第37話サージュ目線2

「何だこれは!?子供だましもいいところだな・・・」

書類を見て呆気に取られた。

あまりにアッシュ伯爵殿杜撰な金の使い方に、怒りを通り越して、笑いさえ出てくる。

リーンの為の支度金の残りは、当然アッシュ伯爵殿の口座にあったが、事業の為ではなく己の私利私欲為に全て浪費していた。

金の流れも報告書に逐一書かれてる。

それと、アッシュ伯爵殿の事業報告書。

さすが、金に細かいシュベルが調べた事だけはあり恐ろしい程に細かい。

先日貰ったアッシュ伯爵殿からの報告書とは、全く違った。

「シュベルが調べに行った所、本部の役員が1度見に来てくれませんか、と必死な顔で言ってきたらしい」

「そこまで追い詰められているのか」

「だろうな」

アッシュ伯爵殿から貰った報告書は、帳尻合わせの為適当にでっち上げたのだろうが、よくもまあこれだけ己の快楽のために金を使えるものだ。

これでは幾ら金があっても足りない上に、取引のやり方が酷すぎる。

引き出しから、アッシュ伯爵殿から貰った報告書を出し、見比べながら本当に笑いが出た。

これ程までに嘲りの気分になったは久しぶりだ。

アッシュ伯爵家は私と商団は違い陶器関係を扱っている。

商団が違えば、たとえ婚約したとしても事業に関しては他言無用の筈が、役員が嘆願してきたとなると余程金がないのか。

これだけ好きなように使えば、取引相手への支払いも滞っているだろう。

「今9月だろ?こっちが毎月送っている金を、中間報告、という名目で去年の3月から今年の9月までの使途を提出するようシュベルが指示してきたってさ。まあ、貰ったところでどうせ適当だろうが、それならそれでこれから突っ込んでいく、とシュベルが楽しそうに言ってた」

「それでいい。監査もどうせ、身内で終わらせているんだろう。外部にはいられたら、どこもかしこも辻褄が合わないだろうから1発で事業は凍結される。それに、シュベルの楽しみを取り上げては可哀想だ」

冷めたお茶を飲み、書類を投げた。

「確かにな。あいつはまさに、天性の取り立て屋、だな。金の回収に関しては、ぐうの音も出ないほど

追い込むからな」

「それは、約束通り資金を使わないアッシュ伯爵殿が悪いから仕方ないだろ。それで?リーン殿と出かけるんだろ?」

何故そこに戻るのだ?

片手に自分のカップ、もう片手ポットをおもむろに持ってくると、まずは自分のカップに注ぎ、次に空になった私のカップに注いでくれたのはいいが、ニヤつく顔にまたムカついた。

「リーンが行きたいと言わないのに、何故行かなければいけない」

「お前が誘えばいいだけだろうが」

言われみればそうだが釈然としなかった。

「リーン殿と出掛けてやれよ。リーン殿は甘えてはいけない、と自分で言ったんだろ?」

「ああ、意味がわからん」

「落ちぶれているんだ。金が無いんだから誰にも頼れない。自分に厳しくしてきたんだろ」

ポットを戻しに行きながら言うヴェルナの言葉に、あの時のリーンの険しい顔が浮かんだ。

前に、自分で稼いでいたと言っていた。自分に厳しく、か。確かにリーンならより、自分に厳しくしそうだ。

「アッシュ家の事は俺と、シュベルでやるからお前はこれからの事をリーン殿と話し合うべきだ」

戻ってくると、机に載っていた報告書をとった。

「それはそれだ。書類を渡せ。私がやる」

「仕事をこれ以上増やしてどうする。最近休み取ってないだろ」

「関係ないだろ。アッシュ家の事は私がやる」

アッシュ家の事は、誰にも手を出して欲しくない、と何故かリーンが脳裏に浮かんだ。

「渡せ!」

立ち上がり手を伸ばした。

「おい・・・。お前、結構面倒なやつだったんだな」

ヴェルナか少し驚きながらも、仕方なさそうにため息をついた。

「どういう意味だ。それを渡せ」

もう一度言うと、渡すこと無くヴェルナはお茶を飲みながら自分の席に戻った。

「心配するな。逐一報告はするし、勝手な事はしない。ともかくリーン殿とゆっくり話しをしろよ。どうせなら明日にでも、一緒に出かけて来いよ」

「何故そんなに行かせようとするんだ。明日でなくてもいいだろ」

「違うな。早い方がいい。女はな、生物なんだ。あとからでは腐って手遅れになる。それと、これは助言だが、リーン殿が何に喜ぶか覚えておけよ。得意だろ?人間観察は」

「なんの意味がある」

「まあ、人の助言は聞いておけ。あとはそうだなあ、恋人同士を見て、何にリーン殿が喜んでいるのか分かればいいな」

「恋人同士?そう言えばセキバヤ殿が私達を恋人、とか言っていたな。それなら出かけなくても別にいいだろ。リーンは私に逆らえないのだし、欲しいものは言うだろ」

「その言い方はどうかと思う。お前の為に動いてくれているのだろう?」

「だったら、別に出かけるのは後でもいいだろう。渡せ」

「いや、でもな。女の気持ちは取引先と同じで、一挙一動で気持ちを読まないと、些細な事で破談になるんだ」

「いや、リーンは取引先では無いぞ」

「だから、例えだ。女はそういうものだ、という事なんだ」

「いや、リーンを女とは思ってな。何故、そんな面倒なことをする必要がある」

「うるさい!!お前が面倒な男だな!ともかく、俺の言うことを聞いて明日は出かけろ、いいな!!俺はアッシュ家の事を逐一報告する。お前はリーン殿との事を逐一報告しろ!!この鈍感男が!!!」

えらい剣幕で珍しく大声を出してきた。

「・・・分かった」

鈍感男?何を言っているんだ?

だが、結局出掛けることは出来なかった。

リーンに、少しして側付きと一緒に街へ出かける約束をしたから頻繁に出かける必要ありません、とにこやかに断られた。




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