第26話サージュ目線1

「おかえりなさいませ、サージュ様!」

「あ、ああ」

リーンは恥ずかしそうに、それでいて意気込むように言い、私に微笑んだ。

恐らく私が帰ること聞き、待っていたのだろうが、既に夜中の12時は過ぎていたにも関わらず元気な声がホールに響いた。

いつもなら、執務室でエッシャーが私の帰りを待っているはずが、今日は、玄関ホールでリーンが私を迎えに立っていた。

少し離れた場所でエッシャーが珍しく不安そうな顔し、こちらを凝視している。

リーンが無理やり頼み込み渋々承諾しました、とありありと顔に書いてあり、仕方がなかったのです、と言い訳したいのだろう。

ゴマすりが見え見えだが、腹が立つ事に全くそんな素振りは見せず、純粋に私を待っていたかのように見えるのが、胡散臭い。

「鞄持ちます」

「いや、無理だ」

書類がぎっしりと入り、私でも重いと感じるのだから、細腕のリーンには無理だろうと思い言ったが、そうですか、と残念そうな顔をした。

それを見て、何故か悪い事をした気分になり、仕方なく上着を渡すと、嬉しそうに抱きしめるかのように受け取とり、私の後をついてきた。

本当に変わった女だ。

上級者貴族の娘は嫁いでも主人の帰りを待たない、と聞いていた。常に己を中心として動き、全て召使いに任せていると聞いている。

そう考えると、リーンは?

ふと見ると、私に話しかけて欲しそうな顔をしながらも目が合うと、慌てて逸らし、また、私を見る。

変わっている?

その言葉で片付けるにはしっくりこないが、嫌な気分にはならなかった。

「どうした?」

3階に上がるとリーンが脚を止た為、声をかけた。

「あの、私はこれ以上入る事を許されておりません」

しっかりとした言葉で真っ直ぐに立ち、私に上着を渡すかのように上げた。

ああ、そうか。この階に入ることを許可していなかったな。

上着を受け取ると、その表情から何か伝えたい事があるように感じだが、わざわざそれを私から聞く必要もない。

「そうだな」

「あの、少しお時間を頂けませんか?」

「大切な話か?」

「先日のお詫びの品を送りました事について返事が返ってまいりました。その事で報告をさせて頂きたいことがございます」

成程。だから、わざわざ私の帰りを待っていたのか。

「宜しい。では、来なさい」

「どちらへお伺いしたら宜しいでしょうか?」

やはり頭は悪くは無い。どちらへ、と確認するのは己の立場を理解している。

己がこの階の出入りを禁じられているのを理解している上で、ここでは無い他の部屋を指示され、迷わず向かうという事だ。

曖昧な状況の中で、下手にこの3階や、部屋に入り、己の立場を悪く思われたくない、と示している。

「私の執務室で聞こう」

「宜しいのですか?」

驚き嬉しそう微笑むリーンに、早すぎたな、少し後悔したが言った手前引っ込める訳にはいかない。

「嫌ならいい」

「嫌じゃありません!」

「静かにしろ。何時だと思っている」

すかさず否定してくるリーンの声が少し大きく廊下に響き、耳障りに感じた。

疲労が溜まっている中、女の感情的な声はより疲労を大きくする。

「す、すみません」

しゅんとなり下向く姿に、ため息しか出なかった。

無言で踵を返し執務室に向かう私の後を、小さな足音がついてきた。

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