第20話レーン目線
「なに、それ・・・うふふふふふふ。面白いわ。うふふふふふは」
お、腹いたいわ。
もう、リーンたら期待を裏切らないわね。
残念だわ、この目の見たい景色ね。
いつも澄まして、微笑んでいて、何1つ不自由なんてないわ、といういい子ちゃんの鏡みたいなリーンにいつも、イライラしていた。
お母様にそっくりで、2人の顔を見る度に腹がたった。
これ程までに惨めな生活を送っているというのに、常に平然とし、まるで私が我儘を言っているみたいな、嫌な気分にさせた。
違うわ。
お父様は必ず成功する人だわ。親である父を信頼しないでどうするの。
成功した時、私達は華々しく社交界に君臨する。
いつ、その瞬間が来てもいいように相応しく振る舞わなければいけないのに、わかってないのはお母様とリーンの方だわ。
もっと賢く、上手く立ち位置を考えば宜しいのに、馬鹿正直に、現状しか見ないとは、狭い思考しかないからだわ。
「ふう・・・もう、笑ったわ・・・。お腹、痛い、わぁ」
「ふふっ。笑いすぎですわレーン様。でも、私も真っ白な顔で帰っていくリーンを見て、笑いをこらえるのに必死で、下をずっと向いていましたもの」
「酷い人ねぇ、親友のくせに」
「勿論、親友ですよ」
意地悪そうにアニス様は笑いながらお茶を1口飲んだ。
屋敷に、約束通りアニス様が遊びに来てくれた。
病に伏せっている、と社交界で流れている為、外に出歩けないからつまらないけれど、手紙を書いたり、友人達が遊びに来てくれるから差程暇ではなかった。
昨日のお茶会がどうなったのかアニス様が教えてに来てくれたのだが、もう面白いくて、笑ってしまったわ。
あの3人もよくやってくれましたわ。お菓子とお茶を落とすなんて、素敵。
きっと惨めに思いながらも必死に無理して笑っていたのでしょうね。
目に浮かぶわ。
見れなくて本当に残念ね。あの、いい子ぶっている清純な顔が歪む時、どれだけ私が興奮し、満足するか教えてあげたいわ。
「よく言うわよ、親友がこのような事考えるなんて聞いた事ないわよ」
私の言葉に一瞬アニス様は、恍惚な微笑みを浮かべたが、直ぐに爽やかな微笑みに戻り、私を見た。
全部アニス様が考えてくれた。
私があのような男と婚約するのが嫌だわ、と言っら、だったらリーンと変わって貰ったら、提案してきた。
初めは耳を疑った。
アニス様は幼い時からリーンの親友でとても仲が良いいのを側で見ていたから、信じられなかった。
だがあまりに真剣にその提案をしてきたから、訳を問い詰めた。
そうしたら、
リーンがいなくなったら、
私がマーベルと付き合えるのよ、
と忌々しそうに言われた時、初めて知った。
あのリーンが付き合っていた男性がいたなんて驚きだわ。
「だってレーン様がお困りだったでしょ?それだったら私にも得になるように考えただけですわ」
「ふふっ、本当にいい考えね。皆様にあの男に虐められたから、リーンを助けてあげて、と書くだけで宜しいなんて、本当によく思いつきましたわね」
「だって、皆様リーンの事あまりお好きではないじゃないですか」
他人事、と言うにはあまりにも毒々しい話し方だ。
「その通りよ。模範生過ぎて面白くないわ。でも今回のお茶会のおかげであの男も、リーンも誰もが目に止まらななればいいのよ。本当はお金もなく落ちぶれて欲しいけど、そうなるとお父様や事業が困るから、私が良い方を見つけるまで、もってくれたらいいわ」
まあ、とクリス様は楽しそうに笑ってくれた。
「レーン様お元気になられましたね。病はそろそろ治るのですか?」
「ふふっ。そうね。あなたのおかげでこんなに上手くいくなんて、楽しいわね。もうそろそろ出てもいいかしら、と思っているわ。2ヶ月近く屋敷に篭ってるんだから、十分でしょう。それに殿方が私を待っているわ」
「そうでしょうね。レーン様はいつも殿方に声掛けれていますもの。人気者ですもの」
「お互い幸せになりましょうね」
「ええ勿論ですわ、レーン様」
私達は顔を見合せ楽しく笑いお茶を飲んだ。
「そうだわ、そろそろハラリヤ伯爵様の誕生日でしょう?」
つまり、アニス様のお父様だ。正直ハラリヤ伯爵家は大した事はないが、腹立たしい事に資産はある。あの男と一緒で、昔からの事業が今も尚、成功したしている。
「はい」
「ねぇ、セイレ男爵家にも送って上げてよ」
「そこで、虐めるのは、乗り気がしません」
「何故?」
「マーベルも招待しているので、リーンが虐められるのを見たら助けるでしょう?」
アニス様は面白くなさそうに語気を強め言った。
ふうん。嫉妬、ね。
ようは、顔を合わせた時、その男がリーンを見る顔を見たくないのね。男の方はまだ未練たらたら、と言う訳か。
都合がいいわ。
「違うわよ。リーンとあの男が一緒にいるのを見たら、諦めがつくのではないの?そこでアニス様が慰めて上げればいいのよ」
「あ・・・そう、ですね。それは、いい考えです。マーベルは今もリーンの事を心配しているのです。望みもしない婚約をさせられて可哀想、だとしつこく言っているのです」
「あら、あら、酷い人ね。近くに素敵な女性がいるのに気づかないなんてね。だったら、気づかせてあげないとね」
「気づいてくれるでしょうか?」
不安げな瞳ををさせ、持っていたカップが揺れた。
人の気持ちは、手に現れる。
余程、マーベルとかいう殿方をお好きなのでしょう。
男が絡めば、友情、なんて脆いものね。
望んだ男を手入れる為には、友情も、薄氷のようなものかもしれない。
ほんの微妙に触っただけで無数のひびがはいり、崩れいく。
クリス様を見て、より実感した。
人間は望むものの為に、心は正直、になるのよ。
己の感情を最も優先し、そのためには、何を無くしても厭わない。
可哀想なリーン。あの子は心からクリス様を大切な友人と思い、素直に相談していたのでしょうね。その相手は忌々しく思っていたなんて、気づかなかった。
それも、人を疑う事を知らない純粋過ぎるあの微笑みが、より、クリス様の心を抉っていたとは、知らないんて、
笑わせるわ。
現実を知らなすぎるわ。
「大丈夫よ。だって、リーンはいい具合に融通が効かない性格よ。お家の為とはいえ、婚約した身であれば下手な事も言わないわ」
「でも・・・リーンはとても好きだったんです。だから、会えば心が揺れるかもしれない」
揺れているのはあなたでしょ?
みっともない姿に、嫌悪感が走った。
萎む気持ちで色々考えるなど、無駄。それは、手に入らない、と理性が理解しているからだ。
つまらない男にうつつを抜かし、焦燥と落胆を繰り返し、縋るような女は、直ぐに捨てられる。
愛など、感情など、必要ない。
要るのは、お金、だけよ。
不変的で、常に、輝き、心も身体も満足させてくれる。
「大丈夫よ。その時は、私が上手くいってあげるわ」
「本当、ですか?」
「ええ、勿論よ。リーンは婚約した身、忘れるべきよ、とはっきり言ってあげるわ。姉である私が言えば、納得するしか無いわ。そこで、アニス様が気分転換に、とでも言って2人で出かければいいわ」
「いい考えですわ」
私の言葉に目を見開き、嬉しそうに言ったアニス様に、微笑み返した
私も2人の恋が実ればいい、と望むわ。
アニス様は暫くその男の事を惚気けるように話し、何度も、約束ですよ、と念を押し帰られた。
覚めた残りのお茶を、アニス様のカップにいれ、新しいお茶をカップに注いだ。
美味しい。
アニス様が手土産に持ってきたお茶だ。
でも、私に似合わない。もっと上等なものが私に似合う。
そう。
この世は、相応しい女性には、相応しい殿方が、産まれた時から決まっている。
運命、必然?
まあ、いいわ。
それは、愛だの恋だの、と言う感情など必要ない。いや、もとより、そんな感情を抱いた所で叶う事が少ない。
だから、私がセイレ男爵と反りが合わなかったもの、始めから決まっていた事。
レーンが、低級貴族の男と結ばれなかったのも、決まっていた事。
レーンが、セイレ男爵に私の代わりに行くことも、決まっていた事。
私には相応しい舞台が用意されている。
それもまた、決まっている事、よ。
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