第24話サージュ目線

「明日はドレスの仕立て屋を、明後日は菓子と雑貨の業者が来るように手配した。リーンの好きなように、好きなものを買わせてやってくれ」

「かしこまりました。メイド長に話を通し、そのように致します」

複雑な顔をしながらも、酷く怒りを見せるエッシャーが返事をした。

リーンから聞いたお茶会の様子を説明したからだろう。誰が聞いてもいい気分になれないだろうが、私にすれば、やはり貴族の女は低レベルだ、と胸くそ悪かった。

「そうしてくれ」

「中々陰湿でございますね」

「女の世界とはそんなものだろ」

「とんでもございません。奥様も、いいえ、先々代の奥様もその様な陰湿な仕打ちはされた事はございません。いつも、和やかで楽しそうに過ごされておいででした」

憤慨するエッシャーに、母上の楽しそうな顔が思い出される。

懐古の念に囚われる。

幼い時に亡くし為、思い出は少ないがそれでも母上が嬉しそうに茶会に出かけて行ったのはよく覚えている。私が連れて行って欲しい、と幾度もねだり泣いたにも関わらずあまり、連れて行ってはくれなかった。

茶会に子どもを連れて行けば、自分がゆっくりと楽しめないと、とはっきりと私に言った事があった。

母上は、今思えばとても子どもっぽい方だった。

自分が気に入らなければすぐに駄々をこね、父上に愚痴を言っていた。それを父上は全て叶えてあげていた。

仲むずましく常に笑っていた。

「上級貴族令嬢だからだろうな。あいつらは昔からの地位に運良く乗れた事を、まるで己のお陰かのように振る舞う厄介な奴らだ」

「噂だと思っていましたが噂通り、という訳でございますね」

「そうだろうな。高みの見物、とあぐらをかいた愚者共だ。もういい下がってくれ」

ウイスキーを飲む。

アルコールが口と脳に巡り、頭が冴えてくる。

「では、失礼致します」

エッシャーが会釈をし部屋を出ていった。

パラパラと書類を確認しながら、昼間のリーンが脳裏に浮かんだ。

いい手駒が手に入った。

リーンは頭がいい。

頭がいいとは、言葉通りの勉学に勝っている、という意味ではいのだ。

無駄のない説明。

無駄のない感情。

無駄のない観察力。

無駄のない解決策。

泣かない女。

リーンにはそれが全て揃っていた。

私が求めていた、上級貴族の女だ。

それも、私を立ててくれ、控えめで、見た目も悪くない。

いや、十分かもしれないな。

正直私は女には興味がないが、やはり誰でも言い訳でないな、と自分のことながら思った。

側に立つ女はそれ相応でなければいけない。私の仕事に些細な弱みを出せば後々脚を引っ張られる。

前の来たリーンの姉は、最悪だった。

リーンは私好みの、綺麗ながらも可愛らしい容姿をしているが、姉は、無駄に派手な化粧をした、綺麗、というだけの女だった。

それも我儘三昧に育ち、高飛車で、男を己の下僕かのように扱う、典型的な上級貴族の娘だ。

その結果が、今回の茶会。

私と性格が合わないのは、初めて会った時から分かっていた。回数を重ねる事に、私を気に入らないのがわかった。

それがある意味面白かった。

自分の思い通りにならない現実に焦り、苛立ち、ヒステリックになる。

単純明快な行動と感情に、楽しめた。

しうして、リーン、に交代。

「売られた喧嘩は買おう」

つい口に出た。

余程私が気にいらず、実の妹までも使い貶めようとしたんだろう。あの女なら自分さえ良ければ肉親さえも、都合よく使うだろう。

と言うことは、アッシュ伯爵もそうか。私がリーンに渡した支度金を上手く横流し私服の為に使ってるのだろう。

姉との婚約が決まった時に、支度金と事業の融資、という名目で一気に金を渡したが、簡単な資金の流れの報告書をもらっただけだ。

すこし、つついてみるか。

だが、リーンが本当に金を受け取っていないかどうかも調べて見る必要はあるな。

実際リーンの名義ではなく、アッシュ伯爵家の名義に金を送ったが、その後どう金を流したかはまでは調べていなかった。

裏でリーンの口座に流し、あの女も腹黒な事を考えているかもしれない。純情そうに見せて、誰をも取り込み操る。

虐められていたのでは?

というエッシャーの言葉にが浮かんだ。

そう見せているのか、実際そうだっかはこれからリーン調べれば分かる事だ。

結果虚偽が暴かれれば、それを手にこちらの言うように動かせばいい。本来なら、最も望ましい状況だ。

婚約者をリーンに変更してきたのはあちらさんだ。そうして承諾書類にサインし王宮からも、承認された今、

つまり、リーンは私の手駒だ。

私が使って当然の物を、家族だからといっても既に他人となれば、人の物を持ち主の許可なく勝手に使うのは犯罪。

売られた喧嘩は買ってやる。

そのかわり、買った喧嘩を負けるつもりは無い。喧嘩は勝ってこそ、買うべきだ。

ぐい、と一気にウイスキーを飲み干した。心地よい熱さが、喉と胃を潤してくれる。

ふと、時計を見ると既に2時になっていた。

今日はこれ以上書類を見る気にはなれなかった。

机に広がった書類を片付けながら、隅に置かれた花瓶に生けてある薔薇か目に入った。

祖母と母上が好きだった、中央が桃色の周りが色という変わった色の薔薇だ。

ラテが珍しく嬉しそうに持ってきてくれた。気に入る助手が入ったと言っていたな。

あいつもエッシャーと同じく昔からこの屋敷に務め、人を見る目がある。

温室、か。

父上と母上が亡くなってから辛さの為全く脚を向けていない。ラテには申し訳ない思っているが、まだあそこに入る自信がない。

空になったグラスにウイスキーを入れる。

また、薔薇が目に入り、少し暖かい気持ちになった。



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