第32話サージュ様との会話2
「それと、姉は何しに来たんだ?招待状を持ってきただけでは無いだろう。あなたが出しておいてくれ」
文を渡しながら、眉間に皺を寄せながら質問してきた。
やはり、それ、聞きますよね。短い間だったけれど、お姉様の性格を見ているならそう思いますよね。
本当なら聞いて欲しくなかったけど、聞かれてしまったなら、答えない訳にいかない。
文を受け取りながら、つい目線を外してしまった。
「前日お詫びに送ったお菓子を食べに来たと言っていました」
だんだん声が小さくなり、下を向いてしまった。
「それで、何しに来たんだ?金が足りないとでも言ってきたんだろ。それとも伯爵の伝言を言いに来たのか?」
スルーされました。
と言うよりも、答えになっていないと思われているのだろう。
でも、答えない訳にはいかない。
「・・・本当にお菓子を食べたいと言って来たのです」
沈黙が流れた。
「・・・馬鹿か」
呆れた呟きに、そうですよね、そう思いますよね、と思い、自分の姉だけに恥ずかしかった。
「顔を上げなさい。あなたがそんな顔をする必要は無い。それで?食べさせたのか?」
「いいえ。元々手元にありません。あのお菓子はお詫びの品としてご用意いて頂いた物ですですから、必要のないものは買っていませんので、本当にないのです」
顔を上げろ、と言って下さったので顔を上げると、変な顔で私を見ていた。
「サージュ様?」
「確認するが、自分の菓子を買っていないのか?」
「はい。必要ありません。だって、お詫びの品です」
「いや、食べたいと思わなかったのか?」
「はい。あんな高いもの私には勿体ないですし、それに味見しましたよ。十分です」
「いや、ついでに買えばいいと思わなかったのか?」
「・・・あの、何を聞きたいのですか?私には勿体ないお菓子ですから、買いたいとも、欲しいとも思いませんでした」
何だかしつこく聞いてくるし、答える度に、ますます怪訝な顔つきになるサージュ様に、それでも素直にそう答えると、大きくため息をつかれた。
だが、全く嫌な気分にならない。
「いや、すまない。あなたは本当におかしな人だ。普通は自分の為に少しは買うものだ。その中に本当は欲しい菓子があったのだろ?」
目を細め上目遣いに、たしなめるように聞いてくるから、すこし後ろめたい気分になった。
「あり、ました。でも、元々お詫びの品ですし、お金はサージュ様が出されています。私のような者が口にするなんておこがましいです」
「つまらない女だな」
言葉は悪い。
でも、感情は穏やかだ。
「だが、少しは欲しいものを聞きたい。そうだな、あなたはいつも私の為だと言う。それなら私の為に、あなたが欲しいものを聞きたい。私が聞きたいのだ」
何故そこまで私のことを聞きたいのかは分からなかったが、
私が聞きたい、
と言う言葉はこれまでの中で1番嬉しい言葉だった。
それに、笑ってくれてる。
「あの、では、少しはお金が欲しいです」
「金?」
「はい。街に本を買いに行きたいのです。持ってきた本はもう読んでしまって新しいのが欲しいです」
「では、業者を呼ぼう」
「いいえ!!そんな大袈裟です。本屋でも古本屋に行きたいのです」
「古本屋?」
「はい。安くで手に入るし、本屋にない昔の本の方が面白いのがあったりします」
「それなら屋敷には書庫もある。あなたが気に入る本は無いかもしれんが、昔から置いてある本もあるから少しは読める本があるかもしれん」
「いいんですか!?」
嬉しい!
ずっと入りたいと思っていたが、まだ許可がなく足を踏み入れる事が出来なかった。
「構わん。本が好きなのか?」
「はい。色んな知識が得られます。それを古本屋なら安くで沢山買えるんです!その上立ち読みも出来るのですよ!つまり、ただで読めるんです!まあ、たまに睨まれ・・・。すみません!変なこと言ってますね。えーと、その・・・」
もう、私ったらお姉様よりも恥ずかしこと言っているわ。
立ち読みとか、きっと普通の方はしないわ。
「いや、ただで読めるのはいい事だ。それで金を払って買いたいのか、買いたくないのか、が決まる。見定めは大事だ。金は何時でも好きなだけ使えばいい。言っておく」
「それはダメです!お金は無いから大事に使うのです。それに古本屋で欲しいものを全部買ってしまったら、次の楽しみがありません!!」
また、笑われた。
「わかった。あなたは、本当に変わっているな。では、どうしたらいい?」
「欲しい時に少し頂ければ結構です。でも、出来ましたら、ご一緒に出かけた時に買えたら嬉しいです」
「私と?そうなるとひと月に一度も無いぞ」
え!?
「ひと月に一度あるかもしれないのですか!?十分です。だって、前は1年に2度程しかお買い物出来まきなかったんです!」
また、おかしな事を言ったみたいだ。
笑われた。
「わかった。時間を合わせよう。もうな寝なさい。あなたといると仕事が捗らない」
また、だ。
言葉としては嫌な言葉だが、とても柔らかく優しい。
「はい。すみません」
答える私に、微笑みながらグラスに手を伸ばしたが、また、引っ込められた。
何故?
「それと、アッシュ家から、融資の追加が少し前からしつこく来ている」
その内容にサージュ様は面倒くさそうに、静かに言った。
急に現実に引き戻さた気分になり、申し訳ない気分になる。
「とりあえず、これまでの融資の資金の流れに追求している所だ。あなたに渡した支度金も同じだ。私が納得すれば追加はする。勿論、潰すつもりはないので、心配しないで欲しいが、これからはアッシュ家の者は事前に連絡がない限り屋敷に入れないようにする。勿論あなたが屋敷に呼びたいと思えば呼べばいい」
資金の流れ。
一気に冷静な己が戻ってきた。
そうだ、私は、アッシュ家を建て直し セイレ家を名を上げる為だけに、私はここにいる。
それなのに、少しサージュ様が優しく話をして下さってるからって、素直に甘えてどうするのだ。
私はサージュ様の為に動くと決意した。
それに、先程言われた、仕事が捗らないと言う言葉は私に気を遣い、優しく言ってくれたが結局邪魔をしているんだ。
まだ、役にもたってもいないのに、自分の事ばかり望みを言ってしまった。
とても申し訳ない気持ちになった。
「リーン、どうした?」
ほら、サージュ様が私を心配している。
私は、心配などさせてはいけない人間なのだ。
「あの、先程のお金や出かけるのは無かったことにしてください」
「リーン?」
ここに来て衣服も、食事も、ましてや化粧品、とても優遇されているのに、これ以上望んではいけない。
「サージュ様がお忙しい中、私のような者に時間をさいて頂く訳にはいきません。申し訳ありません」
「何を言っている?別に無理に時間をさくわけでも、対して金を使う訳でもない。どうした急に」
不機嫌な顔になり、問い詰めるように立ち上がった。
「本当に結構です。お心遣い感謝致します。本は書庫で十分です」
お話をしてサージュ様を知りたいというのを、私は勘違いしていた。
「サージュ様」
この方は私の旦那様であり、尽くすべき相手だ。
「私は私を見誤っていました」
知って甘えてはいけない。
「だから、なにをだ」
畳み掛けるよう問い詰めてきた。
「甘えてはいけないという事です。私が、何かを求めるのはお門違いでございます。家を助けて頂いた御恩を全くお返ししていないというのに、厚かましい事を望んでしまいました。申し訳ありません。では、私はこれで失礼致します。あまり遅くならない内にご就寝下さい」
「待つんだ!」
背筋を伸ばし微笑み頭を下げ部屋を出た。
私は、
サージュ様に尽くす為にこのセイレ家へやってきた。
忘れてはいけない。
同情、
という感情を手に入れてはいけないのだ。
愛は、初めから欲してはいないし、私は、誰も愛さないと決めた。
だが、サージュ様に同情を私に感じては欲しくない。
それは、愛と紙一重で、優しく扱ってしまう。
私は、サージュ様にとって、ただの踏み台なのだ。
それが、尽くす事、なのだ。
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