分するかどうかに対して決断を求めた。
「そうですか。王都の城壁の門が突破されたのですか。」
「はい。我が王国地上軍が王都を守るべく全力で防衛していますが、残念ながら現在は、だんだんと魔王軍の支配面積が増えていっている状況です。ただ、それだけの兵力を長期間戦わせるだけの補給はないと思われますので、王都の地上の食料を処分して、敵の物資にしないことが必要かと思います。」
そこに悪い知らせが入った。
「目度砂の迎撃に出られた剣士パスカル様が、石になってしまわれました。現在、ラッキー様が通路の狭いところを楯で塞ぐと共に、コッコ様が偽の壁を作って魔王軍の侵攻を妨害しています。それに対して魔王軍はオークが壁を壊し、トンネルを掘って閉塞地点を越えて侵攻しようとしています。」
「パスカルさんが石にですか。そうですか。目度砂は余程強力なんでしょう。それで、魔王軍が地下要塞の中心部に到達するまで、どのぐらい時間がかかりそうですか?」
「半日程度ではないかと思われます。」
「いろいろと決断しなくてはいけなさそうですが、半日あるのならば、決断する前に、テームの街の湘南参謀長に意見を聞いてみたいと思うのですが。」
「湘南参謀長?」
「はい。」
「・・・・・。」
「ああ、ごめんなさい。湘南はあだ名でしたね。アキちゃんが湘南と呼んでいましたので、私もそう呼んでいました。湘南参謀長の本名は岩田誠ですから、テームの街の岩田参謀長が正式名称だと思います。」
「はい、岩田参謀長ですね。分かりました。私も会ったことはないのですが、外国からいらしたそうですので、何か良いアイディアをお持ちかもしれません。」
「炎竜の隙を見て、テームの街に伝令を出すことは可能でしょうか?」
「はい、可能だと思います。炎竜がいる反対側から王都を出て、低空を飛んで脱出すれば炎竜に見つかることはないと思います。直ちに準備させます。」
「大変とは思いますが、お願いします。」
炎竜は王都上空を自由に飛び回り、戦っているプラト王国軍と魔王軍の区別なく、楽しむように炎を吹きかけていた。炎竜が近くにいないときを見計らって、王都の外で待機していた魔王軍の将軍ダロスとグレドが残りの2万の魔王軍を連れて入ってきた。
「グレド、報告通り本当にひどい状況だな。焼け焦げたオークやゴブリンと人間の死体がそこらじゅうに転がっている。」
「炎竜が吐く炎の威力は本当に凄まじいな。」
「だが、先に入った将軍は新米ばかりだから、状況判断が遅かったんだろう。」
「ああ、俺たちは炎竜が来た時に退避する場所を確保しながら進まないと。」
「そうだな。人間たちが作った退避場所が多数あるということだからな。」
「まあ、城壁は越えたんだ。食料を確保しながらじっくり攻略すればいい。」
「しかし、魔王様の命令は、地上で不要な戦闘は避けても構わないが、できるだけ急いで地下要塞の中央出入口を占領し、中の人間を逃がさないことと、目度砂の部隊を支援しろとのことだ。だから、俺たちもあんまりのんびりはしていられない。」
「そうだったな。しかし、地下要塞にはあの目度砂が行っているんだ。出入口の占拠は分かるが、俺たちの支援がいるか?」
「敵の司令部を混乱させるためか、目度砂がやられることを考えているのか、魔王様のお考えは俺にも分からん。」
「俺にも分からないからな。とりあえず、王都中心部に向かうしかないか。しかし、やまと副師団長、出てくるかな。」
「炎竜にやられていなければいいな。」
「そうだな。」
ダロスとグレドが率いるオークやゴブリンの2万匹の部隊は、他の4万匹の部隊と違い、戦いに熟練した兵が多く、大きな石の建物を確保すると共に、土嚢で作った防火壕を確保しながら、より少ない損害で地下要塞の中央出入口がある王都中心部に向かって行った。
話を、王都の状況を伝えるための妖精分隊がテームの街に到着した場面に戻す。妖精部隊が飛来したのを見た誠は急いで街の市庁舎の指揮所に向かった。
「あまりいい予感はしないな。」
と思いながら、指揮所がある部屋の扉を開けると、そこには街の市長が誠を待っていた。
「岩田参謀長、街を攻めてきた4将軍の部隊を殲滅して、盛大にお祝いをしたいところなのですが、残念ながらそうはいかないようです。王都からマリ女王様の使者がやって来ました。話を聞きますと、王都が大変な状況になっていて、マリ女王様が岩田参謀長のお力をお借りしたいとおっしゃられているようです。」
「そうですか。使者の方、お疲れのところ大変申し訳ありませんが、もう一度、王都の状況をお話願えないでしょうか。直接話を聞いた方が齟齬が生じないためです。」
「失礼ですが、あなたが岩田参謀長でしょうか。」
「はい、その通りです。」
「大変失礼しました。想像していた姿とは違いましたもので、念のため、確認しました。分かりました。最初からお話します。」
「有難うございます。」
「王都の惨状から比べれば、私たちのことを気にする必要は全くありませんので、何でも申しつけて下さい。」
「王都の状況はそんなに酷いんですか?」
「はい、その通りです。最初からご説明致します。今から4時間前に突然、王都上空に炎竜が現れて、王都への攻撃を開始しました。」
「炎竜に対しては、皆さんは防火壕に避難したんですよね。」
「はい、地上部隊は一度避難して、そのときは被害はあまりありませんでした。ただ、炎竜の攻撃を阻止しようと、炎竜の迎撃に出た妖精部隊に甚大な被害が出てしまいました。」
「妖精部隊では、炎竜に対して有効な攻撃は無理なのではないでしょうか。」
「はい。初めは目を狙う攻撃をしようとしたのですが、炎竜は時速400キロメートルぐらいで飛べるようで、攻撃に出た妖精部隊の仲間が逃げても追いつかれて、炎竜が吐く炎に焼かれてしまいました。」
「そうですか。炎は前方に吐き出しますので、目を攻撃することは難しいと思います。」
「その通りです。戦果がなく20名以上の妖精が焼かれたため、現在は妖精による攻撃は中止しています。」
「はい、それが賢明だと思います。」
「そして、炎竜が現れた少し後に、オークが作ったと思われるトンネルが王都の地下要塞まで通じていて、その東側地下通路に目度砂と魔王軍が侵入してきました。」
「目度砂も来たんですね。」
「はい。でも、それだけではなく、炎竜が城壁の門の近くに来た時、地上軍が防火壕に避難したのですが、その隙を狙ってトンネルを使った魔王軍の部隊が城壁の門のすぐそばに出現して、門の周りを占拠されてしまいました。そのため、防火壕から兵が出てその魔王軍を攻撃したのですが、こちらの兵が魔王軍のオークやゴブリンと一緒に炎竜に焼かれてしまい、攻撃はあまりうまくいっていません。」
「門はどうなりました。」
「トンネルから魔王軍が次々に出てきて、結局、門は開け放たれてしまいました。そして、王都の外から、約4万匹の魔王軍が侵入してきました。それだけでなく、城外に約2万匹の魔王軍が待機している状況です。」
「王国軍と戦力は互角のようですが、王都の防衛は。」
「はい、戦力は互角で、炎竜が吐く炎のために魔王軍にもかなりの損害が出ているようですが、こちらも炎竜にかく乱されて、地上は組織的な作戦遂行が難しく、だんだんと魔王軍が支配地域を広げています。」
「一般の方は?」
「地上においては、炎竜の炎に小さな建物は丸ごと焼かれて無力ですし、魔王軍も侵攻しています。地下においては、目度砂の部隊が迫ってきています。ですので、王都に安全な場所はない状況です。」
「そうですか。マリ女王様はどうされていますか?」
「女王様は地下要塞の救護所で全力でヒールにあたっています。ご家族は地下要塞の王族用の部屋にいらっしゃいます。」
「『ユナイテッドアローズ』の皆さんは。」
「剣士パスカル様は、地下で目を閉じて音だけで戦って、目度砂と互角に戦っていたのですが、目度砂がとても綺麗だという敵のオークの言葉に騙されて、死んだふりをしていた目度砂の前で目を開けてしまい、石になられてしまいました。」
「ははは・・・。すみません、笑い事じゃありませんね。」
「現在は、ラッキー様が地下道の狭い場所を盾で塞いだり、コッコ様が魔法で偽の壁を作って、目度砂の侵攻を遅らせてはいます。それでも目度砂が女王様がいらっしゃる救護室に近づいてきているため、最後の手段として、兵たちが志願して、密集して目度砂の前に行き、全員で目度砂の目を見て石になり、道をふさぐ作戦も実行しているとのことです。ただ、それに対して、オークが壁を壊しトンネルを掘って閉塞個所を越えてきますので、大本営では、半日ぐらいで地下要塞の中心部に到達するのではないかと見積もっています。」
「魔王軍は、炎竜で国の重要な人たちを地下に押し込んで、地下は目度砂で攻撃する作戦ということですね。」
「はい、その通りです。今、市長様から、岩田参謀長の優れた作戦のおかげで、将軍4匹と3万匹の軍勢を、街側に大きな損害を出すことなく撃滅したと伺いました。是非、私たちにも岩田参謀長のお知恵をお貸し下さい。もしお貸しいただけるならば、私たちができることならどんなことでも致します。」
伝令に来た分隊長が涙を流していた。近くにいたアキが誠に話しかける。
「私からもお願い。湘南、知恵を貸して。私でできることなら何でもするから。」
「分かりました。とりあえず炎竜を王都から遠ざけるようにしましょう。炎竜が王都からいなくなれば、城外に待機している2万匹が入ってきても、王国軍の地上戦力は魔王軍と互角と思いますので、そう簡単に負けることはないでしょう。ですので、とりあえず地上に避難場所を作ることができますし、空中に避難することもできると思います。」
「でも、湘南、その炎竜を何とかできるの?」
「はい。アキさんに頑張ってもらわなくてはいけないですが。」
「もちろん、頑張るけど。」
誠がアキに作戦を伝える。
「またそれって感じだけど、やってみる。そんなことを言っている状況じゃないことは分かっているから。それじゃあ、時間がもったいないから私はもう行くね。」
「はい、お願いします。」
アキが全速で王都へ戻って行った。
その後すぐに、指揮所の部屋に明日夏、ミサ、『トリプレット』のメンバー、アイシャとアイシャの連隊、久美、悟、『ハートリングス』のメンバーが集まってきた。ティアンナも誠の姪という証明書を使って部屋にもぐりこんでいた。まず、市長が話しかける。
「みなさん、未明からテームの街に来襲した魔王軍を撃退し、盛大に祝賀会を上げたいところなのですが、我が王国の王都が大変な状況との連絡がありました。王国国民としてその救援をしないわけには行きません。岩田参謀長が王都の魔王軍を撃退する作戦はあるということですので、祝賀会は後回しにして、王都に救援部隊を送ろうと思います。よろしいでしょうか。」
会場から「異議なし!」「当たり前!」という大きな声で返事が返ってきた。
「それでは、ここからは岩田参謀長にお願いします。」
「市長、有難うございます。それでは、まずは王都から来た使者の方に、王都の現状について直接説明して頂こうと思います。それでは、よろしくお願いします。」
王都からの使者が王都の現状に関して説明した。次に、誠が口を開いた。
「これから王都へ向かうメンバーと持っていくものを説明します。時間がもったいないですので、作戦の詳細については、王都に向かう途中で説明します。」
アイシャが尋ねる。
「誠君、その前にちょっと質問。アキがいないようだけど?」
「先ほど、炎竜対策で王都に向けて出発してもらいました。」
「炎竜を。一人で大丈夫?」
「はい、大丈夫だと思います。」
「そうか。誠君がそう言うなら、大丈夫なんだと思う。話を途中で止めてごめんね。それじゃあ、続けて。」
「これから王都の救援に向かいますが、団長、橘さん、そしてハートブラックさん以外の『ハートリングス』の皆さんは、まだ街の周辺には魔王軍の敗残兵がいる可能性が高いですので、街に残って引き続き街の周辺の防衛にあたって下さい。」
悟が答える。
「誠君、分かった。街のことは僕たちに任せて。」
「本当は私も王都に行きたいけど、街を放ってはいけないし。街のことは心配しないで、魔剣クラムが手に入った。これがあれば魔王軍が1万ぐらい攻めてきても大丈夫。」
「プロデューサーのお兄さん、了解。ペアを作って、定期的に街の周辺を警戒する。」
「団長、もしオークが降伏するようならば受け入れてあげてください。周りの街や村の復興にきっと役立つと思います。」
「分かった。それも大丈夫。」
「有難うございます。それでは、王都に向かうメンバーを発表します。アイシャさんとアイシャさんの連隊の皆さん、美香さん、明日夏さん、『トリプレット』の皆さん、ハートブラックさんと僕です。」
「誠君、それで私たちの連隊で、ミサさん、明日夏さん、誠君を運べばいいわけね。」
「はい。申し訳ありませんが、僕を含めて3人を王都まで運んで下さい。」
「了解。人が乗れる籠を使って、分隊一つで一人を運んでいけば楽勝よ。何なら、誠君は私一人で運んでいくけど。」
「いえ、アイシャさんは王都で活躍してもらわなくてはいけないので、できるだけ体力を温存してください。」
「まあ、仕方がないか。」
「はい。それで連隊の残りの隊員は、弓のほか、オークを釣り上げるための綱、アイシャさんが使う鉄の槍と砂を詰めた竹槍を運んでください。」
「分かったけど。炭の粉はいらないの?」
「今回はかなりの混戦が予想されますので、炭の粉は使えないと思います。あと、普通の矢は王都で補給しようと思います。王都にはかなりの数の矢が蓄積してあるはずです。」
「それは誠君の言う通り。私は、将軍級のオークを狙えばいいのね。」
「はい。そうですが、炎竜と目度砂への対処が最優先です。今の状況では、その2体さえ倒せれば王国軍の勝利は確実になると思います。ただ、その後も王国の損害を小さくするために、魔王軍が降伏するか殲滅するまで支援攻撃を続けます。ですから、将軍へ攻撃する時があっても、ゾロモンの時のような無理はしないでください。」
「分かった。」
ミサが尋ねる。
「私は?」
「炎竜と目度砂を倒すために最も重要な働きをしてもらうことになると思います。」
「分かった。頑張る。」
明日夏が尋ねる。
「私は重傷者のヒールだよね。」
「はい、その通りです。」
「ふふふふふ、楽しみ。」
「あの・・・。明日夏さんを信じますので頑張ってください。」
尚美が尋ねる。
「私は?」
「美香さんが攻撃するための準備を、ブラックさんと一緒にお願いすると思う。」
「了解。」「了解です。」
「お兄ちゃん、俺と亜美は?」
「由香さんと亜美さんは、妹とブラックさんのサポートをお願いする予定です。」
「了解。」「はい、了解しました。」
「王都は一刻の猶予もないような状態ですので、今から10分後に出発しようと思いますが、大丈夫でしょうか。」
「大丈夫だよ。」「大丈夫。」「空を飛べるのが楽しみだ。」「了解。」
全員が出発準備に取り掛かった。ハートレッドがハートブラックに話しかける。
「街は私たちに任せてね。ブラックは、なおみさんと協力して頑張ってきて。でも、あまり無理はしないように。」
「レッド、了解。でも、王都に行くのは初めてだから、王都の様子も見てくる。」
「そうね。魔王軍を倒した後、王都にみんなで遊びに行ってみようか。これだけ頑張ったんだから、観光の許可ぐらいは出るでしょう。」
「うん。」
ハートグリーンが答える。
「みんなで王都観光か。楽しそう。でも、ブラック、気を付けてね。」
ハートイエローが言う。
「いや、ブラック、観光じゃなくて、『ハートリングス』が王都に進出するための調査をしてこないと。」
ハートブルーが答える。
「イエロー、王都進出とは、相変わらず大きく出るね。」
ハートレッドがハートイエローに賛成する。
「でも、イエローの言う通りかも。ブラック、王都進出の下調べもお願いね。」
「分かった。そうする。それでじゃ、僕はプロデューサーの所に行ってくる。」
「了解。『ハートリングス』の大切なメンバーなんだから、無事に帰ってきてね。」
「了解。」
アイシャやアイシャの連隊があわただしく準備をしている中、ティアンナがアイシャの所にきて話しかける。
「アイシャ、俺も王都に連れて行ってくれ。頼む。」
「ティアンナ、これは観光旅行じゃないのよ。」
「そんなことは分かっているよ。」
「それに、今回の敵は炎竜と目度砂なんだから、ティアンナじゃ餌にもならないわよ。」
「ザンザバルが岩ちゃんのことを、湘南参謀長と呼んでいたことがどうしても気になるんだ。さっき、ナンシーさんと話してみたんだけど、怪しい感じはしなかったし。」
「怪しい?」
「うん。岩ちゃんの情報を魔王軍に伝えている裏切り者がいると思うんだ。この街の人は、ナンシーさん以外は岩田とか誠の方を使って呼んでいるから、たぶん王都でアキさんから話を聞いている誰かだと思う。」
「そうね、誠君を湘南と呼んでいる人は、私が知っている限りでも、アキとナンシーさんだけだし。確かに裏切者がいるとすると、王都で誠君を直接狙うかもしれないわね。なるほど、それを探るためか。ティアンナ、若いのに頭は回るわね。」
「岩ちゃん、頭はいいけど、あまり人を疑わないから、俺たちがどうにかしないと。」
「それはそうね。分かった。それなら王都に連れて行ってあげる。でも、裏切者が分かったら、自分で対処しないで、私か、周りの誰かに言うんだよ。ティアンナじゃ餌にしかならないから。」
「アイシャ、恩に着る。分かった。もし見つけたら、信用できる人に言うよ。」
「頼んだわよ。」
「了解。」
アイシャが出発の準備をしていたカーラ分隊長に話しかける。
「カーラ、悪いけどカーラの分隊でこの子を王都まで連れて行ってあげて。」
「えーー、隊長、可愛い男の子ならいいですが、女の子を抱いて運ぶ趣味はないです。」
話を聞いていたビーナが冷静に話しかける。
「カーラ、そういうことじゃなくて、作戦だから。」
「分かりました。作戦とあらば喜んで運びます。おーいそこのくそガキ、こっちに来い。命令だから王都まで運んでやる。」
ティアンナもここは我慢しなくてはいけないと思って、笑って答えた。
「カーラさん、有難う。やっぱり綺麗な人は性格もいい。」
「おっ、なかなか分かっているじゃないか。」
「はい。」
誠がアイシャの部隊のところに来て、準備状況を聞いた。
「アイシャさん、出発の準備は大丈夫ですか?」
「今終わったよ。いつでも出発できる。」
そのとき、出発の準備をしているティアンナを見つけて話しかける。
「ティアンナさん、あの、何をしているんですか?」
「アイシャの連隊の出発の準備を手伝っているんだよ。」
「そうは見えないのですが。今の王都は非常に危険ですよ。」
アイシャが説明する。
「私が地下要塞の大本営に行って、テームの街の戦闘について説明するようにお願いしたの。大本営なら大丈夫でしょう。」
「いえ、目度砂が攻めてきている以上、それほど安全じゃないかもしれませんが。本当のことを言ってください。」
ティアンナが言う。
「本当は、裏切者を探すため。王宮か大本営から情報が漏れている気がするんだ。」
「そうですね。情報が漏洩していることは、僕も感じているところではありますが。」
「だから、それを探すため。もし、王国軍が負けちゃったら、俺や仲間も殺されることになるんだし。リーダーとしてはそれを防ぐために頑張らないと。」
「確かに、子供の方が探りやすいということはあるのですが・・・・・。」
アイシャが言う。
「私からもお願い。」
「分かりました。紹介状を市長さんにお願いしますので、大本営か王宮の方と一緒にいるようにして、避難するときもいっしょに行動してください。」
「分かったよ。約束は守る。岩ちゃん、有難う。」
「火炎瓶は持っていますね。」
「うん。」
「あと、これを差し上げますので、万が一の時は使ってください。」
「何?この緑の?」
「頭から被ってみてください。」
ティアンナがそれを被ると、アイシャが笑い出す。
「ははははは、ゴブリンだ!ティアンナ、よく似合っているよ。」
「えっ!」
周りにいたアイシャの連隊のみんなも、笑いながら同意した。
「ゴブリンだ。退治しないと。」
ティアンナがそばにあった鏡で見る。
「俺、本当にゴブリンみたいだ。逃げる時には確かに有効だけど。岩ちゃん、普通、女の子にあげるプレゼントじゃないよ。」
「ごめんなさい。でも、ティアンナさん、魔王軍に囲まれた時には有効かと思って。」
「うん、それは分かっている。有難う。」
誠が悟たちのところに戻ると、アイシャがティアンナに話しかける。
「まあ、ティアンナ、誠君がティアンナを心配しているということだよ。」
「そうだけど。そうだ。アイシャは体が大きいから、アイシャのために、オークの被り物を頼んでおくよ。」
「このー。」
アイシャの隊が笑い声に包まれた。
誠が悟たちのところに戻った。
「アイシャさんの連隊の出発準備は終わったそうです。美香さんは大丈夫ですか?」
「私はいつでも出発できるよ。」
「有難うございます。明日夏さんは?」
「まあ、大丈夫だよ。」
「尚、ブラックさん。」
「お兄ちゃん、私も大丈夫。」「僕もです。」
「由香さん、亜美さん。」
「兄ちゃん、大丈夫だぜ。」「私も大丈夫です。」
「それでは出発しましょう。」
「はい。」
出発を前に、魔剣クラムが聖剣草薙の剣に話しかける。
「お前、草薙の剣と言うのか。初めましてだな。」
「おう。クラム、初めましてだ。俺はこっちに来てから初めてご主人様を持ったからな。」
「それにしても、お前のご主人様、すごかったな。」
「俺は気絶していて、良く分からなかったが、そうだろうな。」
「俺も途中で気絶したが、お前が大変そうなのが分かったよ。」
「本当に大変だった。」
「お前、過労で死ぬんじゃないぞ。」
「ご主人様に選んだ人を間違えた。」
「どうせ、美人だから選んだんだろう。」
「スタイルも良かったから思わず。」
「まあ、自業自得ということか。」
「他人事だと思って。しかし、それまでに俺のところにやって来たのが、豪傑みたいな男ばっかりだったからな、上品な俺には合わない。」
「上品か。ははははは。」
「お前の新しいご主人様はどうだ?」
「人間だから心配したが、深い魔を宿しているから大丈夫そうだ。お前のご主人様ほどの体力はなさそうだしな。」
「それは良かったな。」
「ところで、お前のご主人様と付き合っている誠とやらはよく無事だな。」
「まだ、付き合っているわけではなさそうだぞ。」
「なるほど。それじゃあ、付き合ってから何年間生きていられるか賭けようか?」
「いいぞ。何を賭ける。」
「次の勝敗では。」
「それは構わないが、今のご主人様は、おれが気絶してても強いぞ。」
「それはノーカウントでいいよ。」
「分かった。俺は1年。」
「俺も1年だったが、半年にしておく。」
「賭け成立だな。」
「おう。」
まず、朝に王都から来た部隊が、テームの街からの派遣部隊のことを知らせるために全速で王都へ戻っていった。そして、市長たちが手を振る中、誠の王都派遣部隊が出発した。隊の前方左右を、尚美とブラックが監視のために飛んだ。その後をアイシャとアイシャの護衛のためにきた、ふみかの分隊。その後に、誠、明日夏、ミサを運ぶ分隊を囲むように、アイシャの連隊が続き、その後方左右を由香と亜美が飛んだ。王都までの3時間程度の飛行の間に、誠は作戦の詳細を、ミサ、アイシャ、尚美とブラック、由香と亜美のそれぞれに伝えた。
誠たちが行った後、悟の方も動き出した。まず、『ハートリングス』に、街の周りを飛んで、オークへ降伏を勧告することを依頼した。そのために、ハートレッドとハートグリーンが飛び立った。
「魔王軍のオークの皆さん、テームの街の司令官の伝言です。戦いの勝敗は決しました。魔王軍の将軍、ゾロモン、ジグムント、ゴンギヌスは戦死し、ザンザバルは降伏しました。魔王軍のオークの皆さんは直ちに降伏して下さい。降伏すれば、命は保証しますし、街や村の復興に貢献してくれれば十分な食料を保証します。」
「しばらくの間、森への攻撃はしませんので、降伏の意思を明確にするために、周りにいるゴブリンを殺した後、武器を捨てて手を挙げて、街の南側の防壁まで来てください。」
「繰り返します。魔王軍のオークの皆さん、・・・・」
ザレンを含むオークたちが森の中に集まっていたが、その呼びかけが届いた。
「どうする。降伏するか?」
「でも、あの街にはアイシャ大尉がいるんだろう。降伏したら、全員なぶり殺しにされるかもしれないぞ。」
「そうだよな。司令官の言葉が嘘じゃないとしても、あの残忍なアイシャ大尉は何をするか分からない。」
ザレンは「アイシャ大尉、酷い言われようだな。」と思いながら答えた。
「いや、さっき250以上の妖精部隊が王都の方向へ向かったから、アイシャ大尉は王都に戻ったと思う。」
「そうか。王都に戻ったなら、しばらくは戻ってこないよな。」
「そうだと思う。」
「それじゃあ、降伏するか。」
「それがいいと思う。」
「俺も賛成だ。ここからじゃ、国に戻るのも難しいし。」
「俺もだ。そんなら、まずはゴブリンを退治しないと。」
「おう。本当は俺は見境なく人間を殺したり凌辱するゴブリンは、あまり好きじゃなかったんだよな。」
「それは俺もだよ。」
「まあ、ゴブリンみたいな、酷いオークもいるけどな。」
ザレンが答える。
「その通りだった。でも、それは魔王様が人間は全部殺せと命令したのがきっかけだった気がする。俺たちは秩序を取り戻して、ゴブリンと違うところを見せないと。」
「そうだな。」
「それじゃあ、ザレン、お前が一番賢そうだから、ゴブリン退治の指揮を取ってくれ。」
「分かった。生き残ったゴブリンは死体を食べるために、2箇所に集まっている。攻撃部隊の生き残りのオークも集めて、包囲殲滅する。」
「了解。」「おう!」
アキが出発してから1時間後、王都に到着した。上空から見ても王都は炎竜に焼かれて酷い有様だった。そして、炎竜から遠いところでは、王国軍と魔王軍が防火壕から出て戦闘を繰り広げていた。上空を見ると炎竜が王都の反対側にいたが、遠くから見てもはっきりと分かるぐらい大きかった。
「あれが炎竜か。あれの後ろから接近するのね。」
アキが炎竜に後ろから接近しようとするが、炎竜も接近してくるアキに気が付いてアキの方に向かってきた。
「炎竜に見つかったみたい。この距離で小さな私を見つけるなんて、意外と目がいいんだ。炎竜が追ってくるなら王都の外に逃げるだけでいいわね。」
炎竜が一人で飛んでいる妖精の方に向かい始めたのを見て、魔王軍のオークたちが笑う。
「また妖精の丸焦げの出来上がりだな。」
「そんなことを言っている場合か。このままだとあの妖精に引き寄せられて炎竜がこっちに来るぞ。そうしたら、どこかに隠れないとこっちも丸焦げだ。」
「迷惑な妖精だな。とりあえず、あそこに隠れるところがあるから何とかなるな。」
「だが、さすがに王都だな。人間どもが炎竜の炎から身を守るころがたくさん作ってあるから、俺たちも少し安心だが、その分、人間どもの損害も少ないから面倒だ。」
「そうだな。しかし、あの妖精は王都の外に向かったぞ。」
「本当だ。それで炎竜も妖精を追って王都の外に出そうだ。」
「それに飛ぶ速さが炎竜に負けていない。」
「それは助かる。これで戦闘に集中できるぞ。」
「おう。」
アキが炎竜を引き連れて王都の外に出たため、王国軍の地上部隊と魔王軍のほぼ全員が隠れていたところから出てきて、地上での戦闘がさらに激しさを増した。
アキは王都を出て、王都の周囲を周回する。
「そうそう、いい子。そのまま私に付いてきてね。でも、とりあえず炎竜を王都の外におびき出すのは成功したけれど、湘南はこんなに大きなものを、どうやって倒すつもりなんだろう?でも今はそんな心配より、湘南たちが王都に来るまで、まだ2時間はかかるから、それまでは頑張らないと。」
アキはこのまま順調に炎竜の誘導が進むと思っていたが、15分ぐらい飛んだところで、炎竜が空中で止まって、王都に戻ろうとした。
「あー、王都にもどっちゃだめ。・・・・まあ、私の言うことなんて聞かないだろうけど、それなら仕方がない。後ろから狙わせてもらうわ。」
アキが後ろから炎竜に接近する。
「正確に狙うために、なるべく近づこう。あまり近寄りたいところじゃないけどね。」
炎竜のしっぽが届くぐらいまで近づいたとき、炎竜が急に振り返り、アキと炎竜の目が合った。そして、炎竜が炎を吐く体制に入った。
「へー、炎竜のくせに、気のない素振りなんてことをするのね。でも体が大きい分、動作が全然遅いわよ。」
アキは詠唱を唱えながら、しっぽを避け炎竜の後ろ下方にもぐりこんだ。
「あれだ。お尻の穴。」
アキがAPFSDS矢を放つ。矢は、炎竜のお尻の穴に突き刺さった。すると、炎竜が悲鳴を上げて、そこらじゅう見境なく炎を吐いた。アキはさらに下降しながら反転して、炎竜と反対側に向かった。
「矢は当たった。効果はあったけど、これだけでは死なないわよね。」
炎竜も反転して速度を上げアキを本気で追い始めた。
「炎竜、お尻から血を流している。何発か当てればもっとダメージを与えられるかもしれないけど、時速500キロメートルぐらい出ているし、今は逃げるのが優先ね。」
アキと炎竜の追いかけっこが王都の周りで続いた。
グレド将軍とダロス将軍は、王都の石でできた大きな建物を占拠して、地下要塞中央出入口に到達するための作戦を検討していた。そのグレドがダロスに話しかける。
「ははははは。炎竜のやつ、妖精にケツの穴を撃たれて、血を流しながら妖精を追いまわしていやがる。ははははは。あれは後で痔になるな。」
「あの妖精の名前、『ユナイテッドアローズ』のアキとか言うらしいな。時速600キロメートルで飛べるらしい。」
「国境の戦闘で、ムサルが戦死するきっかけを作った妖精だよな。」
「そうだ。向こうも切り札を使ってきたということだ。」
「しかし、これで王都の中なら安心して戦えるな。」
「ああ。本当は、炎竜は、初めに王都の城壁を突破するときだけ、攻撃してくれれば良かっただけだからな。」
「そうだな。その後、離れてくれれば良かったんだが、頭がないからな炎竜は。」
「・・・・・しかし、新米の将軍たち、人間を見つけたら何も考えずに殺しまくっているようだが、愚かすぎる。」
「そうだな。人質に使えば敵が攻撃しにくくなるからな。」
「まあ、俺たちがあいつらの部隊の損害を考える必要はないな。俺たちは、地下要塞の中央出入口を制圧して、地下要塞に入り中をかく乱し、目度砂から逃げてくる王族を捕らえ、司令部の連中を倒せばいいだけだ。」
「その通りだな。だが、俺たちが地下要塞を制圧しても構わないんだろう。」
「それはそうだが、うかつに目度砂を見ると俺たちも石になってしまうぞ。」
「それは困るな。」
「おれは、地下要塞を制圧するより、やまと副師団長と決着をつけたい。」
「おう、おれもそうだ。」
「報告によれば、こちらの将軍が一人やられたそうだが、やった奴の特徴は、やまと副師団長に一致している。」
「そうか、それは楽しみだな。」
地下要塞の救護所にいたマリ女王のところに戦況の報告があった。
「テームの街からアキ様が戻ってこられました。炎竜がアキ様を追い始めましたが、追いつかないため、炎竜はあきらめて王都に戻ろうとしました。その後、アキ様が炎竜を追い、炎竜に向けて矢を放ちました。それが、なんと言いますか、炎竜のお尻の穴にあたり、炎竜が怒って、現在は炎竜が王都の外でアキ様を追いまわしている状態です。」
「アキちゃんが、炎竜のお尻の穴に矢をですか。きっと、それは湘南参謀長の指示でしょう。それで、アキちゃんの方は大丈夫そうですか?」
「はい、飛行速度はアキ様の方が速いため、アキ様は炎竜と適切に距離を取りながら、王都の周りを周回しています。」
「そうすると、現在は王都の上空に脅威がなくなった状態ですか?」
「はい。炎竜がアキ様を追いかけている限りは、王都上空の制空権はこちらにあります。」
「それは、少し安心できますね。」
「ただ、王都の地上では炎竜の心配がなくなったため、魔王軍の地上軍の活動が活発化して、王国の地上軍との交戦が激化しています。」
「そうですか。」
「王都に入った敵の数は少なくないです。残念ながら、こちらの師団長が一人戦死してしまいました。しかし、やまと副師団長が怪我をしながらも、敵の将軍一匹を討ち取っています。また、王都上空に炎竜がいなくなったため、妖精部隊が出撃して、なんとか互角に戦闘して、敵の進撃を食い止めています。」
「とすると、問題は目度砂ですか。」
「はい、ラッキー様の楯とコッコ様の魔法、兵の犠牲で何とか侵攻を遅らせてはいますが、撃退するにはほど遠い状況です。」
「亡くなられたり大きな怪我をされた兵隊のご家族の皆さんには、できる限りの支援をお願いします。」
「承知しております。ただ、それも魔王軍に勝てたらの話ではありますので、今は犠牲を厭わず戦うしかありません。」
マリが悲しそうに答える。
「そうですね。」
それから1時間ぐらいして、マリのもとに大本営から伝令がやってきた。
「テームの街に向かった妖精の分隊が、ただ今戻ってきたとのことです。」
「そうですか。無事でなによりです。それで、テームの街に関して何か分かりましたか?」
「はい。現在、テームの街からこちらに、アイシャ大尉の部隊、草薙の剣を使う聖剣士様が向かっているとのことです。」
「アキちゃんが戻ってきていたので、こちらに救援を送ってくれるとは思いましたが、湘南参謀長は?」
「はい、いっしょにいらしているそうです。その他にもテームの街最強の妖精4名とヒーラー1名が来るとのことです。」
「そうですか。それは吉報です。でも、逆に心配なことは、それだけの戦力をこちらに送って、テームの街の方は大丈夫なのでしょうか?」
「はい。それがにわかには信じられないのですが、昨晩から将軍4匹と魔王軍3万匹が街に攻めてきましたが、今朝までに殲滅したとのことです。」
「本当ですか。3万匹に将軍4匹もですか。」
「はい、テームの街に来た将軍は、ゾロモン、ザンザバル、ジグムント、ゴンギヌスという最強の魔物ばかりとのことです。」
「私もその魔物の噂は聞いたことがあります。ただ、ジグムントとゴンギヌスは遠い国の魔物で、4匹が組むというのは考えにくくはありますね。」
「はい、それは女王様のおっしゃる通りと思います。」
「それだけ魔王の統率力が高いということでしょうか。それで、4匹の将軍たちを倒したのは、聖剣士様と久美ですか?」
「ジグムントは聖剣士様が、ゴンギヌスは橘様が、ザンザバルはなおみという妖精と明日夏というヒーラーの二人が、ゾロモンはアイシャ大尉の連隊と街の多数の人が協力して倒したとのことです。その妖精のなおみさんとヒーラー明日夏さんもこちらに向かっています。」
「明日夏さんの話は妖精部隊の方から噂だけは聞きました。久美と聖剣士様の活躍もすごいですが、アイシャさんの部隊と街の多数の人が協力して将軍のゾロモンを倒したというのは、本当に心強いです。」
「はい。聖騎士様ならば、目度砂とも戦えるかもしれません。」
「分かりました。勝利の希望が出てきた以上、我々はこの地下要塞の中心部をなんとしても守り抜かなくてはいけないということですね。」
「はい、その通りだと思います。」
「この話は、皆に伝えて下さい。」
「承知しました。」
アイシャの連隊と、アイシャの連隊の分隊が引く小さな籠に乗った誠、ミサ、明日夏は王都の近くまで来ていた。斥候に出た由香と亜美が戻ってきた。
「兄ちゃん、報告するぜ。炎竜はでかい。本当にでかい。」
「由香、それじゃ報告にならないよ。私から報告するね。」
「亜美、分かった。頼む。」
「炎竜の長さは70メートルぐらい。現在、炎竜はアキさんの後を追って王都の周りを周回しています。炎竜のお尻から血が流れていますので、お兄さんの計画はうまくいっていると思います。王都の地上は双方入り乱れての乱戦状態で、大局的にはプラト王国軍と魔王軍が互角の戦いをしています。残念ながら、地下の戦いは空中からは分かりませんでした。」
「有難うございます。炎竜の飛ぶ速さはどのぐらいですか。」
「はい。現在の飛行速度は時速350キロメートルぐらいです。報告にあった時速400キロメートルよりはだいぶ遅くなっていますが、飛び疲れているように見えます。」
「有難うございます。ブラックさん、時速350キロメートルぐらいで飛べますか?」
「短時間だったら、大丈夫。」
「有難うございます。それでは、作戦を変えずに実行します。尚、申し訳ないけど、もしブラックさんが追われるような状況になったら、ブラックさんが退避できるまで、炎竜の誘引をお願いして大丈夫?」
「うん、その時はアキと協力して何とかするから、大丈夫。」
「有難う。」
「それでは、美香さん、アイシャさん、ブラックさん、尚、テームの街からの長距離飛行で疲れていると思いますが、このまま炎竜攻撃の作戦を開始したいと思います。」
「了解。」「誠、頑張る。」「誠君、ミサさんの運搬は任せて。」「お兄ちゃん、了解。」
誠が明日夏に話しかける。
「明日夏さんは、このまま王都地下要塞の救護所に行って、重傷者の手当をお願いします。」
「マー君、任せて。プラト王国の妖精部隊の成長過程を再現できるようになったから。」
「ヒールしても、飛行速度が落ちないということですね。」
「その通り。」
「さすがです。由香さん、亜美さんは明日夏さんの護衛で地下要塞に向かってください。」
「了解だぜ。」「了解。」
ティアンナが誠に話しかける。
「岩ちゃん、私も地下要塞に行く。」
「そうでしたね。お願いします。」
尚美とハートブラックが先行してアキのところに向かった。そして、ミサが籠から出て、アイシャがミサを抱いて飛び、その後に続いた。また同時に、明日夏とティアンナを連れてきた分隊が王都の地下要塞に向かった。
尚美がアキに追いついて並行に飛び、作戦を伝えた。
「分かった。城壁に沿って低空を飛んで、なおみさんの合図で上昇反転すればいいのね。」
「はい、その通りです。」
尚美とハートブラックがアキから離れたが、炎竜はアキにしか興味がないようだった。左右に分かれた尚美とハートブラックが炎竜の後ろから接近する。」
「まず、炎竜の羽ばたくタイミングに合わせて、上から炎竜の首に接近して下に回り込み、交差してまた首の上に来て、首の周りに紐をかけます。」
「了解。」
二人が協力して首の周りに紐をかけ、尚美が首の上で紐を結び、二人はその紐にベルトに付いているフックをかけた。
「これで作業ができます。」
「はい。炎竜はアキさんを追うことしか頭にないようです。」
「はい、そんな感じですね。それではブラックさん、今から美香先輩が剣を振り下ろすための足場を作ります。」
「このマキタのコードレスドリルというものを使えばいいんですよね。」
「その通りです。私が印を付けますから、そこに炎竜の鱗を貫通するようにドリルで穴をあけてください。」
「了解。」
尚美が長さを測りながら、鱗の上に印をつけ、金づちでポンチを打って少しへこませる。そして、その位置にハートブラックがドリルを使って硬い鱗に穴をあける。最後に、尚美があけた穴の下からボルトを通し、足場にするU字状の部品の穴を通してから、上からナットを使って固定した。4つの穴を使って2つの足場の部品を固定したあと、尚美がその部品を押したり引いたりして、足場になる部品がきちんと固定されているか調べた。
「足場の固定を確認しました。ブラックさん、離脱します。」
「了解!」
尚美とブラックは炎竜から離脱してはアキの上空を飛行した。ブラックは尚美のカバーのために、尚美の斜め後ろについて飛んだ。そのとき、ミサとアイシャは城壁の内側を炎竜から見えない高さを飛んでいた。
「ミサさん、尚美さんが上昇してこっちに向かってきます。準備が終わったようです。」
「了解。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。」
「それでは、尚美さんの合図があったら、上昇します。」
「はい。」
尚美がアキとアイシャが城壁を挟んですれ違う直前に合図を出す。アキとアイシャが合図と共に上昇する。
「今ね。」「上昇!」
アキが上昇しながら反転すると、炎竜も後を追って上昇しながら反転したが、体重が重いため回転半径が大きく、速度もかなり落ちた。上昇に転じていたアイシャが、飛竜の上から接近する。尚美が作った足場にミサが手をかけた。
「アイシャ、手を離しても大丈夫!」
「分かりました。」
アイシャはミサを持っていた手を離した。アイシャは全速で追ったが、炎竜が水平飛行に移ると、炎竜の飛行速度の方が速いため、少しずつ離されていった。ミサは足場を使って急いで飛竜の上に立った。
「すごい、よく見える。王都で王国軍と魔王軍が戦っている。見えるだけで3万人と3万匹ぐらいかな。でも、兵隊さんがどんどん死んでいく。見える分だけでも助けないと。」
ミサが草薙の剣を振りかぶる。
「久美先輩と練習したマルチロックオンを使おうかな。目標は31、348匹。目標がこれだけたくさんあるのは初めてだけど。聖剣さん、頑張ってね。戦いが終わったら油で手入れをしてあげるから・・・。」
ミサの目には、31、348匹のオークやゴブリンのそれぞれを囲むロックオンマークが次々にイメージされていった。それが終わると、ミサが王都に向けて草薙の剣を力強く振り下ろした。
「やー!」
「ヒィー!」(草薙の剣の悲鳴)
すると31、348個の斬撃が王都に向かっていった。
プラト王国と戦っていたダロスが殺気を感じた。
「グレド、気を付けろ。何か来る。」
「ダロス、炎竜の方から斬撃だ!」
ダロスとグレドが斬撃を剣で跳ね返す。しかし、周りにいたオークやゴブリンには斬撃が次々に当たって倒れていった。
「何だ。斬撃だけでオークも倒したのか?」
「炎竜が何かしたのか?」
「それは違う。炎竜の上に誰か乗っている!そいつが放ったみたいだ。」
「王国軍の兵士は無事のようだ。あの位置からこちらだけ狙えるのか。」
「あの人間の死角になっていたオークやゴブリンは無事みたいだが、半数近くはやられたかもしれない。」
「あの斬撃を跳ね返せたのは、将軍と部隊長ぐらいか。今から炎竜から見えない位置での戦闘が必要か。」
「いや、あいつの次の目標は炎竜だろう。それに、こんな多数の斬撃を何度も放つことは不可能なはずだ。」
炎竜の上のミサが草薙の剣に話しかける。
「聖剣さん、次は炎竜よ・・・・・・。あれ、聖剣さんがまた気絶している。だらしないなー。でも、単なる剣としても切れ味は良い剣だから、聖剣の力を借りなくても。」
炎竜も自分の上から放たれた斬撃とたただならぬ気配に気が付いて振り返ろうとした。しかし、ミサは首の上だったので、片目の視界の隅でミサの姿を見ることが精一杯だった。ミサが剣を振りかぶると、本能で自分の危機を察知したのか、炎竜の目が恐怖の目に変わり、急いで炎を吐き出したが、ミサの遥か横を通って行った。
「やー。」
ミサが片膝をつきながら剣を振り下ろすと、炎竜の首が切断されて下に落ちていった。
「さすが、聖剣さん。気絶してても使える。」
ミサが足場から足を外して、後ろ上方にジャンプした。ミサは放物線を描きながら落下して行った。そして、地表すれすれで後ろから追ってきたアイシャがミサを抱きとめる。
「有難う。アイシャ。」
「間に合って良かったです。聖剣士様が炎竜に乗ってもすぐに首を切らなかったから、もう少しで間に合わないところでした。」
「そうか、ごめん。誠の作戦では乗ったらすぐに首を切るんだったよね。でも、炎竜の上から次々に人が死んでいくのが見えたから。」
「はい。魔王軍だけ、半数近くを斬撃で殲滅したのはすごかったでした。これで、地上の戦闘でもプラト王国が勝利できます。」
「それは良かった。それじゃあ、魔王軍に勝ったら、二人でゆっくり話さない?あまり話したことがないから。」
「えっ、あっ、はい。そうしましょう。王都のお菓子屋さんとかで。部下から美味しいお菓子屋さんを聞いておきます。」
「分かった。そういえば、誠と一緒に寝る約束があると言っていたけど、寝たの?」
「いっ、いえ。まだ。」
「まだ?」
「いえ、そういう意味ではなくて。」
「そういう意味って、どういう意味?」
「魔王軍と戦うのと忙しくて。」
「そうだったわね。アイシャは魔王軍の補給路を止める作戦で忙しそうだった。それじゃあ、魔王軍に勝ったら、誠を真ん中にして3人で寝ようか。」
アイシャは「聖剣士様が、相変わらず、お子様ということだよね。まさか、あっちじゃないよね。まあ、どっちでもいいか。」と思いながら答える。
「はい、喜んで。」
「良かった。でも、アイシャ、私を持ちながら飛んで、重くない?」
「誠君よりは全然軽いですから、ご心配には及びません。」
「何、アイシャは、誠を抱いて飛んだことがあるの?」
アイシャは失言だったかなと思いながら答える。
「えーと、誠君が作戦を立てるために街の周りの様子を見たいということでしたので。」
「そう。」
すぐに、アキ、尚美、ハートブラック、誠が二人のところにやってきた。
「すごい!本当に炎竜を倒した。」
「皆さん、お見事でした。」
「次は、目度砂。」
誠がミサに話しかける。
「美香さん、魔王軍の約半数を倒したのはすごかったでしたが。」
「ごめん。次は指示通りにする。」
「あっ、分かっていましたか。」
「アイシャに危ないところだったって注意された。」
「アイシャさん、有難うございます。それと、ナイスキャッチでした。」
「有難う。」
「美香さん、ただ、いけなかったのは僕の方で、理由までちゃんと説明する必要があったと思います。」
「ううん。そんなことはないよ。アイシャは理由が分かっていたし。」
「でも、炎竜退治は本当にお見事でした。」
「有難う。」
「アキさん、僕たちが来るまでの長い時間、炎竜を王都から遠ざけてもらって有難うございました。反転するタイミングも完璧でした。」
「反転のタイミングを出したのは尚美さん。それに私が住んでいる王都の損害が減らせたから、本当に嬉しいよ。」
「ブラックさん、尚、見事なコンビネーションで、完璧なアシストでした。」
「いえ、プロデューサーのお兄さんこそ、見事な作戦でした。」
「お兄ちゃん、次も頑張る。」
その後に、ミサが誠に話しかけようとしたのを見て、アイシャが誠に目くばせをした。誠は何だろうと思ったが、ミサの言葉で事情を察した。
「ところで、誠、アイシャに抱かれて飛んだの?」
「はい。有効な作戦を立てるために、街の周りの地形や植生を直接目で見て確認することが必要でしたから、アイシャさんにお願いしました。本当に役に立ちました。」
「そうか。アイシャ、有難う。」
「いえいえ、お役に立てて嬉しいです。お菓子屋さんに行くの、楽しみにしています。」
「うん。」
他の隊員も誠たちのところに集まってきた。
「それでは、ミサさん、ブラックさん、尚と僕はこれから地下要塞に向かいます。」
「アイシャさんの連隊は地上軍の支援をお願いします。」
「分かっている。鉄の槍を放つための装具に付け替えて、魔王軍の将軍を攻撃する。」
「有難うございます。アキさん、疲れていませんか?」
「湘南、大丈夫。アイシャと一緒に魔王軍の将軍をやっつける。」
「はい。それでは、皆さん、お願いします。」
「了解!」
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