第28話お姉様の訪問2

「メイド長が、客間に通したとの事です」

「そう。では準備してくれる?」

先日のお茶会を思い出し、本当は会いたくなかったが、そうもいかないし、一言くらいは文句を言いたい。

「はい、リーン様」

ターニャは困惑した顔で返事をしたがすぐにクリンを呼び、2人で身支度を整えてくれた。

そして、すぐに客間に向かった。

部屋に入ると、お姉様はソファで優雅にお茶を飲んでいた。

「お久しぶりですね、お姉様。病はもう宜しいの?今日はどうされたの?」

質問しながら前に座った。

よくセイレ家へ顔が出せだと、呆れる。

元々サージュ様に苛められ、精神的におかしくなった、という身勝手な理由で私に変えたのだ。

たとえ病が嘘だとしても、それを大っぴらに皆に教えているのだから、常識に考えてセイレ家に来れるわけが無いのだ。

まだ、病弱のフリをして現れるならともかく、血色もよく、とても元気の様子だ。

何をしに来たの?

「ねえ、お菓子はまだかしら?早く出してよ」

私にお茶を出すターニャに声をかけている。

「お姉様、病はもういいのですか?約束もなしなんて、何かあったのですか?」

もう一度聞いた。さすが私の存在を無視するかのような態度に、少し苛立ってきた。

「ねえ、お菓子よ。皆様に送った、豪華なお菓子を出してくれる?私も食べたいわ」

早く出しなさいよ、と無邪気にあまい声で催促してくるが、変わらず上から目線の我が物顔だ。

「お姉様、まさかだったそれだけの為に訪問されたの?」

「あら、当然でしょ?皆様とても美味しい、と教えて下さったのよ。見たことも無いお菓子と、包み紙だった、と自慢されていたわ。姉である私に送ってくれると待っていたのだけれど、待てど暮らせど送られて来ないからわざわざ私の方から来てあげたのよ」

その内容に安堵した。

返事の手紙には気に入ってくれた、と書いてあったが社交辞令かもしれないと不安だったが、お姉様にも同じように伝えてあるなら間違いない。

嘘ではなかった。サージュ様、良かったです。

「ちょっとぉ、聞いてるの?ねぇ、まだなの?」

何時までもたっても何も出てくる様子もなく、部屋にいる召使い達も動く気配が無い為、機嫌が悪くなってきた。

手持ち無沙汰に、またお茶を飲み私を微笑みながらも、目が怖かった。

お礼を気に入ってくれたのは嬉しいが、まさかたかが本気でお菓子食べたさにやってきたの?

いや、お姉様はするな。

私が高価なお菓子を送った、というのも気に入らないし、本当かどうか確かめに来たんだ。

「ないわ」

「ないわけないでしょぉ?普通にここで食べているのを送ったんでしょ?ああ、もしかしてセイレ男爵から出すな、と言われているのね。ふふっ、大丈夫よ。私何も喋らないから」

「だから、ないわ。あのお菓子はお茶会で失礼があったから、お詫びとして送ったの。それもサージュ様にお願いして、特別に手配して頂いたの。あんな高価なお菓子普段食べれるわけないでしょ?それに元々お姉様が手紙を」

「サージュ様?」

嫌な笑いで私の言葉を遮った。

「なるほどねぇ」

意味深な言い方で口元を上げた。

「男を上手く手玉にとるのが上手いのね、リーン」

「手玉?なんの事よ」

「あら、マーベルと別れて寂しくて今度はサージュ様に取り入ったんでしょ?」

何故マーベルを知っているの?

いいえ、落ち着くのよ。

もう、マーベルとは関係ないもの。

「ふうん。そんな顔するという事は、付き合っていたのは本当だったのねぇ。大人しい顔して裏では、何しているんだかわからないわ」

「違うわ。マーベルとはお付き合いはしていないわ」

その前に、こんなことになってしまった。

「いいわよ。いいわよ。口ではなんとでも言えるし、もう終わった事だもね。そうそうこれ、渡しておいて、と頼まれたの。そのサージュ様とやらとご一緒に参加して欲しいのですって」

見たことも無い可愛らしい鞄から、手紙を出し私にほおり投げたきた。

「なんて事を!」

背後で控えていたターニャが声を上げ、こちらに動いてくる気配を感じ手を挙げ静止させた。

結局手紙はしたに落ち、拾い確認するとハラリヤ伯爵家の家紋の封蝋が押されていた。

この時期の手紙の内容は、ハラリヤ伯爵様の誕生日パーティーの招待状だろう。

「あらあら、なぁに?もう奥様かしら?もしかしてリーンたら、本当にそういう事に長けていたの?良かったわぁ。リーンが婚約者になってサージュ様と上手くやってくれているのね。助かるわ。男なら誰でもいいのね」

「あんな男、では無いわ。それにお姉様が名で呼ぶのはどうかとおもうわ。セイレ男爵様、と呼んでもらえるかしら?それよりも、どうして、酷い事を手紙に書いたの?お陰でお茶会が酷いことにはったわ」

「あらぁ?私は本当の事を書いた迄の事よ。リーンと私の捉え方が違うだけ。私は虐められた、と思ったからそう書いたのよ。事実よ。嘘ではないし、あなたは汚い女の魅力で、その男を手に入れたのでょ?」

「でも、人を否定する書き方は良くないわ」

「否定?否定できるほどの価値なんてあの男にはないわ。だから、私の下僕にしてあげようとしたのに、下らないプライドを持っているからそれ相応の態度と、価値を皆様に教えてあげただけよ」

「人の価値は、誰もが平等よ」

「何時ものようにいい子ちゃんね。それが気に入られたのかもしれないわねぇ、あの男に、そのマーベルとかいう低級貴族にもね。あらあら、低級貴族ばかりが得意みたいね」

「そんな言い方やめてよ」

「うるさいわねぇ。何を怒ってるの?褒めてるよ。私と違って、殿方に相手されなくて可哀想だと思っていたのに、存外そうでも無かったのね。もういいわ、この話はおしまい。あなたの話なんて興味ないわ。私はお菓子を食べたくてきたの。さっさと出しして下さる?こんな汚い屋敷に長くいたくないわ」

「ないわ」

だったら来なければいいのに。

「無いわけないでしょぉ?そんなお詫びのためだけに頼む愚か者なんていないわよ。自分が楽しむ為に頼むものよ。それにその服も、その化粧も何?」

持っていた扇子を私の顔に向けて来た。

初めて見る行動に、冷静な口調だが思っている異常値機嫌が悪いようだ。

「いい暮らしになっているみたいね。だったら、お菓子くらいあるしょ?」

まだしつこく言ってくる。本気で、たかだかお菓子を食べたいだけに、わざわざ、病の元凶の場所にノコノコやって来たのだ。

何処までも自分中心の考え方に、腹が立ったし、変わってないわね、とため息が出た。

「なぁに、その顔。酷いわ。どれだけ私があなたを心配して、お茶会を開いて下さるよう願いしたか分からないの?男を手に入れる為に、都合のいい様に私の事を悪者に仕立てあげたいのでしょうけど、残念だけど誰も信じないわよ」

当然とばかりに卑下した言い方に、前なら俯き、大丈夫よ、と自分に呪文のように言い聞かせていた。

腹が立つよりも、諦めの感情が勝り、歯向かった所で誰も自分の味方はいない。逆に罵倒されるのを理解していた為、それなら波風立てず我慢した方が賢いと思っていた。

でも、不思議だ。

今はそんな気持ちより、

私は、サージュ様の為に動きたい。

サージュ様の為に、尽くしたい。

その言葉が自分を、強くする。

「ねえ、お茶のおかわりも入れて下されないの?セイレ男爵家は当主と同様、メイドも躾がなってないわね」

空っぽになったカップを持ち上げ、馬鹿にするよう

にターニャに向かって言った。

「ターニャ。入れなくてもいいわよ。お帰りになるわ」

「はい、リーン様」

即答と共に、はい、どうぞ、と扉を開けてくれた。

早く帰れ、と睨んでいた。

私の言葉とターニャの態度にお姉様は頬を引らせ、立ち上がった。

「セイレ男爵の側にいて、身も心もおかしくなっているわね。ああ、やはり私には無理だったわ。でもねぇ、リーン。あなたは高貴な血を引くアッシュ伯爵家よ。今の己がどれだけ血迷っていたのか後悔する日が来るわ。その時は、覚悟しておきなさいよ」

不思議だ。

お姉様の言葉が全く真実味を感じない。

「お姉様、次にいらっしゃる時はご連絡下さい。その時お菓子を用意しましょう」

「いいえ、2度と来ないわ。あなたが、土下座してやってくるのよ。その時は食べきれないほどのお菓子を持ってきてね」

いつもより早口で言うと、足早に出ていった。

「・・・強烈な人ですね」

呆れるターニャに苦笑いしか出なかった。

「そうね。変わってないわね」

だが、お姉様の頬が好調し口調が何時もと違った。

私がこれ程に、反論し口答えをするとは思っていなかっただろう。

私を見る眼差しが、侮蔑の中に、苛立ちが含まれていた。

結果的に、お姉様は何一つ望んだ事を叶えられなかった。

私が叶えなかった。

私が、変わった?

そう、だ。

サージュ様の為に、

私は変わった、のだ。

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