第31話聞いてみるわ
「素敵ですね」
「本当?そう言って貰えると嬉しい。サージュ様がね、良い陶器の業者の方を知っていたから、どれも素晴らしかったからよね。それにね、その業者のセキバヤ殿がとてもサージュ様を褒めていたのよ。やっぱりサージュ様は見る目もセンスもピカイチよ」
「リーン様は本当にご主人様が1番ですね」
アイに、勿論よ、と答えた。
「リーン様に似合わないその言い方も、ピカイチですよ。どこで覚えたのか、その言葉にセンス無いですね」
ターニャが笑いながら言う言葉に、食堂に笑いがおこった。
「何処がセンス無かったの?」
分からず質問するとまた笑いが起こり、和やかな空気が流れた。
一昨日頼んでいた食器が届き、入れ替えやら何やらで、やっと、今朝から使用出来るという事で、朝食がとても楽しみだった。
そうして、お世辞だろうけど、素敵な食器ですね、と皆が褒めてくれるから、とても嬉しくて、食事もおいしかった。
本当ならサージュ様と1度食事をしたいのだが、いつも忙しそうで、屋敷で食事をしている様子まだ1度も見たことがない。
それに、あの時からまた、サージュ様は冷たい言葉と態度に戻った。初めに会った時程の拒否感と、距離感はない。
それでいい。
馴れ合ってしまったら、サージュ様に迷惑がかかり、邪魔になる。
私は只サージュ様を足元で支る事が本望であって、私自身に価値はいらない。
そう思っているのに、優しく私に微笑んでくれた顔が浮ぶ自分に、戸惑っていた。
「なんか、凄くリーン様にその食器よく似合ってますね」
ターニャが少し離れたところで、感嘆のため息をつきながら言った。
「私も思ってました」
「やっぱりリーン様は貴族のお嬢様ですね」
「だよね」
そんな声が飛び交い、その言葉に不安な感情が入り、何人か表情を曇らせた。
「言い方はもしかしたら失礼かもしれないけれど、私は貴族の家で育ったから、皆からは違う世界の人に見えるかもしれないわね」
皆が何を言わんとするか、空気でわかった。
食器と言うよりも、誰がその食器で食事をするか、だ。
同じ食器、同じ料理でも、食する者が、庶民と貴族では、全く見え方が違う。
ここで働いている召使い達は庶民ばかりで、きちんとした教育を受けている者は少なく感じる。
ターニャやクリンは学校に通わせて貰ったのだろう。読み書きが出来るが、どちらも出来ない召使いもいる。
私を妻として迎えるなら、それ相応の貴族の方達との付き合いや、屋敷に訪問がある中、不安を覚えるのは当然だ。
その時に、相手ができるとは思えない。
婚約披露まであと、3ヶ月と少し。その婚約披露もこのままでは明らかに失敗に終わるのは目に見えている。
恐らく私を目の当たりにしてより、不安は募るだけだ。
実際メイド長アイの動きは、私が見る限り、まだまだどころか、相手へのもてなしの誠意も気品も全く感じない。
ただ、手馴れているだけ。
「そうね、アイこちらへ」
「はい、何でしょうか?」
私に食後の紅茶を入れようとポットを持った姿を、手でとめた。
「背筋を伸ばし、顎を引いて。まだ伸ばして、もう少し顎を引いて。そう、それでいいわ。そのまま右手でティーポット持ち、左手で蓋を持つのでは無くて、茶こしを持って」
「手で、ございますか?零しそうです」
「それが本来の入れ方よ。さあ茶こしを持って」
「は、はい」
「ゆっくりと入れて。顔が怖いわ、笑ってね。背筋がそのままが大事だよ。ほら、また曲がった。伸ばして。なるべく顔を動かすのも最低限よ。目で色々見るのよ。そう、本当にゆっくりでいいわ」
アイは私の言うとり、ぎこちないながらもお茶を入れ私の前に出してくれた。
「凄い!!綺麗でしたよ!!」
「本当に?でも、肩がこるわ」
クリンの言葉にアイは苦笑いしながら肩を動かしながら、得意気に笑った。
皆凄い、凄い、と言ってくれたが、こんな程度では貴族の相手は務まらない。
正直この現実は酷すぎる。
「前にご主人様に貴族の方の相手ができるようにしないといけないのでは、と聞いたことがあったのですが・・・」
アイが不安そうに言った。
「何て答えられたの?」
「必要ないと。我々は我々だ、と」
「そ、う」
答えそうな言葉だ。
「でも、皆不安なんです」
「そうでしょうね。アイ、そういえば婚約披露の準備はどこまで進んでるのか知っている?私何も聞いていないから知らないのだけど」
「分かりません。ご主人様とエッシャー様がどのような話をして、どこまで進んでいるのかは、何も聞いておりません。前にエッシャー様に聞いた時、その事はご主人様が話を嫌がるから、と言われ聞きずらくなってしまったのです。宜しかったらリーン様少し聞いて貰えませんか?」
皆とても不安そうだ。
「私も気になるから少し聞いてみるわ。とりあえずエッシャーに会いたいからどこにいるか知ってる?」
「恐らく、3階の書斎だと思います」
書斎かぁ。書庫の隣だな。でも、書庫と執務室には1人では入るな、と言われてが、エッシャーがいるなら大丈夫だな。
午後から温室に行きたいから早目の方がいいな。
「じゃあこれから行ってみるわ」
私は少し冷めたお茶を飲みながら言った。それから直ぐに書斎に向かったが、何度扉を叩いても返事がなく誰かがいる様子が感じられなかった。
仕方なく諦め、私は部屋に戻った。
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