第30話サージュ目線

「待つんだ!」

私の止める言葉に返すことも無く、一点を見つめ、美しくも感情ない微笑みを見せ静かに扉を閉め出ていった。

残された私は、知りもしない焦燥感に襲われた。

何なんだ!?

何故あんなにリーンは急に態度を変えたんだ!?

少し前まで、素直に表情豊かに色々な顔を見せながら話をしていたのに、急に真顔になったかと思ったら、恐ろしいまでに仮面を被った貴族の娘に変わった。

見えない壁があるかのような、手の届かない女に見えた。

融資の話をしたからなのか?

アッシュ家に何か言われているのだろうか?

いや、それなら融資を私に進めてくるはずだろうし、そんな顔ではなかった。

何時もの真っ直ぐな強い瞳と、揺るぎのない感情での拒絶があった。

あの瞳の奥で、何を考えているんだ?

もしかすると、前に私がハンカチの事を怒鳴ったのをまだ、気になっているのだろうか?

あれは、今思えば悪い事をしたと思っている。

私にしたら上級貴族はどれも一緒だ、と思っていた。現に姉は典型的な私の大嫌いな貴族だった。

まさか、姉妹でこれ程までに違うとは思わなかった。

リーンに、怒るのと叱るのは違う、と言いながらあの時私は怒っていた。

それを怖がり、拒否してきたのだろうか?

いや、リーンはそんな事を気にする小さな心では無い、と感じた。

いや、私はリーンの何も知らないだろ。

はあ、と深い息が出た。

バカバカしい。

私は何を固執しているんだ。あの女はたかが手駒の1つだ。

私がもっとのし上がるための、踏み台にすぎない。

サージュ様。

それなのに。

私の名を楽しく呼ぶ顔が離れなかった。

グラスを持つと、中身が零れたが、気にせず飲んだ。ぬるく、美味しく感じなかった。

無理やり飲み干しグラスを置くと、薔薇が目に入った。

新しくしてくれたのだろう。また違う色の薔薇が飾られ、より焦燥感を覚えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る