第21話落ち込んいます1

なるだけ気を紛らわそうと私は、庭を歩いていた。

2日前に茶会が終わり、ご主人様は明日か明後日には帰ってくると教えて貰った。

ふう。

いけない、と思いながらもため息が自然に出てきた。

私があまりに顔色が悪いのを皆が心配し、あれやこれやと労わってくれる言葉をかけてくれた。

自分の失敗を顔に出してしまって、屋敷の人達に気を使わわせるなんて、まだまだ子供だと、また落ち込み、ため息がまた出た。

部屋にいると悪いことばかりが脳裏に浮かび、その姿を見て、屋敷の召使い達が気を遣う姿に、申し訳なく、逃げるように部屋を出た。

屋敷の三階にあるという書庫に入れれば少しは気が紛れるだろうが、三階に行く事は禁止されている。旦那様の執務室や旦那様の部屋があり、仕事の邪魔になると言われた。

深夜頃に帰宅するのを知っているだけに、案に私を避ける為の口実なのだろう。だから、私と外に出かけたのだろう。部屋に入れる事を嫌がったのだ。

それでも、ゆっくりと時間をかけて近づければいいと思っている。

ぼんやりと庭を歩くが、素敵なはずなのに色褪せて見え、全く記憶に残らなかった。

後悔するのは、私の身勝手さ。

やはり旦那様は私を試していたのだ。

相談、

という基本を私がしてくるのを、

試していたのだ。

それを私は無視した。

「もう・・・私って・・・バカだ・・・」

あれだけグラスには、

気になった事は必ず誰かに聞きなさいよ、後から絶対に後悔するから、

と言っていたくせに。

「私が・・・後悔してるじゃない・・・」

久しぶりにここまで落ちこんだ。

だってどこをどう見ても、私が悪い。

もう少し要領良く答えから良かったのかもしれない。

はあああああ。

今更、か。

早く旦那様帰ってこないかあ。

早く謝りたかった。

歩いていくとよく部屋のベランダから眺めていた温室が目の前に出てきた。

硝子張りのかなり広さがあるだろう、大きな温室だった。

近くにより中を覗き込むと、色とりどりの花が見え、小さな机や椅子もあり、アーチも見えた。

でも、あまり手入れをされてないせいか、枯れている花も見えた。

「誰だ?」

硝子張りの前でうろうろと入口を探していると、年配の男性の声が背後から聞こえ振り返った。そこには細長い、と言うに相応しい、痩せた背の高い年配の男性がたっていた。

風貌から見る限り、庭園の手入れをしている召使いなのだろう。ゆったりとした濃い服に、土の汚れが見えた。

誰、と聞かれ答えに困惑した。その質問するという事は私を知らないのだ。

特に屋敷が広く働く召使いが多ければ多いほど、往々にある事だ。

屋敷で働く全ての召使いが情報を共有している訳ではない。屋敷の中で働く者達はある程度執事やメイド長が連絡をしているだろうが、このような外の仕事に従事している人達は、かなり遅くなってから耳にする事がよくある。我が家では有り得ないが、お爺様の屋敷ではよくあった。

お姉様の代わりに来た婚約者です、といえば早いだろうが、旦那様に婚約者がいる、という事も知っているのだろうか?

でも、婚約者です、と言うと初めて来たと思い誤解が生まれるかもしれない。

いや、時間が経っているから婚約者がいる事くらい知っているだろう。

それとも、始めから説明した方がいいのだろうか?いや、始めと言えば、庭の探索は許されているが温室に入ってもいいと言う許可は得ていない。

そう言えばここに来るまで、召使い達をあまり見ていないような気がする。もしかしたら、ここには入っては行けないけなかったのだろうか?

これも、試されているのだろうか?

もしそうなら婚約者、と言うのは控えた方がいいのかもしれない。

では、では、そうだわ!

「見習いなんです!」

色んな意味で使える言葉だ。何か言われても、婚約者としての見習いみたいなもの、と答えればいい。だって、まだまだ婚約者です、とはっきり言うには先が長そうだもの。

「ああ、そういう事か!お前さんが、変わりの者か」

私が、答えにあぐねき導き出した答えに、男は嬉しそうに声を上げた。

良かった。どうも私が変わりの婚約者、と理解してくれているようだ。

「そうなんです。宜しくお願い致します」

「そうか。では、中を案内しよう」

「はい、お願いします」

男性は、ポケットから鍵を出し右に少し歩くと硝子張りのひとつにその鍵をさし、ぎぎっとその硝子貼りの1枚扉を開けた。

嬉しい。中を見てもいいのだ。

「ほら。早く来い」

「はい」

その男性の後からついて行き、中へはいると、湿気を感じたが、濁った空気では無く、香しい甘い香りと、爽やかな香りが肌を包んだ。

だが、外から見たように、枯れている花が所々あり、また、足元に敷かれた石畳もくすみ汚れていた。

中の温度や湿度、風の取り入れ方が素晴らしいだけに、とても寂しい気持ちになった。

「その入口の花壇から草を抜いていくんだ。いいか、全部だ。つまり、ひとつ残らず、サボらずに抜くんだ。わしは奥から花の手入れをしてくるから、いいか、サボるんじゃないぞ。わしが見ていないからと言ってサボったらすぐ分かるからな」

男性はしつこくさぼるんじゃないぞ、と言うとさっさと奥へと歩いていった

「草、抜き、ですか?」

残された私は、ぼそっと呟いた。

どうも話が噛み合ってなかったみたいだわ。

私の言った、見習い、というのをこの温室の手伝いに来た見習い、つまり、あの人の助手的な感じで思っているようだ。

まあ、いいか。

草抜きは、得意よ。だって、屋敷で家庭菜園をしている時雑草は天敵で、よく抜いていた。

あいつらは、水が少なくても元気にどんどん伸びてきて、私達の大事な食材達の成長を邪魔してくる、悪魔のようなやつだ。

それも、抜いても抜いても、私の根気を試しているかのように、ひょっこりと芽を出してくる。

虫に食われたいいのに、と思うけど、虫達も嫌って食べもしない。

「むかつくわ!」

目の前に咲いている綺麗な百合の花の下に、その悪魔達が笑っている。

「退治あるのみ!」

ぐつと、腕まくりし私は必死に草抜きに没頭した。


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